『よー、チェリー!久しぶりだなー。相変わらず厭らしい体型してんじゃねぇか!』
スタジオで会って意気なり大きな声で喚いたのは時々一緒に仕事をしている一年先輩の成人(なると)だ。
僕はこの人が苦手。
だっていつも僕をからかって楽しんでるんだもん。
『チェリーって呼ばないでくださいって言ったじゃないですか』
『サクランボだからチェリーで良いじゃん!』
『僕の名前はさくら!サクランボじゃないです!』
僕をチェリーって呼ぶのは成人だけじゃないんだ。
いつの間にか、雑誌の購読者の間でもそう呼ばれるようになっていた。
その呼び名…僕は好きじゃない。
『さくらだろうがチェリーだろうが変わんねぇだろう?全く、細かい事に拘るんだよな、お前って。頭堅すぎー!どうせならあっちの方をガチガチに固く…う』
いつの間にか成人の喉元に僕の指が絡んでいた。
無意識…とは違うんだが……
『わーた、わーた!そんな恐い顔すんなよ。可愛いお顔が台無しだぞ?』
成人の首から僕の手がすっと退くと同時に大きな溜息を吐き出し、確かめるように成人は喉元を擦っていた。
『お前ってさ、普段のほほんとしてる癖に、時たま恐ろしい位反応が早くなる事があるんだな。…何かやってたのか?』
『別に、何にも…』
学生時代、部活らしい部活にも所属してなかったし、これと言って運動する事もない。
何にも、って事に嘘はない。
『そうかー?今のなんか、かなり俺もビビったぞ?』
『成人が変な事言うからでしょ』
僕は自分が誰かの愛具の様に見られる事が凄く嫌。
それなのに、僕の仕事はそういう事を売りにしてる。
この矛盾に吐き気がする…
成人は僕と違ってとても男らしいんだ。
苦手な人だけど、少し憧れてる。
僕にもあんな逞しい胸があったらなぁ……
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礼二くんのお持ち帰り事件は結局のところ未遂で終わったとか。
礼二くん曰く、
『あんなエロじじぃにあちこち舐め回されるなんて考えるだけでもぞっとするわ』
だそうだ。うん、僕も同感。
……ってか、舐め回すって?
パーティーを抜け出した礼二くんはその後、街で意気投合した女の子と朝まで一緒だったらしい。
凄いな…
たまに他の子たちからもそんな話を聞かされる事があるけど。
皆、なんでそんなに簡単に見ず知らずの人と意気投合出来ちゃうの?
と言うか、そもそも、何を切っ掛けに話し掛けるんだろう。
『え?櫻ってナンパとかした事ないの?マジで?ちゅーか、櫻だったら黙って立ってても向こうから声掛けてくんだろ?』
礼二くんはそう冷やかしたけど、声を掛けられようものならきっと僕は全力で逃げ出してるだろうね。
『今度一緒にナンパツアーやろうぜ!』
礼二くんは楽しそうな笑い声を含みながらそう言い残して行った。
それって、何かの罰ゲームですか?
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