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無情

今と膝




獅子が笑っている。短い刀で刃を弾いて飛び退る。懐に入り込んで、喉笛を掻き切ってしまえば終わりなのに。何度とないやりとりに、体力は奪われてゆく。なにがおかしい。なぜ笑っている。

影がさした。目の前に、背を向けて立ちはだかる見慣れた姿。
「もうやめてくれ! 姉者!」
悲痛に叫ぶ声は、ぼくのためだろうか、だれのためだろうか。ぼくには目の前の動物しか見えていなくて、どちらでもいいと、沸騰した頭は考えを放棄する。
「邪魔ですよ、薄緑……!」
勢いに任せて刃を突き立てた。頭が冷えた。いま、ぼくはーーぼくは?
鋭く駆ける足音、殺気。薄緑の身体から刃を抜いて振り返る。けれど、すぐ目前で光った。光ったそれは、身体にめり込み、一瞬でこのからだを斬り裂く。その視線は、みたことが、あるような、なつかしいような、おかしな感じがした。焼け付くような痛みの最中、むこうに、いとしい姿が目に入る。どうして?
「うぐいす、ねえさま」

あおむけになったぼくのすぐ横に、手放した短刀が落ちて、きん、と切っ先が弾かれる音がした。
「今際の際の断末魔なら、鳥(からす)でもちょっとはマシなんじゃないのか」
うるさい。うるさい。うるさい鳥の声。
「あなた……みたい、に、っぁ……っごほ……喧しい、鳥は、だいきらい……です」
だいきらい。こどもみたい。けんかをしたこどもみたい。
うるさい鳥のむこうに見える、うつくしいひとの表情は、もう視界がぼやけてしまってわからない。
「ねえ、さま……うぐいす、ねえさま……あいしています、あいして、います」
血濡れの声はとどいているかしら。いなくてもかまわない。なまえを呼べただけでかまわない。
焼け付くような痛み。冷えていくゆびさき。

薄緑、ごめんなさい。ぼくをかばった薄緑を、どうかせめないで。
鶯ねえさま、どうか笑っていて。脚に巻きついた糸を取り払って、いつか自由に飛んで。
そこの喧しい鳥は、その不器用なくちばしで、小鳥を縛る糸をはずすことができますか?

閉じかけた目のむこう、母の幻影が重なった。
どうして、どうして、あの、白い鳥に、
「………おかあさん……」
ああ、ああ。あいしています。あいしています。
ぼくのめには、あいするひとのすがたしか、うつっていませんでした。



---

多量の出血で意識が朦朧としていた。刺された腹から血が流れ、コンクリートを汚す。
自由な片目だけで見上げると、姉が笑っている。
「今際の際の断末魔なら、鳥(からす)でもちょっとはマシなんじゃないのか」
視線の先には、五条の鶴がいるらしい。そして。
「あなた……みたい、に、っぁ……っごほ……喧しい、鳥は、だいきらい……です」
背に感じる重みと幼い声は、紛れもなく、自分が守ろうとした子供の、今剣のもの。長くは持たぬと、その声は語っている。

まただ。また何も守れなかった。
何もできなかった以前とは違う。いまこそは裏切った。何にも代え難い姉を裏切り、刃を向けたのだ。
再び目の前がぼやけ、頭が重くなる。そのうち死ぬのだろう。声は出ない。指も動かない。言い訳などいらぬ、これでよいのだ。このまま、串刺しにされた蛇は、干からびて朽ち果てるのだ。


白い天井。点滴棒。
生かされていた。情けか、罰か。罰だろう。あのまま終わるのだと、愚かにも安堵した。しかし生きている。生かされている。おそろしい。これほどにおそろしいことは、いまや他に存在しない。
乱暴に点滴をを抜き、傷が開く痛みにも構わず、室内を物色する。誰かが忘れたままの、埃をかぶった花瓶が目に入った。ちょうどいい。
陶器の花瓶が割れる音は、これから行う行為に対して少しの罪悪感をもたらす。刃となったそれに願いを込めた。

あの時、もう片方を姉に潰された時は、もっと痛かったような気がする。精一杯の力を込めて貫くと、ぽたぽたと服に血液が落ち、冷たく湿っていく感覚がした。徐々に震えてゆく手に力が入らなくて、陶器の刃がするりと抜け落ち、床で砕ける音がする。
暗い? 赤い? 黒い? 目が、開かない。
無様に穴の空いた目が何も映さないことに安堵した。そのまま倒れこみ、強かに頭を打ち付けたが、もう、どうでもいい。
使い物にならなくなった『薄緑』は棄てられるだろう。『膝丸』の処遇はわからない。少なくとも、自分が愛するものを見ることは、二度と叶わぬ。近づくことさえ許されぬだろう。

愚鈍な妹から姉へ託す。
願わくは、姉妹に、自由を。
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それははじめての

今薬今 





十六になった冬。級友に年が追いついた頃。

ぼくは女になりました。


なにをいっているんですか、三日月おねえさま。三条の子はぼくだけなんです。ぼくのあとを残さなければなりません。これはぼくのお役目。
だいじょうぶです! ぼくはもうこどもじゃないんですから!


ずっと胎になにかが入っている。なにも入っていないのに。あのおぞましいものはとっくに、なんにちも前に、ぼくの胎から出ていったのに。
顔などおぼえていない。ええと、なんという家の血統書付きのいぬだったかな。候補のひとりにすぎないそれの顔なんて、おぼえている必要はない。だってこれから、何匹ものいぬの相手をするはずだから。


きもちがわるい。さわらないで。
きたないこえでぼくのなまえをよばないで。

いたい。いたい。
やめて、やめてください。おねがい。
いや、いやだ、ああ、ああ。
(おかあさん、おかあさん、たすけて)



何日も学校を休んだ。部屋に塞いでいたら三日月おねえさまが心配するから、月経で体調がすぐれないのだと言って、夕飯には顔を出した。
かくれるみたいにして、学校にいった。みんながちがう生き物に見えた。ちがう。ぼくが異端だった。また、かくれるみたいにして、学校から帰ろうとした。
「今? 久しいな、帰りか?」
ああーーいちばん会いたくなかったひと。いちばん、会いたくて、会ってはならなかったひと。
うつくしいひと。ぼくの恋しいひと。どうしていまなの、神さまは、ぼくのことがきらいなの。あんなに、あんなに、がまんしたのに。思い出さないように、きっと空想の女神さまだったんだと言い聞かせて、わすれていようとしたのに。ぼくの目は、あなたをみる資格がもうないのです。
視界がぼやけてうつむいたら、ぽたぽたと涙がこぼれた。どうした、なにかあったのか、やさしい声がぼくを責める。ごめんなさい、そう言うだけがやっとで、ぼくは逃げた。ごめんなさい。
だいすきな鶯ねえさま、ごめんなさい。


「薬研、でて、でてください」
気づいたら、薬研に電話をかけていた。ぼくには彼女しかいない。いままで、だれもぼくと目を合わせてくれなかったから。
呼び出し音に話しかけながら祈る。おねがい、声をきかせて、そうでないと、ぼくは。
「今、いーま! 出てるって! 繋がってっから落ち着け!」
ぼくはさらに泣いた。
「やげ……やげん……う、うあ、あぁ」
「大丈夫だから、落ち着け。大丈夫だ。先に帰ってごめんな、今日も休みだと思った。いまどこにいる? 学校の近くか?」
「はしの、むこうの、こうえん」
「そうか、そこで待ってな」
ごそごそと電話越しに音がする。ぼくはこわくなった。
「き、きらないで」
「通話か? ……大丈夫だよ。繋げとく」
薬研の声は、いまのぼくにとってはなによりもやさしかった。たった一本の電話をしただけなのに、用件なんてつたえられていないのに、ぼくのために、薬研は走ってくれる。ぼくはもっともっと泣きそうになって、慌てた薬研になだめられた。



その夜、俺は今の部屋にいた。屋敷に招かれた時は世界の違いに頭が痛くなったが、傷ついた今をひとりにしておくことなどできなかった。三条の者には、顔を見ていない当主にだって、どうせ大丈夫だと言い切っているのだということは想像に容易い。彼女のプライドの高さは知るところだ。
だから俺に頼った。気を許せる使いの一人も、ここにはいやしないのだ。
今の部屋はやたら広く、生活感がない。兄妹の多い自分には無機質に映った。毎日ここでぽつりとひとりで過ごす今を想像すると、この寂しがりやには広すぎるような気がした。
茶が運ばれてくる。茶受けの菓子も添えてあった。家族旅行で行った旅館でしか見たことがない。
「熱いですから、きをつけてくださいね」
すっかり涙も引っ込んだ今は、むしろ、どこか楽しげだ。
「おともだちをお部屋によぶのははじめてなので、なんだかうれしいんです」
はにかんで笑う少女が悲しい。注意されたにもかかわらず、茶はとても熱かった。

休んでいた間は大丈夫だったか、体調はどうだとか、ぽつぽつ会話を交わした。交わした会話の中には、今がどのような立場でいるのか、初めて知ることも多かった。そして、今がどのような目に遭ったかを聞いた時、息が止まりそうになった。
「薬研、あなたにたのみたいことがあるんです」
言葉を紡げずにいる俺に、今は静かに言う。
「……ぼくに触れてほしいんです」
ちいさく呟いたあと、今の顔が泣き出しそうに歪んだ。膝の上で握った手が震えている。
「ずっと、思い出して、ゆめを見ることも、こわいんです」
ついにこぼれた涙は、電話先で泣きじゃくっていたものとは違い、重たく、大きな粒だった。
「……いやですよね。ふつうじゃないですよね。ごめんなさい、」
今が言い終えた頃に、小さな身体を抱きしめていた。とん、とん、と背中を撫でる。泣いた兄妹をなだめる時のように。
「泣いてもいいが謝るな。今、覚えてるか? 今と初めて会った時」
あれは暴漢に襲われそうになった時。掴まれた腕の気持ち悪さをいまでも覚えている。
「そんなちっせぇ身体で俺のこと守ってくれただろ」
「ぼくは、これから、おおきく、なるんです」
「はは、そうだな。あの時の借りもあるし、もちろんそれだけじゃない。俺だって今を守りたいんだよ」
頼ってくれよ、電話かけてきたみたいに。なんだってしてやるさ。
今はとうとう泣き出して、痛いほど抱きしめ返された。やげん、やげん。名前を呼ぶばかりで、いや、何か言っているのかもしれないが、それは聞き取れない。
いいよ、ふつうじゃなくて。だって今はずっと、ふつうじゃない場所で、戦って、生きてきたんだろう。
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僕らの愛を君に

ひげひざうぐ3P(R18)





春も近いというのに、窓の外は雪景色。とはいえ、木の葉を飾るように薄らと積もるだけの雪は、明日の朝には姿を消しているだろう。窓を開けててのひらを伸ばすと、はらりと粉雪が落ちてきた。

「さっむ! なんで窓なんて開けてるのさ、鶯。閉めて、閉めて」
髭切は両腕をさすりながら部屋に入ってきたが、その格好は相変わらずのノースリーブだ。窓が開いていなくても寒かろうと思った鶯だが、素直に窓を閉める。
「……まあ、姉者の言う通りだ。鶯は身体が強くないのだからな」
髭切の後ろについてきた膝丸も、一瞬は鶯と同じ感想を抱いたようだが、鶯に心配の声をかける。まあまあ。膝丸が座卓に置いた茶を一番に取り、啜り始めたのは鶯だった。

性感がない、ということを、本人以上に気にかけているのが、この姉妹だ。あの事件を知っている。扉一枚挟んだ向こう。助けられなかった。鶯との面会が許された時、膝丸は泣いて泣いて謝罪した。まあなんだ、おまえが泣くことはない、辛かったのはおまえもだろう。そう言った鶯の顔を見て、膝丸は余計に、喋れないほどに泣き出してしまった。

試行錯誤は続いている。主には髭切が、鶯と性交し、あれやこれやと試してはみるのだが、身体だけは生理的な反応を示すものの、鶯は戸惑うような、申し訳なさそうな表情を浮かべるばかりだ。ありゃ、だめかあ。そうだなあ。髭切はうんうん唸りながら、鶯の身体を拭いてやる。
思えば、鶯が愛をなくしたのは、いつだったか。髭切には、二人の関係の深さは計り知れない。けれど、決して疎くはない。あれと関係を持っている間から、すでに、その目は恋を忘れ、博愛をたたえるだけだった。そう記憶している。
唯一の愛を、恋を、もう、忘れてしまったのか。思い出すことは、彼女の精神と、なくした感情に、変化をもたらすことはないだろうか。
他愛のない話をしながら煎餅を齧っていた髭切が、煎餅を咥えたままぼうっとしている。パリパリと鳴っていた音が消え、膝丸は首を傾げた。
「姉者、どうかしたか?」
「んー……」
ごくり。半端に砕いたまま飲み込んだ煎餅が喉を下り、痛みに茶を流し込む。その間に鶯も湯呑みを置き、怪訝そうな膝丸の視線もそのまま、髭切は注目の的になっていた。
「いやぁ、ただの思いつきなんだけど」
彼女は時折、突拍子も無い。髭切の「思いつき」の提案に、膝丸は湯呑みを倒して飲みかけの茶が服を汚した。



「……み、みないでくれ」
「こら。見てもらわなきゃ、意味ないでしょ」
愛し愛される姿を彼女に見せてやれば、あるいは、何か変わるのではないか。そう閃いた髭切は、無理だ駄目だと逃げ惑う膝丸を捕まえ、腰が抜けるまでキスを仕掛けた。なるべく、鶯にも見えるようにしながら。
「はぁっ、あ、姉者、まってくれ」
「だぁめ。今日はたっぷり愛されてね、妹」
クッションの上に寝かせた膝丸の上に馬乗りになり、シャツのボタンを外す。その間にも首元にキスを落とし、耳を軽く噛んでやる。
「いいのか? 俺が見ていても」
「そうじゃなきゃ意味ないんだよ。見て、ふにゃ丸の目」
「膝丸だぁ……っ」
抗議しながらも。その目は潤み、切なく髭切を見つめ、恋しさと期待を孕んでいる。じいっと見つめられる視線を感じた膝丸がこわごわ横を向くと、そこには真剣な眼差しで自分を見つめる鶯の顔がある。
「案ずるな、膝丸。姉は優しいだろう?」
「っ……うぅ」
赤い頬をますます真っ赤に染めて、膝丸は諦めた。
『ね、鶯のためだよ』
そう、耳打ちされてしまったら。


「はぁっ、ん……あ……っ」
三人とも衣服を脱ぎ、素裸になった。布団も敷いた。部屋に響くのは、肌に吸い付くリップ音と、くちゅりと粘ついた水音、悩ましい吐息混じりの甘い声。
「や……あねじゃぁ……」
「姉はここにいるよ。……膝丸」
ああっ、と声を上げた膝丸は果てた。膝丸は、名を呼ばれることにひどく弱い。びくびくと身体を跳ねさせ、やがて脱力した膝丸の唇を塞ぐ。
「んっ、んぅ……」
「ん……ふふ、かーわい」
髭切は目配せした。鶯は控えめに覗き込む。蕩けきった甘い顔。すきなひとに愛され、満たさた、それでもまだ求めている、恋をした女の表情。
「どう?」
「ああ。可愛いな」
愛でたくなる。そう呟いた鶯の手が、無意識に膝丸の頬を撫でる。その手の温かさに、膝丸は頬を擦り付けた。
「……妬いたか?」
黙った髭切を見て、可笑しそうに鶯が問う。
「うーん……そうかも」
これが、恋か。鶯は、二人の表情を見て納得する。愛らしい乳姉妹。この二人の絆は、血筋だけではないのだ。
「鶯は?」
「ん? なんだ」
髭切は、おもむろに鶯の手を取り、自身の恥部に触れさせた。そこは熱く濡れ、離せば糸を引きそうなほどだ。
「妹を可愛がってると、なんていうか、自分も気持ちよくなっちゃうんだよね」
そう言う髭切の表情は穏やかで、慈しむように膝丸を見ている。髭切に問われ、鶯も自分のそこに触れてみた。濡れる、とは程遠い。
「そうだな。二人のやりとりに、少しは反応したかもしれない」
湿っているような、いないような。けれど心はどこか満たされていた。
「まだまだってとこかぁ。ねえ、妹、平気?」
「……っ、ああ、へ、平気だ」
二人が会話を交わす間、ぼうっとしていた膝丸だったが、胸を駆け上がる羞恥に顔を背けた。が、しかし、姉の提案は尽きない。
「起き上がれる? うん、いいこ。脚広げるよ」
「待っ……!」
後ろに回り込んだ髭切は膝丸を抱き込み、宣言通り膝丸の両脚を広げて見せる。目の前には鶯。膝丸はわなわなと震え、両手で顔を覆った。
しとどに濡れぼそったそこは、先程まで髭切が愛撫していた場所だ。まじまじと見るのははじめてだったが、自然と興味が湧いた。ここに触れたら、どうなるだろう。
「可愛がってあげて?」
「姉者っ、なにを言って、っあ、あん、や、」
くすくす笑う髭切は、すでに膝丸の両脚を解放していたが、膝丸が気づく余裕はない。後ろから両方の胸を揉まれ、頂をくにくにと遊ばれる。もはや姉にされるがままだ。
鶯はじいっと観察する。ひく、と時折動いては、こぽりと愛液が溢れるそこは、喜んでいるようだ。そうっと、小さく主張する突起に液を塗りつけると、膝丸の身体が大げさに跳ねた。
「っひぁん」
「妹、そこ好きだから、弄ってあげて」
「そうか」
「あッ、ひあ、なに、言って、ああっ……!」
ほうっと息をついた鶯は、数度指で転がすと、好奇心にかられ、そこへ顔を近づけた。不思議な匂いがした。てらてらと濡れた突起を口に含む。膝丸の口からひときわ高い嬌声が響いた。ころ、と転がせば、膝丸の手にくしゃりと頭を撫でられた。本人は撫でたのではなく、制止の意味合いだろうが。
「わお。大胆だね、鶯」
「あっあっ、あ、いやっ、だッ、うぐ、いすぅ……っ、やめ、」
「ん、嫌か?」
「気持ちいいんだよね?」
「やあぁんっ」
ぎゅう、と胸の突起を抓られ、視界が白くなる。軽く絶頂した膝丸の思考は混乱していた。布団が汚れてしまう、鶯が見ている、ああ、指が、指が。
「温いな」
「ううぅっ」
「あ、そこは僕の。じゃあさ、こうしようか」
いたずらが過ぎたようだ。髭切に言われるままに移動する。
鶯は膝丸の脚の間に入り、髭切はそのまま、膝丸の好きなところに手を伸ばす。快感に喘ぐ膝丸の息が鶯の胸にかかり、鶯はその頭を撫でた。
「んんっ……ふぅっ……」
膝丸は頭を撫でられて心地よかったのか、目の前の、つまり鶯の胸に吸い付いた。身体がびくつく間にも、ちゅうちゅうと必死に鶯の胸を吸う。まるで赤子のようだと、鶯は膝丸の頭を抱き、優しく髪を梳いた。
「んぅ、あ、うッ」
ぐちゅぐちゅと音がする。無遠慮に中を掻き混ぜられ、膝丸は鶯に縋った。
「うん、うん、気持ちがいいな、膝丸」
「ひ、んっ、アアッ……うぐいす、うぐいす」
「ずるいなぁ鶯。いま妹を可愛がってるのは僕なのに」
「ああ……あねじゃ、うぐいす、……あ、あ、も、やらぁ……っ」
口が回らなくなった膝丸は、限界が近い。髭切は鶯とアイコンタクトを取り、膝丸の頭上でキスを交わす。その間に髭切は身体を揺らし、膝丸の肩に胸を擦り付け、快感を得る。
淫靡な水音と熱い吐息、嬌声。どれもが聴覚を犯し、熱く熟れて昂ぶる身体。鶯は、やはり快楽を得ることはない。しかし、心なしか熱い吐息が、髭切に絡め取られる。
「んーッ……あぁ、んんんっ! う、うぅ……ッ」
膝丸が果て、ぐにゃりと身体の力が抜けたのを合図に、三人は散り散りになる。髭切は唾液が滴る唇を舐め、半ば強引に膝丸の顎を持ち上げて唇を塞ぐ。それでは膝丸が息ができない、そう思った鶯だったが、口を出すのも野暮な気がして、おそらく一番の功労者である膝丸を労わるように手を握った。ゆるく握り返してくる手が、いじらしく愛おしい。
「っはあ……! あ、あねじゃ、しんでしまう……!」
「ごめんごめん。おまえが可愛くて」
膝丸を宥めながら、ふと鶯を見やった髭切は、また無遠慮に鶯の恥部に触れた。恥ずかしがるでもなく受け入れた鶯は、小首を傾げて髭切を見る。髭切は笑った。
「ちょーっとだけど、濡れてる」
「ああ……膝丸が愛らしく吸ってくれたからかな」
「ーーっ……」
くたくたの膝丸はあいもかわらず顔を真っ赤にして、ああ、だの、うう、だのと唸っている。
「それだけ?」
「そうだな……二人が愛おしいと思った。愛し合い、俺にもその愛を分けてくれたのだから」
理性と身体が繋がっていなくても、心と、身体は、きっと繋がっている。身体は満たされなくとも、心が満たされている。
「ありがとう、ふたりとも。……膝丸、膝丸。今晩は膝丸の好物を食べようなぁ」
鶯は、膝丸に軽くキスをした。髭切はなんとなく複雑だった。そんな髭切を見て、鶯は笑うのだ。


「………うぅ」
膝丸は二人の顔を見られないでいる。恥ずかしい。あんな姿を、姉だけにならず、ふたりに見られ、それどころか愛されてしまった。恥ずかしい。今だけ消えてしまいたい。
「いーもーうーとー。せっかくの料理が冷めちゃうよ」
「ああ、取って食べたりはしないぞ。食うのは飯だ、膝丸」
取って食べられた膝丸は、信用ならぬと思いながらも、渋々ふたりに顔を見せる。たしかに、自分の好物が並んでいる。……食べたい。
「たんとお食べ」
「好きなだけ食べていいぞ」
「…………いただきます」
姿勢を正し、箸を取る。膝丸の顔が綻んでゆくのを、ふたりは微笑ましげに見ていた。
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うそつき

髭膝(R18)




シャツのボタンを外す手が震えそうだ。しかし、姉の手をわずらわせるわけにはならない。

さあ、自分でお脱ぎ? いいこだから、できるね?
ああ、そんな声で誘惑しないで。はやくはやくと、身体が急いてしまう。一番下のボタンを外す。そのままシャツを脱ぎ去る。姉と比べては物足りない胸を、控えめなレースがあしらわれた白の下着が包んでいる。
「あは、かわいい」
顔が熱くて、目の奥が熱くて、身体はもっと熱い。羞恥に俯きながら、下着のホックを外そうとする。しかし、それは遮られた。
「ここからはお姉ちゃんに任せてよ。恥ずかしがるおまえの顔が見たかっただけだから」
「あっ、姉者……!い、意地が悪いぞ」
「ええ、意地悪されるの好きでしょ?それにね」
ぐっと腰を寄せられ、すらりとした姉の脚が膝丸の脚を割り、タイトスカートの中に手が潜り込む。膝丸は慌てて姉の手を掴むが、もう片方の腕に肩を押され、シーツの上に押し倒された。同時に唇を塞がれると、制止の声も出ない。布越しにそこを擦られ、湿り気を帯びたショーツからじわりと愛液が染み出した。
「んっ、んう……っ!」
「ん……ふふ、すごい、濡れてるよ?」
くちゅくちゅと小さな音が聞こえ、膝丸は羞恥と刺激にいやいやと首を振る。腰までずり上がったスカートは、もはや衣服の意味をなさない。
「やぁ、だっ、姉者……!」
「シャツを脱いだだけなのにねぇ、僕に見られてそんなに興奮した?」
耳元で囁く声は甘く艶を帯び、膝丸はもうたまらない。きゅんと腹の中が疼き、愛液が溢れ出すばかりだ。
「あぁ、あ……! それ、やっ、いやだ……ッ!」
布の上から陰核を引っ掻かれ、何度かそれを繰り返されると、いとも簡単に果ててしまう。びくびくと跳ねた身体は余韻を残したまま不規則にぴくりと動き、膝丸は目元を覆って鼻をすすった。
「ありゃ……怖かったかい? よしよし、泣かないで」
「泣いて、ない……ただ、姉者が、いきなり、んぅ……」
先ほどよりも深く、やわらかなキス。弁解は聞いてもらえない。舌を合わせ、絡み、蕩けるように甘い渦の中に落ちてゆく。
これから始まることも、知らないで。



「あね、あねじゃ、あ、あっ、も、やめ、」
「僕もかわいい妹にこんなことはしたくないんだけどね。答えて、膝丸?」
胎内に埋まった細い指先が、膝丸を犯す。膝丸、耳元でそう呼ばれ、また果てた。陰核を親指で捏ねられる。過ぎた刺激に涙が溢れて止まらない。
一糸まとわぬ姿の膝丸とは対照的に、髭切は首元のリボンひとつも乱していない。一方的な行為。抵抗しようと思えばできたのかもしれない。けれど、そんな思考は、母親の腹の中に置いてきた。
はずだった。
「最後にあの子に会ったのはいつ?」
「………もう、覚えて、ない」
「うそつき。悪い子は好きじゃないなぁ」
「やああッ、あ、ぅ、ほんとう、に」
「大体予想はつくけど、おまえの口から聞かなきゃ意味がないんだ。素直におなり?」
「姉者に嘘など、つけ、な、あっ、あぁ、また、また、」
「うん、いってからでいいよ」
「ああああっ」
くちゅくちゅとわざと音を立て、二本の指が、何度目かの絶頂を与える。膝丸の身体に変化が訪れると、髭切の口元が笑った。いや、いやだ! 髪を振り乱し、シーツを握り締めた膝丸は、がくがくと腰を震わせる。愛液ではない透明な液体が小水のように溢れ出て、髭切の手にも、服にも飛沫がかかった
「ごめ、ごめ、なさ、あぁ、ああ……!」
うそだ、うそだと膝丸は泣いた。粗相をしたのだと思ったのだろう。それでもいいと、髭切はまた、膝丸の中を抉る。
「ほら、言わないと、また僕の服が汚れちゃう」
あの子に会ったのは。
「ううっ……うぅーーッ……」
今剣に、会ったのは?
「……っは……半月、まえ……」
「へぇ、そっか。はー、おまえも頑固だねぇ。時間がかかったけど、いいこには、ちゃあんとご褒美をあげるよ」
髭切は膝丸をぐずぐずの快楽から解放し、真っ赤に染まった目元に軽く口付ける。汚れた服などどうでもいいとばかりに、リボンを解いて脱ぎ捨てた。



温く設定したシャワーがさあっと湯を降らし、淡い湯気が立つ。一緒にお風呂に入ろう。たったそれだけの褒美に、ああまでされた妹は喜ぶのだ。
「さ、おいで。背中を流してあげる」
「姉者にそのようなことは、むしろ俺が」
「そんなにフラフラで? ま、僕のせいだけど」
「姉者……!」
はいはい。耳まで赤くした膝丸を椅子に座らせ、ボディソープのポンプを押して手に泡を出す。もちろん背中を流すなんて嘘だ。
「ひんっ」
油断していたのであろう、膝丸の胸を泡で包み、頂を摘んだ。そのまま揉みしだくだけで指が突起を擦るようで、大層気持ちが良さそうだ。
「ぁ、んっ……っ、う、うそつき、」
「最初のうそつきはおまえだよ?」
「ーーっあぁん……!」
片手で腹を撫で、散々弄ってぷくりと膨れた突起に泡を塗りつける。思いのほか良い反応に気を良くした髭切は、ぱっと思いついたようにシャワーヘッドを手に取った。
「脚開いて、ここ、自分で持っててね」
「え……っ」
脚を開かせたそこへ、シャワーの湯を当てる。仰け反った膝丸の背中を支えるついでに、もう片脚も広げさせた。ごぽ、と排水口が水を吸う音がする。
「どこかなぁ」
「ひっ、やぁ、湯が、な、なかにッ」
「ナカに入っちゃうって? エッチだなぁ、僕の妹は」
「やだあっ……ッア、」
ぴん、と脚が引き攣る。ここか。良い場所を探してシャワーを傾けたり回したりするうちに、当たったようだ。少しだけ水圧を強くして小刻みに揺らすと、かたかたと脚が震える。
「気持ちいいんだ?」
「ひあっ、あっ、あっ、ダメ、あねじゃ、こわい、こわいいっーー」
ぷしゃあ、とシャワーに負けない勢いで潮が吹き出し、弧を描いて床の湯と混ざる。あーあ、とわざと落胆の声をかければ、何度も謝罪が返ってきた。
「ご、めん、なさい、ゆるして、あ、姉者……っ」
「ダメだなぁ」
もっと虐めたくなっちゃう。


ベッドで寝息を立てる妹の頭を撫でながら、煙草を咥える。ああ、かわいい妹。僕の気も知らないで。

あれは三日月の差し金だと、嘘を教えてやらなくちゃ。
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今剣の場合

今剣→鶯





ぼくはあれがだいきらいです。あれはとんだ阿婆擦れで、常識もない、一族の恥です。一族だなんて言っても、ぼくにはとおい話で、あんなものとおなじにされたくはありません。

三日月おねえさまは、あれのせいで大層かなしみました。三日月おねえさまの姉君なら、大層うつくしく良識のあるお方だったのでしょう。ぼくもかなしくなりました。あれはただの阿婆擦れだなんてかわいいものではありません。ひとごろしです。どろどろの血が流れた、ひとごろしです。

ぼくが帰る頃、あれの姿を目にしました。あれは図書館に入りました。そのあと、何度も、何度も、毎日のように、図書館に入るあれの姿を見かけました。あれがそのままの理由で図書館を利用するはずなどないと思い、ぼくは理由をさがしました。
あまり訪れない図書館には、ぼくの知らない、ひとりの女性がいました。あれと笑い合う、うつくしい女性がいました。そのガラス玉のようにきれいな瞳に、思わず見とれてしまいました。夕方の色を映しだして、すこしオレンジ色に染まった瞳を見ていると、なぜだかとてもどきどきしました。もしも目が合えば、胸がおかしくなってしまうかもしれない。それなのに、目が離せないのです。
それは起こりました。しばらくすると、信じられないことに、あれはうつくしいひとの肩を引き寄せ、口づけたのです。ぼくの頭は真っ白になりました。
静かな、ひとのいない図書館の一角で、からだを寄せ合って、何度も口づけていました。ぼくはその場から動けなくて、胸がどくどくいやな音を立てて、泣きたいような気分になりました。
ゆるせない。あのようなうつくしいひとと、あんなにも幸せそうにしている。ゆるせない。三日月おねえさまを悲しませ、一族の名を汚したあれが、幸せになるだなんて、ゆるせない。どうして、あれの、なにがよいのですか。ぼくは走り出したい気持ちをおさえて、音を立てないように逃げ出しました。


くやしい。くやしい。くやしい!
図書館を出てから、闇雲に走りました。疲れて足を止めました。手を痛いほど握りしめて、それでも、がまんしていた涙がぽろぽろとこぼれました。ぼくの大切なひとから大切なものを奪い、気の狂ったようなあれが、あんなに幸せそうにしている。
たったそれだけのことが、どうしてこんなに悲しいのでしょう。自分でもわかりません。わかることはただひとつ、三日月おねえさまが奪われたのと同じように、あれの大切なものを奪いたいという、おろかな復讐心が自分の中で息づいているということだけでした。
図書館の、うつくしいひと。あの棘の手に触れられていたら、きっとあなたも傷ついてしまうでしょう。ぼくがあなたを守ります。そして奪います。何年もかかるかもしれない。けれど、あなたをそのままにしておくことが、どうしてもおそろしいのです。ぼくは、あの怪物からあなたを引き離さなければいけないのです。

まっていてください。どうか、うつくしいひと。
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