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ふふ、ちょっと報告

お姉さんに会いました。

そして、僕から勇気を振り絞って話し掛けてみました!








いつもの様に海を眺めていた。

そこに今までと同じ風が吹いた。

ドキドキしながら振り向くと、馴染みのある自転車の影。

その先を辿ってお姉さんに視線が止まった。








大きなカメラを抱えて相変わらず熱心にファインダーを覗き込むお姉さんの姿をじっと見つめ、一部始終が終わるのを待つ僕の中で今までになく強い風が吹いていた。







『ねぇ、何がそんなに楽しい?』







僕の口が勝手に開いていた…

お姉さんは驚いて持っていたカメラを胸の辺りまで下ろして暫くじっとカメラを見つめていた。

僕もお姉さんと同じようにカメラを見つめる。

重厚でかなり古い年季の入ったカメラを…








『あなたは、どうしていつも此処に?』

お姉さんが逆に僕に問い掛けてきた。

『…分からない…。気が付いたらいつも此処に来てた』

『ふふ、じゃあ、あたしも同じ』







曖昧な答え…



でも、僕はそれで納得して頷いた。


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今日の月

僕の気のせいかな?

いつもと傾く角度が違って見えるや。


それに、輪っかが見える…


普通なのかな?


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心の雨

昨日も今日もずっと雨が降っていた。

一気に下がった外気温とはまるで無関係なくらいスタジオは汗ばみ、撮影が終わった後のシャワー室は混み合って中々順番が回ってこなかった。

待ってる間の皆は思い思いの姿で談話を楽しんでいる。

ほぼ、半裸に近い姿に目のやり場に困って狼狽えるのは僕くらいなものだろうね。

『櫻、もう着替え、済んだのか?』

自慢の肉体を惜し気もなく晒しながら近寄ってきた成人は、衣裳を脱ぎ、私服に着替えた僕にそう尋ねてきた。

無論、着替えはしたものの、本当は僕も汗を流したい。

でもだからっていつまでもあんな格好でいるのは耐えられないんだ。



『うん…まあね』

成人に聞かれて否定する訳でもなく僕はそう答えた。

『シャワー、浴びて行かないのか?』

『え?……あ、うん。混んでるから帰って浴びるよ』

僕がそう返すと、成人はニヤニヤとにやけて僕をジロジロと見ていた。

『な、何?』

『いや、何でもない。ちょっと想像しただけ(笑)』

成人がそう言うと、周りにいた他のメンバー達も同じような目付きで僕を見始めたような気がした。

やだ。想像って何を?


居たたまれない。

ファインダーの向こうに居る自分が怨めしい。

皆の脳裏に居る僕はきっと僕じゃないんだ。

やだ。辞めてよ!


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般若

仕事を辞めたい事をほのめかすような言葉を吐いた途端、社長さんがまるで鬼のような形相に変わった。

何でこの人はそこまで僕をこの世界に縛り付けようとするんだろう。

周りを見渡せば遥かに僕より仕事に適した人材がゴロゴロとしてるって言うのに。

僕一人辞めた所で痛くも痒くもないでしょ?

いつも不思議なんだ。

どうして僕なんか拾ったんだろうって。

そのままほっとけば明日にでもノタレ死んでいたかもしれない。

そうなることを自ずと望んでいた僕をこの人は気前良く生活に必要な一切合財を与えてくれた。

その見返りがこんな仕事だったとしても、僕のどこにそんな素質があったのか。








死に急ぐ者に羞恥心などないと思ったのか?

僕に生きる望みを与えてしまったのは計算外だったろうね。



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夏色

今日は久しぶりにスッキリと晴れて海辺はそろそろ夏に近づいている事を教えてくれるような透き通ったグリーンに変わっていた。

ふふ、可笑しいね。

空を眺めても何も感じないのに、海の色には敏感に反応するなんて。







あれからすっかりお姉さんには会えなくなった。

そう偶然が何度も訪れる訳無いから仕方ないけど。








燻らす煙が目に染みる。

細める視界にまばゆい光が射し込み、静かに目蓋を閉じた。

穏やかなさざ波の音が耳を擽る。

まるで自分も波の狭間に同化していくような感覚が心地好かった。







記憶なんかないが、きっとこれは母親の胎内に居るときに感じていた感覚なんだろう。

懐かしい……

何となく、そう思えた。

母の温もりは僕は知らない。

でも、この心地好さは僕が母の胎内にいた証。


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