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鬼ごっこ。拾壱




叶わない夢を願うなら。
覚めない夢を見ようか。






誰も、何も言わない。
言えないのだろう。
仕方のないことだ。
早々簡単に答えの出せる問題じゃない。
逆説的に言えば、私はいとも簡単に答えを出せる。
逃げているだけなんだ。

「話はこれでおしまい。私は帰るよ」

これ以上、この空気に耐えられなくて、私はベンチから腰をあげる。
議論がしたいわけでもないのだ。
寧ろ、赤司と黒子との出会いを含めた、私が他人と関わりたがらない理由をつらつらと語っただけなのだし。

言えないことも、言いたくないことも、全部が全部私と言う存在が上書きされなければ生まれなかっただろうに。

私は、最後まで、苦い笑みを浮かべたまま、一度も振り返ることもなく、明日へと足早に逃げ出したんだ。
そんな、私に失望して、アイツ等が私から離れてしまえばいいとさえ、思っていたんだ。
胸の奥の、疼く痛みには気づかない振りをして。



翌朝、鏡の前で私は呻いていた。
腫れた両目はまともに開かない。
身体のダルさはピークに達していて、もはや体調不良もここまで来れば、笑いたくなるくらいだ。

原因は分かりきっているから、溜め息しかでない。
まさか、未だにこんなに痛むなんて、思ってもいなかった。
もっと、強くなったつもりで居たんだ。
中身は、だって、20云年生きた記憶すら持っているのに。
辛いことも、苦しいこともそれなりに経験してるのに。
まるで、役に立ちゃしない。

はあ、ともう一つ大きな溜め息を吐き出して、机の上に放ってあった携帯を手に取る。
連絡は早いうちに入れてしまった方が気が楽だ。
今日は1日、ゆっくりと休んで、体調を整えなくちゃ。
丁度良い、気持ちの整理もつけてしまおう。
そして、次会う時には、ちゃんと仮面が剥がれないようにしよう。

奇しくも、今日は金曜日だ。
なら、後、二日は猶予がある。

ボーッとする頭でつらつらと考えながら、携帯のコール音を聞く。
ちょうど、7コール目で学校と繋がった。
疑いようのないしゃがれた声で現状を伝えれば、電話応対してくれた教師からも、お大事にと心配そうな声を掛けて貰って、スミマセンと、私は電話を切った。

ポンと携帯をベッドへと放り投げて、私もベッドへとダイブする。
薬を飲まなきゃ、なんて、理性が言い出す。
けれど、一度横にした身体はいとも簡単にそんな正論を撒き散らす理性を超越して、私の意識は一気に沈んでいく。
それは、まさしく、現実からの逃避だったのだろう。



あふ、欠伸を一つ。
さて、何時だろう、と枕元に放置していた携帯の表示を見る。
瞬間、私の目は見開かれる。
なんだこれ、それは私の本心。
理解不能な桁の着信を知らせるマーカー。
登録されていないせいで、着信履歴を開いても、同じ携帯番号が羅列されているだけ。

この携帯の番号を知っているのは、せいぜい、片手で足りるほどの人数しかいない。
その人達は皆、登録してある。
なら、これは、一体誰からだ。
訝しげに携帯をいじっていた。
まさかまた、その番号から見計らった様に電話が来るなんて、誰が予想する?

私の手の中で震える携帯は確かに着信を伝えている。
何の、気紛れだったんだろう。
何時もなら、出ない。
なのに、その時の私はあっさりとその電話を取ったんだ。

「はい」
――ああ、やっと出たね

落ち着き払った声は、聞き覚えのあるもので。
この番号が一体誰のものであるかを、知った。

「あ、かし…?」

ぽかん。
たっぷり数秒はフリーズした。
くらくらする頭で、何とか絞り出せたのは、彼の名前だけ。
その、常じゃ見られない私の間抜けな応対に、電話越しに笑いを堪えるのが伝わってくる。

――へぇ、君でも焦るんだね

おい、私を何だと思ってるんだ。
まぁ、年相応に見えないのは重々承知してるんだけど。

「教えてない奴から急にストーカーもビビるくらいの着信が入れば、流石に焦るよ」

放心から立ち直って、理性は冷静さを取り戻したらしい。
何とか、動揺し続けてる内心を覆い隠して、会話は、出来る。

それでも、ダルさを増していく身体は、私の理性を段々と、侵食し始めて。
ああ、どうやら、本格的に熱が出始めた。
泣きっ面に蜂とは、まさに。

――何故、来なかった?

率直すぎて笑いもするよ。
回りくどい言い方の彼を想像できないから、これはこれで在るべき姿かもしれないけど。

「…体調が悪いから」

あ、そう言えば声は治ってる。
まあ、声は泣き喚いたせいだから、寝ればそりゃ治る。
ただ、この発熱は箍が外れて、感情が溢れて、途切れて、不意を突いて表に出てきたストレスだから、まあ、しっかり休めてやらないと身体はボイコットを続けるんだろう。

――それだけか?

探るようでいて、これは確信を持っているときの言い方だろ。
なんて、頭の片隅で溜め息をつきながら、間髪入れずに答える。
間が空けば、攻め込まれる。

「熱が下がらないから、大事をとっただけ」

何の事は無い、と言っても、多分この男は引き下がってなんてくれやしない。
何時もなら逃げる為の良い訳でも考えてみるのだけど、働かない頭は役に立つわけ無い。
もう、後は電話を切るしかない。
それこそ、週明けに何を言われるか、考えただけでも辛いけど、背に腹は変えられない。

――…そう、じゃあ丁度良い。開けろ
「は?」

間抜けな声のすぐ後で、間抜けな音が来客を告げた。

「嘘、でしょ?!」

扉一枚隔てて、其処に居るらしい男が、心底魔王に思えた瞬間かも、知れない。






覚めない夢は無いから、
人は夢を見られるんだってこと。

(ほら、次はどう逃げるんだい?)



To be continued?
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鬼ごっこ。拾




懺悔のような告白を。
告発のような告白を。

始めようか。






あれは、一年半くらい前のこと。
私は、兄貴分のウィリアムと日本に来ていたんだ。
私は初めての日本で、ウィルに着いて回ってた。
あの頃、唯一の理解者で、たった一人の味方だったから。
何をするにしても、真似ばっかしてた。
その一つが、バスケだった。
でも、とある理由があって、私はスクールのチームには入れなかった。
だから、ストバスを始めたんだ。

バスケをしていた。
そう、言った瞬間、赤司と黒子を除いた奴等の目付きが変わる。
けれど、今は気にしている場合じゃない。
話はこれからなのだから。

ウィルの教え方が上手いこともあって、私はそこそこ見れるくらいにはなってたんだと思う。
まあ、自分じゃまだまだだと思ってたから周囲の評価を信じてなかったし、今でも信じてないから、分からないけどね。

そんな折りに、ウィルに声が掛かったんだ。
アメリカのストバスブランド、And1から。
And1は魅せるバスケを生業にしてる。
アメリカを、回って興行もするし、その年は日本遠征も決まってた。
ストバスの良さをもっと多くの人に知ってもらって、盛り上げていこうって風潮だったから。

だから、私達は日本に居たんだ。
ウィルの気遣いで私もAnd1のサポートメンバーとして参加できたんだ。

「…お前、本当はバスケ好きなんだな」

唐突に青峰が呟いた。
静寂の中では酷くはっきりと聞こえてしまって、私は微苦笑を返すしか出来ない。

まあ、練習風景とかは割愛するよ。
興味があるなら、映像で撮ってあるからまた今度ね。
ははは、と苦笑する。
その時ばかりは皆、年相応に少年の表情に戻っていたから。

さて、話を戻そうか。
言えば、皆再び真面目な顔に戻ってしまう。
こんな顔をさせたい訳じゃない。
元々、こんな展開は本意じゃないのだから。
でも、今は彼等の望む通りにするしかない。

前置きは終わりだよ。
此処からが、本題。
私は当日、ほんの少しだけお客さんの前でパフォーマンスすることになってた。
光栄に思ってたし、凄く興奮した。
多分、其処で会ったんだろうね。
赤司と、黒子に。
私は、あの頃女であること自体がコンプレックスで。
多分男装してたんじゃないかな。

「そう、あの時はまさか女だとは思わなかった」
「僕もです。同い年の男の子だと思ってました」

赤司と黒子も肯定する。
つまり、やはりあの時の二人が今目の前に居るってことになる。

「今は骨格自体が違うし、まぁ、小振りだけど胸もあるからね」

苦笑混じりにそう返して、続きを語る。

私が出たのは二つ。
観客参加型の、ストバストーナメント。
アリーナでの試合の合間のフリースタイル。
ストバストーナメントは、年齢云々は関係なかったからね。
勝ち上がれば、アリーナでのゲームに参加できるって代物だった。
私は実力的にそこまででもなかったからね。
要は賑やかしってこと。

「あれだけできて、そんなことを言われると少し、ショックです」

隣で黒子が、言いながら口許を尖らせる。
私にとっては偽らざる真実だから何とも言えないけれど。

ちっさいのが、勝ち進めばそれなりに場も盛り上がる。
私も、好きなことを力一杯出来るんだから、とても楽しかった。
自分よりも大きい相手を抜き去るのなんて、本当に楽しかった。
でもさまさかそれが仇になるとは思わなかった。
準決勝で私は負けたんだ。
それでも、凄く満足してた。
充実感も、達成感もあった。
ウィルに教わった全てを出せたように思えたから。
あの、瞬間、コートの全てを把握できたような感覚。
ボールが思い通りに動く感覚。
説明出来ない感覚が身体を動かしてた。

早く、ウィルに話して、ウィルと練習したかった。
私は観客への挨拶もそこそこに、裏方に戻って、仕事をしながらウィルを探してたんだ。
そこで、私は聞きたくもない声を聞いたんだ。

漸く、ウィルを見付けて、駆け寄ろうとしたんだ。
瞬間的にウィルが目で制して私は立ち止まった。
私は小さかったから、ウィルの向こう側に居た人を見ることは出来なかった。
出来なかったけど、その声には聞き覚えがあった。
ウィルはその声の主と口論してたんだ。

そう、その声は間違いなく、私の父親だった。
あの頃、私は理解のない両親が何より嫌いだった。
だから、書き置きを残して、かってに日本に来てたんだ。
だから、直ぐに分かった。
父は私を連れ戻しに来たんだ、って。

でも、私は帰りたくなんかなかったし、両親といるくらいなら、ウィルと一緒に居たかったんだ。
だから、きっと余計に、だろうね。
父が放った言葉に酷く傷付いて、そして、酷く憤ったのは。

「何を、言われたの?」

桃井が酷く落ち着かない様子で、それでも尋ねて。
私は笑みを苦くして、答える代わりに続きを語る。

父は、ウィルに私にとっての禁句を言い放ったんだ。

「人の娘をたぶらかさないで貰いたい。バスケなんかやったところで、どうせ長続きなんかしないんだろう?ましてや、黎は女の子だ、今に現実が立ちはだかるだろう」

ってね。
女だから、できやしない。女だから無理だ、なんて、一体どうして決まってるんだろうね。
あの時の私は、その現実と戦えるほど強くなんかなくて、かといって諦めてしまえるほど大人なんかじゃなかった。
だからね、言っちゃいけない一言を、怒りに任せて、言ってしまったんだ。
決して言っちゃいけない、ってあんなにウィルに言われたのに。分かってたのに。
言えば、どうなってしまうのか。

その時にね、私は酷い罪を犯して、今はただ、ただ、その贖罪を、償いをしてるって訳だね。
だから、私はもう二度と、同じ過ちを犯さないために誓ったんだよ。

もう、二度と、言わない、って。
その為になら払える犠牲は幾らでも払う。
それが、幸せになることなら、私は不幸でいいよ。
それが、誰かに踏み込ませないということなら、私は孤独で良いよ。

だから、アンタ等の優しさも、嬉しいんだろうけど、もう、私には受け取れるものじゃない。
卑屈になってるわけでもなくて、意地になっているのでもないんだよ。
一度放ってしまえば、きっと際限なく、全てが引きずり出されるだろうから。
そうなれば、また、繰り返されるだけだもの。

だから、私は忘れることにした。
バスケのことも。
ウィルとの、大切な時間も。

だから、一定の年齢になって、一人でも何とでも出来るようになったから、私は日本で暮らすことにしたの。
きっと、私が傍にいれば、ウィルと両親はより、険悪になる。
そして、両親は精神を病むだろうから。

私は居場所を作ることをやめた。
ただそれだけ、それだけなんだよ。

停止ボタンを押すように、私は嘘のように押し黙る。
からから、からから、回る音。
ああ、今になってもまだ、あの時のことを思い出すだけで、こんなに、こんなに、私は不安定になる。
閉じ籠っていれれば安定もするのにね。

けれど、彼等は酷く険しい顔をしたまま思案を続ける。
きっと、静寂はまだ、続くんだろう。
そして、きっと、この静寂を破るのは、彼だ。

その前に、私が逃げ出してしまいそうだけど、きっと捕まるんだろう。
逃がすつもりのない彼等から逃げようと思えば、私は忘れるために封印してきた物の一つを解放しなくちゃならない。
そんなの、今の精神状態に追い討ちをかけるだけ。

分かってる。
今は、覚悟して、耐えるしかないんだから。
でもね、知っている?

私だって、人間なんだよ…






独白。
毒、吐く。

白昼夢のような陽炎に
私の精神の針は、今にも振れる

触れて、仕舞う…

(ああ、警報が、鳴り響いて)



To be continued?

鬼ごっこ。玖



鍵をかけた箱の中身。
記憶の奥底に封じ込めて。

そうして、忘れた…

筈だったのに。






しん、と静寂が降ってきた。
恐らく、私の溢した呟きの本当の意味を知っているのは、赤司だけなのだろう。
否、黒子も、か。

でも、誰もが私の次の言葉を待っているんだろう。
一言も発する事もなく、私を見ている。
やめてくれ、本当に。
今更、どう説明をして、どう、償えと言うんだろう。

あの頃の私はまだ、全てを諦められるほど、大人にはなれず、全てを背負って戦えるほど、強い子供でも無かったから。

「…どう、言えば良いのかわから、ない」

彼等に初めて、素直にポロリ、と本音が溢れた。
まさに、その通りで。
こんな、突拍子もない上に証明してみせることすら儘ならない事を、どうやって説明すれば良いのか、わかるはずもない。
もう一つの生まれてくるはずだった、命、の人格でもあったならまた、別だろうけれど。

思考が迷走して、私は再び黙りこくる。
言い出してしまえば、きっと封印していた全てが引きずり出されてしまう。
そんな、予感さえ過って。
いっそ、嫌ってくれればいい、とさえ思っていたのに。
何を選べば正解なのか、解ろう筈もないなら、選ぶべきは一体どれなんだろう。

視線が、まるで責め立てるように、私の発言を促して。
色とりどりの視線が痛くて。
私の表情から、遂には感情さえ抜け落ちた。
喧騒も遠くへと追いやり、酷く久しい感覚が戻ってきた。

ああ、禁断の匣の中身が絶望だと知っていて開けてしまう者の気持ちなんて、一生解りたくもない。
最後に、希望が残っているだなんて、決まっていないのだから。

きっと、あの日、あの時に受けてしまった致命傷から、逃れ続けるには、私は、幸せになる権利を全て差し出すしかないんだ。

「…けど、私は…。話すべきではないと思う。だから、話せるところだけ、かいつまんで、説明するしか、出来ない」

結論、私は結局あの日に追い付かれる手前でまた、逃げたんだ。
案の定、赤司も、黒子も納得がいかないって顔をしてる。
それでも、あの日の贖罪は私をがんじがらめにして、離さないんだ。
そんな、どうしようもないことに巻き込みたくはない。

「言えない理由くらいは、聞かせてくれるんだろう?」

ああ、御立腹だ。
私は抜け落ちていた表情にかちり、と苦笑をはめ込んで、答える。

「無理だね、どうせ、聡明な君のことだからバレるだろうし、これだけは言えるけど、其処にも核心はあるから」

話せない理由は、核心に触れてしまう。
それが一部分であれ、大部分であれ、触れられてしまえば、芋づる式に全てが引きずり出される。
だから、話せない。話さない。

「…そう」

寂しげに、でも何処か腹立たしげに返された一言に、周囲の温度が幾分か下がった気がした。
それでも、今更、甘えるだなんて…そんな虫の良い話は、酷すぎるだろう。
もう、十分に甘えてしまったのだから。

「逃がしてはくれなさそうだし、そろそろ頭も整理できたから…」

そう言って、彼等を見渡せば、皆一様に黙ったまま、目で静かに先を促した。

さあ、どうやって話そうか。
私の、罪の在処を。
私の存在意義を隠したままに。






一線を画して。
私は追憶する。

最も思い出したくない記憶と対峙する覚悟を決めて、私はそっと匣を開けるのだ。

(ああ、最後に残るのが、絶望ならいいのに)



To be continued?

鬼ごっこ。捌




それは、求めてやまない。
けれど、諦めていたものだ。



あ、と思った時には遅いことってのは意外とあるものだけど、今回のは飛びきり過ぎて笑えない部類だ。

「…顔に、傷付けられたんですか?」

青峰が貼った絆創膏を指でなぞるようにしながら、黒子は明らかに怒りを滲ませていて。
赤司は背中に黒いものを背負っている。
緑間の眉間には深い皺、黄瀬は泣きそうだし、紫原だけがマイペースに駄菓子を貪ってる。

だけど、このときの私は、最も恐るべき頭脳の持ち主を度忘れしていた。

「…かすり傷、だけど?」

一応の弁明を試みるも、あっさりと凍り付くような温度の笑顔のままで黒子がぶった切る。

「女の子の顔に傷、です。重さも意味も違いますよ」

じゃあ、どうしたらいいんだ。
アメリカじゃ毎日のように喧嘩してかすり傷作ってたけど。
まぁ、確かにウィルには毎回ため息混じりに頭小突かれてたから、おんなじ様な意味合いだったのかもしれないが。

ともあれ、思いっきり女扱いされるのには慣れていない。
くすぐったい感覚に、口ごもるしか出来なかった。



悲しいくらいに言いたい放題、彼等は言いまくって。
わたしは酷く落ち着かない気分で座っているしか出来なくなっていた。
そんな、閉塞されかけた状況を打ち破ったのは、奇しくも、私の嫌いなはずの女の子、だった。

「あーっ!!やっと見つけたぁーっ!!」

声のする方へ全員が振り向けば、スタイルのいい桃色の女の子が手を大きく振りながら、こちらへと向かってくる。

あ、と思った時には再び手遅れだった。

「黎ちゃんの顔に、顔に、傷っ!?」

わなわなとし始めた彼女からそこはかとなく、殺気が立ち込め始める。
おい、まさか。そう思った時には彼女は真っ黒な笑みを浮かべて、言い放っていた。

「やっぱり、言われた通り調べて正解だったわ…許さないんだからね…」

おい、待て、美人が凄むな、怖いから。
なんて、心の叫びは伝わるはずもなく。
明日以降の学校生活で憂き目に遭うだろうお局様方に内心で合掌するしか、やってやれることは無かった。

「あー…、止めたところで無意味なのかな?」

そう言ったところで、駄菓子を貪ってるマイペース男子が酷く場違いな、語尾の延びた話し方で、死刑宣告を告げたのだった。

「え?当たり前でしょー?捻り潰すよー」

あ、と思った時には手遅れとは、まさに。
ともあれ、私は前にも聞いた問いをこの場でもう一度投げ掛ける。

「何で、そこまでして私に関わるの?」

だってそうだろう?
私が誰と付き合おうが勝手であるように、私が誰と問題を起こそうが、極論、いじめの対象にされようが、彼等にとっては他人事だろうし。

放って置けば、良い話だろう?
だから、問うのだ。何故、と。

「君は、本当に酷いね」

苦笑に溜め息を混ぜて赤司は、私を見据える。
落ち着かなくなっていた私の居心地はさらに、落ち着かないものになる。
それでも、逃げ出すこともできないから、口をつぐんだまま、赤司を見詰める。

「覚えていないのか?本当に…」

苦笑は、寂しさの混じるものへと移り変わる。
それは、赤司だけで、他の奴等はその台詞に困惑気味な視線を向けていた。

「……僕は、覚えていますよ、黎、さん」

そんな中で黒子は赤司の言葉を継ぐように私の直ぐ隣で答えた。

わから、ない。
それが、正直な私の答えで。
彼等に会うのは、此処が初めて、の、筈…。
本当に、そうか。
過去を紐解いて、遡って、私は一つの可能性に行き着いた。

奇しくも、此処は、ストバスコート。
あの日、あの時の記憶の隅にちらつく赤。
まさか、そんな、馬鹿な。
だとしたら、神は本当に意地が悪い。
そして、私は相当に、酷い奴、だ。

「AND1…」

俯いて、私はぼそりとこぼした。
その単語に、赤司と黒子が、安堵したように息を吐いた。

ああ、やっぱりそうらしい。
ウィル、どうやら、私は色々と忘れてたみたいだ。
人と関わるのが苦手で、怖くて、辛いから逃げていたせいで、人を傷付け、遠ざけて、平気になっていたみたいだ。
それが、独り善がりだってことも、見ない振りをして…。






何時しか、望むことを止めた。
そうして、何時しか、本当の笑顔を…

忘れていったんだ…


(どうしてだろう、今が一番逃げてしまいたい)

to be continued?
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