2012-11-14 04:27
はらり、ひらり、捲れたカードの裏側で大鎌を持った死神が嘲笑って…
おは朝の占いを気紛れに見たのがいけなかったっていうのか。どうやったらこんな事になるって言うんだ。
私は神様って奴がもし居るならいの一番に文句を言わないときがすまないだろうな、と目の前の光景から逃避しつつ、ヘッドフォンから流れる音量をこっそり上げた。
因みに、おは朝の占いは皮肉にも一位で、特に恋愛運が絶好調とかあった気がしなくもないような、するような。
でもね、私は断固として拒絶するから。なんなのさ。朝っぱらからマンションでて数分で赤い髪の毛を発見して登校ルートを変えなくちゃならなくなったし、下駄箱には大量の紙、紙、紙。
廊下では背後に気配で必死に気付かない、見えてない、聞こえてない振り。
教室の前には紫色の髪した巨人。
ああ、くそ。
もういいや。こいつ、確かこれで黙るだろうし。
「えーと、あんたが黒崎とかいうやつー?」
「Ja. was ist das?」
「あれー?日本語じゃないしー、面倒ー、日本語で話してよねー」
「 Sie essen nicht mir sogar dieses Schweigen? 」
彼の要求を完璧で鉄壁な笑顔でかわして開いた口にまいう棒の新味を素早く取り出して中身を口につっこんでやった。
これは私的にはかなりしてやった感がある。
でも、狙った通り、もぐもぐと何処か驚きつつ、でも彼は黙る。その間に脇をすり抜けて教室に逃げ込んだ。
あー、餌付けも危険だからあまりしたくはなかったけど、サボる気にもならなかったから仕方ない。
後はヘッドフォンから流れる音楽で逃避し続ければ授業中までは逃げ切れるでしょ。
しかし、一体何でこんなことになったのか。
どうせ、私の隣の席の真っ赤な髪をした彼が原因だろうけど。
登校ルートでは彼が、廊下ではおそらくは影の薄い彼だろうし。
挙げ句紫色の髪した巨人。
あー、ファンクラブのお局様に軽く睨まれたりしたらどうしてくれんの。
私はぶっちゃけ外見は中学生のガキだけど、極めて特殊な記憶のせいで精神年齢成人だからね。
付き合いきれんし。女の子のそういう集団行動とか、集団心理とか苦手だし。
だから、この学校のスター的なあいつらとは絶対に関わりたくないとすら思ってるからね。
はあ、今日何度目だよ溜め息。
だって、寝た振りしてんのバレてるくさいんだ。
刺さってる、刺さってるよ。視線。
でも顔はあげない。
今更上げたら死亡フラグでしかない。わざわざ回収するわけがない!へし折るに限るでしょ。
カシャッ
そう、心に決めた途端、ヘッドフォンが奪われてシャカシャカと、ヘッドフォンからどっか抜けてる音漏れがする。
「無視するなんて、いい度胸じゃない?」
「……」
音を奪われて反射的に上げた顔のすぐ近くにオッドアイが不敵な笑みと共にあって、私は反射的に出そうになる溜め息をすんでのところで呑み込んだ。
まだ、ハサミの錆びにはなりたくない。
寝ぼけたふりして今度は英語で返す。
多分彼なら会話程度の英語ならできると思ったから。
「 Return, because I liked it best! 」
「 Such terrible, who is here Are you better than us? 」
「 I wonder if you know say? The trouble is I hate. 」
あ、と思ったときはもう口をついて本音が零れた後だった。
にぃ、と目の前の整った顔が笑みに歪む。
あーぁ、これはよくない。よくないぞー。
でも、しかし、うん。
私は気が長い方じゃないし、言いたいことを我慢したまんまだとイライラするタイプでもある。
前世と違うのは長い海外生活が言いたいことを我慢してでも波風立てないようにしてきた性格を大きく変えたことかもしれない。
や、そりゃ空気は大抵は読むけど、それでも言いたいことを結構すっぱり言えるようになってて、おまけに英語だとやっぱ、拍車をかけてズバッと発言してしまう。
まあ、向こうじゃそれが普通だったし。
もっかい言うけど空気は読むけどね。
思うことすら言えないって結構恥ずかしいことなんだよね。
あー、そんなことよか明らかに獲物を見つけた眼だよな、これは。
あー、うー。明日からの登校は極力ギリギリにしよう。
そう、ひっそり決意して英会話、文字通りの会話をしていたせいと、赤司のせいで教室の視線を二人じめしていることに耐えきれなくなった私は早々に赤司からヘッドフォンを取り返すと鞄に仕舞う。
「楽しめそうだよ」
くすりと笑ったその笑みが何処かで見たトランプのジョーカーの笑みと重なって、私はうすら寒い背筋の震えを追い払うようにせんせー、早く来い、と願わずには居られなかった。
捕まってやる気は、微塵も、ないから。
知らなくていいよ、どうなるかなんて。
(逃がすとでも?)
続く?