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☆ ひと時の距離(BGSB)



※守理とさわお君というか守→さわ……
 反省はしている。後悔はしていない!!!!!!!



 ずっと見ていて気付いたことがある。割と人間観察って物が好きだから、そういうことに気付くのは簡単だ。例えば俺の従兄弟の双子。姉のほうは割りと人見知り。行動したあとに後悔するパターンが多い。例えば弟のほう。明るく見せて抱え込むタイプ。人とじゃれあうのが好き。一人が怖い。
 人は千差万別色々だ。俺も自分自身は変わった人間だと思う。昔恋人に博愛主義を批判されたことは未だに覚えているが、俺自身其れが美点だと思っているから未だにそれは変わらない。人なんて千差万別、色々だ。
 だから、彼のそれに気付いたときは、けれど特に何かを感じたわけじゃなかった。


 【 ひと時の距離 】



 高校に足しげく通っているのは暇つぶしとか、楽しいからとか、言葉にしづらいあれこれだ。従兄弟たちとこんな風に話したり遊んだりするのも思えば久しぶりのことだと思う。そんな風に思いながら持参してきていた漫画本を鞄から取り出して、勝手に美術室に入り込んでだらだらしていた。飲み物買って来れば良かったかな。いいや、あとで紫良か恵紫にたかろう。そんな風に思いながら漫画本を読みふけり、どうやら俺は授業終了のチャイムなど聞こえていなかったらしい。
 がらり、と美術室の扉が開かれる音に我に返り、扉を見やって俺は笑った。
「おーっす」
「……相変わらず暇人さんですね」
「おうよ。暇人さんですよ」
 呆れたような顔をするさわお君に笑いながらそう返し、俺はひらひらと手を振ってみせる。さわお君ははぁ、と溜息を吐き出しながら鞄を改めて抱えなおし、美術室に入ってきた。俺が陣取る長机とは違う机に鞄を置く彼を見やり、俺は読みかけの漫画本に指を挟みこみながら頬杖をついて彼を見やる。
 彼は、割とパーソナルスペースが広い。人との距離感が遠い、感じがする。恵紫も割りと広い、紫良は狭い。人それぞれの距離感は、感じ取るのは難しい。
「ねー、今日何か無いの? 俺腹減ってんだよね」
「何時もですよね」
「うん、まぁ割とそーね」
 さわお君の言葉に笑いながらそう返してみる。男子高校生の手作りのお菓子は、最近俺の腹を満たしてくれる必須アイテムだ。
「今日はなんもないです」
「えー……仕方ない、やっぱ紫良が来たらコンビニだな……」
「ちゃんと食ってるんですか?」
「まぁ一応? でも今月は月末集中で新刊がなぁ……バイト代の半分が消える……」
「……ご飯優先にしてくださいよ」
「萌えがあればなんとかなる」
「なりませんて」
 はぁ、と呆れたように呟く年下の男の子。俺は笑いながら答えてあげる。
「大丈夫だって。お兄さんにもちゃんとご飯恵んでくれるお友達居るから」
「……恵んでもらってるって形容詞の時点でおかしいとか思わないんですかね」
「おもいませーん」
 さわお君の呆れた顔はよく見る気がする。彼は恐らく俺を駄目な大人だと思うだろう。まぁ、自分自身できた大人だとは思っていないので別に良いのだけれど、これでもちゃんと自活出来てるんですよ。一応は。自分の生活を賄えて、住む所着るもの食べ物にそこまで困ってない。そうしてちゃんと知識と萌えを摂取できている。これ以上望むことなんてあるだろうか。人並みの生活が出来ているんだから、よしとするものじゃないだろうか。
 そんな風に考えているとさわお君が小さく「あ、」と声を漏らした。
「食べかけのポッキーありましたよ。袋空いてますけど」
「え、まじで? ちょーだい」
 そう言って頬杖を止めて手を伸ばせば、さわお君はその小さな袋の中身を確かめながらこちらに歩み寄ってきた。
「折れてますね」
「仕方ないわなー」
 開いた口の方を差し出してくれるさわお君。俺はそれを覗き込み、一本を手に取った。半分に折れたポッキーを笑いながら口にする。
「……あれ?」
「んー?」
 ぽりぽりとポッキーをかじり、指を挟んでいた漫画本を開いたところでさわお君の少し不思議そうな声が俺に届いた。
「少し痩せました?」
 そう言いながらさわお君の手は俺の首にぺたりと触れてくる。
 思っていたよりも大きく、少し肉厚的な手。
「……」
「ちゃんと食べてくださいよ。明日は来ますか? 何か作ってくるんで」
「…………」
「……? 守理さん?」
「……あー、じゃあ腹に溜まる奴で……パウンドケーキとか? バナナの奴が良いな」
「はいはい」
 呆れたようにそう漏らしてさわお君は手を降ろし、けれどそのまま俺の隣に腰掛けた。
「今日何読んでるんです?」
 そういいながら手にしていたポッキーの袋から一本を取り出し、彼はそれにかじりつく。俺の手元の本を覗き込んでくるさわお君。俺は小さく肩を落として口を開いた。
「新しく買った漫画家漫画」
「まんがかまんが?」
「漫画家さんが主役の漫画。結構面白いよ。絵とか安定してないときあるけど」
「守理さんが毒吐く奴は大抵面白いですよね」
 その言葉に俺は笑う。そうして手を伸ばしてさわお君が持つその袋から、折れたポッキーをもう一本頂戴した。
(――パーソナルスペースが、狭いとか広い、とかじゃなくて)
 ぽき、と噛み砕いて、租借する。
(自由、なんだろーな。この年頃って)
 思いながら、ポッキーを噛み砕く。こっちの想定した距離感などお構い無しに、時に遠く、時にこんなにも近い。触れられることを嫌うのだと思っていたのに、触れるのはお構い無しだ。
(子供ってのは自由で、少しばかり残酷だねぇ)
 思いながら、言葉はポッキーと共に飲み込んだ。


 了



☆BGSB小ネタ!



まさかの一年以上ぶりの更新とか…!!
BGSB勝手にやってみたお話!!ごめん好き勝手した!!ごめん!!!←
守理くん出るよ!
ほんのりみやせつとかしほりょとか守さわっぽいけどまぁノリで見てください!!






 そうして男はくるりと手にしていたシャーペンを回してみせる。にこやかに笑いつつ、口を開いた。
「さてさて、これから第一回男女人気投票はじめまーす」
「いっきりなりだな守理兄」
 守理の言葉に紫良はそう突っ込むことしか出来なかった。


 【 男女☆人気投票 】


「えーっと、じゃあ男子部門、って事で女子からね〜」
 そう意気揚々と手にしていたシャーペンをノートに走らせる守理。ノートには丁寧とは余り言えない字でこの場に居る者たちの名前が書き連ねられていった。
「え、まじでやんの?」
「おうよ」
「……って言うか守理兄なんでいるの?」
「そういうこと突っ込んじゃいけません。ってか今日お前の家行く予定だけど聞いてねぇの?」
「あ、そうだっけ?」
 そんな簡単な会話をしながら名前を書き終えたノートを見やり、守理はすぐ側に居たせつるに声を掛けた。
「ではせつるちゃん」
「え? あ、はい!」
「せつるちゃんがこのメンバーでかっこいいと思う人一人あげてくーださい」
「えっ」
 守理のいきなりの問いかけにせつるはぼっと顔を赤くして言葉をなくす。その様を見て守理は頬杖をついて笑いながらまぁまぁとせつるに向かって手を振って見せた。
「そう深く考えないでさー。芸能人とか見てかっこいい、とか思うでしょ? あれと一緒の感覚で」
「え、えっと……その……た、タイト先輩、です……」
「おー、じゃあタイト君一票で」
 守理はその言葉を受けて書き連ねた名前の一つ、タイトの名前の隣に一本の線を引いた。
「んじゃ恵紫は?」
「え? んー……カッコイイ人でしょ?」
「そう」
「ゆうや君」
「おぉー、即答」
 恵紫のすっぱりとした言葉に守理は笑いながらゆうやの名前の隣に線を引く。
「じゃあ次、めぐこちゃん」
「え? 私!? えーとえっと……えと……やっぱりタイト先輩ですかね」
「タイト君人気だなー」
 守理はやはりそう笑った。守理の向かいに座る紫良はそのノートを覗き込む。
「んじゃあ次、みやきちゃーん」
「あれ、私ですか? えーと……んじゃあ可哀想なんで従兄弟二人に半票ずつで」
「半票って」
 みやきの言葉に笑いながら守理は志萌と良羽の名前の隣に線を引いた。
「みちよちゃんはー?」
「あ、私白紙解答で」
「ちょ、その発想無かったわ」
 みちよの言葉にけたけたと笑いながら守理は腹を抱えてみせる。それを見てみちよの隣に居たさわおは相変わらずのテンションで呟いた。
「北川さんそれないわー」
「いやいやありですよ。解答の自由ですよ」
「いやまぁ確かに自由だわ」
 肩を震わせる守理はそうして笑いながら紫良と同じようにノートを覗き込んできたイトを見上げた。
「イトちゃんは?」
「え? えっと……ゆうや君かっこいいです」
「おー、ゆうや君とタイト君でほぼ二分って事だなー」
 ゆうやの名前の隣に線を引き、うんうん、と守理は頷いてみせる。
「じゃあかわいそうだから俺の票はさわお君にあげよう」
 守理はそう言いながらさわおの名前の隣に線を引いた。
「えっ、いりませんけど」
「そういわないで貰っといて〜」
「いやいやいや。ていうか同性票ありなんですか」
「今からアリで」
 そう言って守理はシャーペンで紫良を差して見せた。
「紫良は?」
「え? 俺、タイト」
「即答かよ」
「ゆうや君も正直捨てがたい」
「ふはは、じゃあ半票にしとくか。はつる君はー?」
 守理の言葉にはつるはびくっと身体を揺すらせた。
「えーとえと……俺もタイト先輩かなぁ……」
「タイト君は男性票が多いなぁ」
 そう笑って守理がタイトを見やれば、本人は苦笑を漏らしている。
「嬉しいようなそうでもないような」
「じゃあそのタイト君は誰に入れる?」
「んー……ゆうや君かな」
「そのこころは?」
「かっこいい、っていうならゆうや君。可愛いとかならまた違ったかも」
「なるほどねぇ」
 タイトの返答に納得しながら守理はシャーペンを走らせる。
「で、もう一人のホープは誰に入れる?」
「……ホープって……」
 にやにやと笑いながら守理が視線を投げかければ、ゆうやは少しばかり照れ臭そうにしながらも考え込むそぶりを見せる。
「んー……やっぱりタイト先輩ですかね……あ、守理さんもかっこいいですよ」
「おお、ありがとー」
 ゆうやの言葉にそう感謝を述べて、守理はじゃれあっている志萌と良羽を見やった。
「二人はー?」
「おー、じゃあ僕はりょーちゃんに!」
 言いながら志萌は良羽に抱きつき、良羽はそれを引き離しながら口を開いた。
「俺は……じゃあしょうがないから志萌に」
「美しき兄弟愛だねぇ」
「違います断じて」
 守理の言葉に良羽はそう返し、そうしてにやにやと笑っている志萌を見やる。ふん、と顔を背ける良羽を見て志萌はやはり笑った。
「んーと、あ、さわお君は?」
「あ、俺のは白紙解答で」
「ちょ、それみちよちゃんと一緒じゃん」
「いやいや解答者の自由なんで」
 そのさわおの言葉に笑い、そうして守理はノートを見やる。それから笑ってまた口を開いた。
「んじゃあ本題、女子部門〜。はいはつる君」
「えぇっ、俺から!?」
 守理に言葉を振られ、はつるはわたわたとしながら考え込む。
「こ、これ凄い答えづらいよ……紫良ならどうする?」
「えっ? えーと……いやまぁ確かに答えづらいわな……」
 はつるに話を振られ、紫良も戸惑いながらそう答える。そこに手を軽く上げながら口を挟んだのはタイトだった。
「じゃあ僕はイトちゃん。可愛い妹だからね」
「お、イトちゃんに一票〜」
 タイトの言葉に守理はそう軽く答えながらノートに書き込む。
「おにいに票貰っても嬉しくないー」
「そう言わないでよ」
 むう、と膨れてみせるイトにタイトは苦笑しながらそう答えた。
「あ、守理さん守理さん。同性票が良いなら私はせつるちゃんに!」
「み、みやきちゃん!?」
 元気に手を挙げながらそう守理に言ったみやきにせつるは驚きの声を上げた。
「せつるちゃんかわいーもん」
 みやきの言葉にせつるは「そんなこと……」と呟いて顔を赤らめる。
「じゃ、じゃあ私の票はみやきちゃんに……」
「え、ほんと!? ありがとー! せつるちゃん!!」
 せつるの言葉に本当に嬉しそうに笑い、みやきはぎゅっとせつるに抱きつく。
 その様をほほえましく見守りながら守理はペンを動かしそうして答えていない男子組を見やる、が、皆はそれぞれ顔を背けてしまう。
「駄目だな男子ー。こういうところは盛り上がっていかないと」
「じゃあ守理兄は誰に入れるの?」
「俺? みんなかわいーから全員」
「……」
「そんな顔すんなって恵紫ー。お前に入れてやるよ」
「……なんか嬉しくない」
 恵紫と守理のそんな会話の背後で、放課後の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「お、もう帰る時間か」
 守理がそう声を上げれば、恵紫が溜息を吐き出しながら口を開く。
「じゃあとりあえず各自片づけして、窓の施錠だけ確認してもらっていい?」
 まとめ役のようなその言葉に、机の近くに集まっていた皆がそれぞれ帰宅の準備を始める。荷物を片付け、近い場所の窓の施錠を確認する中、紫良は守理のノートをじっと見つめた。
「お前は?」
「……」
 その視線に気付いて守理は笑いながらそう問いかける。紫良はほんのりと頬を赤らめながら指先でその名前を指し示した。
「ん、」
「……ほぉ。お前がねぇ」
「……良いだろ、別に」
 守理のその言葉にふい、と顔を背けて紫良は小柄な彼女の元へと行く。その背中を見やり、守理は笑いながらノートを持ち上げた。
 紫良が指差した名前は勿論、現在交際中である彼女の名前。姉の後ろばかりを追っていたことを知っている守理は一人ほくそえんでノートを閉じた。
 大学生の暇つぶしには、充分すぎる収穫だった。


 了



書いてて守理君さいてい!とか思いました(笑)
皆怒っていいのよ…??


▽ Connect 16




【ふるねじ】連載@閑話休題


※さぁ、これから何処まで行こうか。
 限りの有る、時間の中で。
















「え……妃真に、逢った?」
『うん』

 軽々しく彼はそう答えた。言葉の意味を理解できなくて俺は口へ運びかけたカップをそのままに思考回路も動作も停止させる。同じように珈琲が注がれたカップを口へ運んでいたラタは一度口をつけてから眉を顰めてカップから口を離した。熱かったのか、苦かったのか。感覚が戻ってからまだそう言う細かいところに戸惑いを見せる。舌を小さく出したところを見ると熱かったんだろうな。

『ヨシノ?』
「あ、いや……」
『綺麗な人だね。妃真って人。優しそうでもあったけど』
「あぁ、うん……」

 笑いながらそう言うラタに、俺は内心複雑な気持ちになる。

『長い黒髪でさー、青い瞳で。鼎のお姉さんなんでしょ? 確かに似てるかも』

 言葉は前よりも流暢になった。機械――ロボット独特の発音のズレや何かが極端に少なくなった。言葉の起伏が感じられる。感情が込められている。言葉遣いに伴って瞳も動作も柔らかくなった。初めての感覚に戸惑いを見せる。以前に比べれば何もかもが違って見える。
 それでも彼は、ラタなのだ。

『好きだった?』
「は?」
『妃真の事』
「……」
『今でも好き?』
「……聞いてどーする」
『別にどうも? 大体、どうも出来ないじゃん』

 不思議そうにラタがそう言葉を返してきた。確かに、それを聞いた所でラタにはどうすることも出来ないか。

「お前が好きだよ」
『……そう』
「何、その反応……照れてんの?」
『え、いや……わかんない……』

 言った後、そわそわとして顔を逸らしたラタに俺は意地悪くそう言ってやった。

「お前、本当に変わったなー」

 近寄ってカップに気を付けながらぎゅっと抱きしめる。ラタはされるがままだった。

『前の方が良い?』
「いや。どっちもお前だから良いよ」
『……』
「だから、照れてんの?」
『五月蝿いなぁ』

 俺に抱きしめられたまま、ラタはカップに口をつけた。一口飲んでやっぱり小さく舌を出す。……今度はココアでも買ってこようか。多分、苦いのが駄目なんだろうな。

『……あの時、予感がしたんだ』
「予感?」
『うん、何かが、終わる予感』
「……でも、終わらなかっただろう」
『……』

 ラタは俺をちらりと見る。その妙に神妙な面持ちに、俺はラタを抱きしめていた手を緩めた。ラタは窓の外を眺めている。鉛の色をした、少し低い空。

『まだ、それがしてる』
「……予感、が? 嫌な話は止せよ……」
『ううん、俺じゃない。だから、その終わる予感ってのは、たぶん、やっぱり、きっと……』

 言葉が小さくなっていく。不安そうに見える。空を見ていた視線を下げて、ラタは眉根を寄せた。誰かを、心配する顔。それに気付いて俺はラタの頭を自分の肩口へと導いてやった。綺麗な青を孕んだ銀色の髪を撫でてやる。
 ラタと同じ髪の色をした少年と、あの銀緑色の髪のロボットは、一体これから何処へ行くのだろうか。






「ダルク?」

 ふと何かが聞こえた気がして、私は足を止めていた。スーロンに呼ばれ、『何でもないわ』と言葉を返す。
 今朝方に情報屋がホテルの部屋を尋ねて来た。【ふるびたねじ】が関係しているかも知れない、と言う噂話。南西にある集落の一つへ向かうのだ。

「……気になる?」
『……いいえ。私に出来る事は、もう無いだろうから』

 スーロンの言葉にそう返して、私は彼に歩み寄る。スーロンは肩を撫で下ろしてまた歩き出した。此処からまた電車に乗らなければいけない。
 私は自分の手を見下ろして、そっとその手を握り締めた。
 私に残された時間が残り少ない事は、私自身が一番良く、解っている。




 了

▽ Connect 15




【ふるねじ】連載@閑話休題


※何処でもない場所で分かち合った、二人のお話。











 白くて明るい場所には桜の吹雪が何時も舞っている。彼女が造り上げたこの何処でもない場所はとても優しくて暖かで、世界からは隔絶された場所だった。

「貴方とも、不思議な付き合いだったわね」
「そうかもね」

 大きな桜の木の根元。白いベッドに腰掛けながら彼女はぽつりと呟いた。

「長いようで、短かったわ」
「……割と、楽しかったと思うよ」
「ふふ、私もよ」

 穏やかに笑って瞳を伏せる。綺麗な黒い髪をかきあげて、青い瞳で僕を見た。

「伝えては来たの?」
「アイツは気付くよ。言葉にしなくても解るんだ。そう言う子だから」
「でも、言葉にした方が安心することもあるわ。たとえ深く分かり合った同士だって、言葉にしなければ不安は募るもの」
「……自分の事じゃないかい?」
「……えぇ、そうね」

 彼女は自分の手を見下ろした。細くて小さな白い手を握り締める。

「……いくのかい?」
「……えぇ、多分。あの子に全部あげてしまったから、もう、残ってないの……貴方はまだ残るの?」
「そうだな……もう少し……」
「そう……また何処かで、逢えると良いわね」
「……そうだね」

 そう返すと、彼女はにこりと笑って見せた。

「じゃあ、またね」
「……」
「またね、優(ヨウ)」
「……あぁ、何時か、また。妃真」

 驚いていた僕に妃真はそう言い聞かせるようにもう一度言った。僕は同じ言葉を彼女に返す。その言葉を聞き届けると、彼女は淡く微笑みながら桜吹雪になって消え去ってしまった。
 ――自分の青み掛かった銀色の髪がとても好きだった。高露の血を引くのだという事を誇示しているようで、顔も知らなかった父親と唯一繋がっているようで、とても好きだった。
 初めて父親の顔を見たのは高露の家へ入ることが決まった時。母親に紹介された男の人が僕の父親なのだと嬉しく思った。この人に気に入られようと、この人の力になろうと、心の其処から思うことが出来た。
 急に出来た弟は風変わりでは会ったけれど優しくて、嫌いではなかった。都会に別邸を作ると決まった時、一人で本邸に残るといった弟の顔と瞳を、僕はずっと忘れないだろう。
 優しい弟は僕に何もかもを譲ってくれた。そう気付けたのは祖父の研究を受け継いだ後の事。祖父の研究のファイルを、本邸へ取りに行った時だ。
 あの子はとても優しい子だ。僕が父に気に入られようとしていたことにきっといち早く気付いていた。認めてもらおうと勉強を頑張ったこと、祖父の研究を受け継ぐといったこと、全部きっと解っていたんだろう。
 僕たちがもう少し大人になった頃、ちゃんと話をしようと思っていた。ちゃんと話をして、ありがとうと言いたかったんだ。
 風変わりではあったし、僕に懐いているという風ではなかったけれど、きっと彼は――崇崙は、僕の心を誰よりも理解してくれていた。
 あの子は、とても優しい子だ。とても優しい子だから、きっとこれから来る未来に傷つくことがあるだろう。

「……崇崙」

 舞い落ちる花びらが数を減らしてく。彼女が居なくなったことでこの場所も維持出来なくなったのかも知れない。暫くは彼らの側に居ることになりそうだな。思うがそう悪い気はしなかった。不思議な縁がある。その後の事を、何時か出会えたら彼女に教えてあげようと、僕は密かに笑った。


 了

▽ 夜と夢と朝の物語 5




【ふるねじ】連載@ラタ編


















 目覚めた其処は見慣れていて、とても簡素だった。壁は打ちっ放しのコンクリート。むき出しで古臭くてひび割れてる。天井も古ぼけていて蛍光灯が一つ、切れていた。それでも部屋が明るいのは朝陽が差しているからだ。あの時転がったはずのソファが戻されている。床には銃痕が二つ。蹴破られた扉はサイズが合わないトタン板がはめられていた。

『……随分と、懐かしく感じるなぁ……」

 ぽつりと呟いて息を吐き出す。真似事でもこれは好きな行動だった。降ろした瞼を再度上げると、視界の横からぬっと何かが覗きこんで来た。

『……ヨシノ……』
「おせーんだよばーか」
『は?』

 口はそう言葉を漏らしたけれど、瞳は安堵の色をしていた。解る。解った。
 目の前に、ヨシノが居る。
 そう思ったのにヨシノが俺の視界からふっと消えるものだから、俺は慌てて身体を起こした。けれど。

『っ、!? い、てぇえ!!!』
「あ? あー、感覚……って言うか痛覚? 戻した。お前無茶しかしねぇし」
『は? 何これ。ずきずきするしどくどくするしいっそ怖い!』
「そーやって危険から回避すんだよ、生き物は」

 胸やら腕やら脚やら顔やらとりあえず至る所を不思議な感覚が走り抜ける。今までだって、少しは感覚あったよ。そりゃ、痛覚に通じるところは殆ど無かったけど。壊れても直せるんだし、別に良いじゃんって、思ってたんだよ。
 ふ、と気がついて自分の顔に触れた。確かにあの時、あの女の――ダルクの剣が顔を吹っ飛ばしたはず。俺の【ふるびたねじ】がある場所を、壊したはず。でも視界は良好。確かに、見えてる。
 確かに。

『……生きてる』

 俺は、生きながらえたのか。
 沢山の感覚が体中を駆け巡る。指先も、瞳も、足も、腕も、何もかも、俺は今ちゃんと総て、此処にある。
 此処に、ある。

『――ヨシノ』
「あ?」

 確かめるように俺を眺めていたヨシノを俺は呼んだ。そうだ、言わなくてはいけなかった。今更だけれど、言わなければいけなかったんだ。

『俺、ヨシノの事好きだ』

 多分、胸にはずっと抱いていた。言わなくてはいけなかった言葉は、漸く口から零れ落ちた。この言葉を、その意味を、彼に言えた事はとても嬉しかった。

『愛してる』

 囁くように告げると、ヨシノは驚いた顔からすっと表情を消して俺の目の前に立った。肩にヨシノの手が置かれてそのままヨシノの頭が降りてきて。

『いてっ!』

 そのまま頭突きされた。

『い、いった!! 何すんの!?』
「ばぁーか、ふざけんなよ」
『……ヨシノ?』

 じわりと、彼の瞳から涙がにじんだ。それから抱きしめられた。

「良かった……本当に、良かった……」

 腕が、声が、震えている。触れた場所が心地良い。心臓の音が俺に教えている。俺の世界が此処にあるって事を、教えている。
 ああ、俺は今嬉しいんだ。その上今凄く、泣き出したくなってる。ぎゅっとヨシノの背中に腕を回すと、もっと強く抱きしめられた。痛いけど、嫌じゃない。

『ねぇヨシノ。最後の言葉、訂正させてよ』
「訂正?」
『うん』

 窓の外の日差しが、柔らかさを持ったまま強くなる。一日が始るんだ。新しい、一日が。

『ヨシノ、俺、幸せだよ』

 『幸せだったよ』、なんて、過去形なんかじゃない。生きている。今此処に居る。俺の世界は此処にある。優しくて、嬉しくて、泣き出しそうなくらいに。ねぇ。
 俺は、幸せだよ。





『……嘘でしょう……』
「今目の前で起きた事を否定するのって、難しいよ」
『だって……』
「生まれ変わったんだよ」

 ぽつり、スーロンが呟くように囁いた。
 あの時、確かに彼の中の【ふるびたねじ】の光は消えた。私が砕いたんだもの、間違うはずなんて無い。
 けれど今、見上げているビルから見える光は確かに【ふるびたねじ】の光。マイナスのものではなく、プラスの螺子の輝き。

「ヨウがダルクの攻撃の軌道をずらした。ほんのちょっとだけ。あの攻撃は、確かにラタの螺子に触れていたんだ。傷をつけた」
『傷? ……まさか……』
「そう、そのまさか」

 隣でビルを見上げるスーロンは僅かに瞳を細める。

「マイナスに一つ傷がつけば、プラスになるだろ?」
『そんな……事が……』

 可能だというの? 在り得ると言うの? 信じられない。でも、けれど。
 私たちが見上げるビルから見える輝きは、確かに【ふるびたねじ】のもの。機械人形に【こころ】を与える、奇跡の産物の光。確かな、【家族】の輝き。

『……きっと、幸せ、よね?』
「本人がそう言ってたんだ。大丈夫だよ」
『……じゃあ、私が言う事は……私に出来ることなんて、何も無いわね……』

 色んな事を考えていた。犯してしまった罪と過ち。償えないことだと解っていたから。

「ダルク」

 そっと、スーロンの手が私に触れる。
 隣を見れば朝焼けの中、彼は酷く優しく笑っていた。
 まるで私の総てを赦してくれるように。



 了



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