【ふるねじ】連載@ラタ編
『 ―― だ、った よ 』
言葉は、確かに俺に届いた。
ひび割れた紅い瞳から光が消えた。ロボットが停止する独特の機械音。其処にあるのは、俺の腕の中にあるのは、ただの、動かなくなった絡繰人形。
「……ラタ……?」
光を失った瞳は何も映さない。ぱちぱちと爆ぜていた火花が小さくなって消えた。
「……おい、ラタ……おいっ!!」
俺はまた、失うのか。また、大切な人の手を掴み損ねるのかよ!!
『……壊れたわね』
「うるせぇ出てけ!!」
小さく呟かれた色の無い声に怒声を返した。睨みつければ驚いたように、怯えたように、女は一歩後ずさる。
「壊れたなんて言うな!! こいつには確かに心があったんだ!! そこらのロボットなんかと一緒にすんな!! 勝手に殺すな!!」
確かに、確かすぎるほど確かに、ラタには心があったんだ。それをたった一言で無碍にするな。壊れたなんて、無粋な言葉でラタの心を否定すんな。
ラタの心は、ラタの想いは、確かに此処に在ったんだ。
「さっさとでてけ!!」
思い出したように銃を向ける。悔しさなのか悲しさなのか涙が零れて視界と照準が定まらない。知ったことか。
「ダルク!」
少年の声がする。ラタと同じ色の髪を揺らして、少年は女の手を引いた。ぼやけた視界の向こうで影が揺れる。壊れたのはラタなのに、女の方が壊れたような顔をしていた。ぱたぱたと不揃いな二つの足音が消えてなくなる。何処へなりとも行っちまえ。そんな暴言も吐き出せなかった。
人影も足音も消えて、俺は銃を床へ落とした。
「……ラタ……」
リフレインする。俺を呼ぶ声。止めるといった。壊さないといった。殺さないと言った。約束、した。
其処には多分、お前自身を含めて居なかっただろ?
「ラタ……」
何で最後にあんなこと言った。
なんで最後、あんな風に、人みたいに。
優しく、笑った。
「……ラタ……」
思考回路が作動しない。頭の中の何もかもが曖昧でない交ぜで滑稽にさえ思える。俺の総ては何処へ行った。
見下ろしたラタの顔は、半壊の癖に酷く穏やかに見えた。満足げに見えた。ああ、お前、それで良いのか? お前、全部解ってたのか?
ぽたり、ぽたり、涙が零れ落ちてラタの頬を滑り落ちる。
(――なおさなきゃ)
頭のどこかで、懐かしい声がした。
(貴方が、助けなきゃ)
聞いたことがある優しい声音。誰かを判断するよりも、ラタの頬に零れ落ちた滴を拭った。
ああ、助けなきゃ、今度こそ。もう失いたくないんだ。もう切り捨てて終わりにしたくは無い。あの日のように、逃げ出して終わりになんてさせやしない。
助けなきゃ。俺が、この手で。
続
(こんどこそ、たすけなきゃ)