今薬今(R18)





今に、触れて欲しいと言われたその日。彼女の涙と小さな身体を抱きしめて、全部、全部叶えてやりたいと思った。彼女には叶わぬことが多すぎて、そして自分には背負えるものがあまりにも少なく、隣にいることしかできない。友人であり続けることーー友人の関係を超えても、手を離さずに繋いでやることしか、できやしないのだ。


今はするすると制服を脱ぎ、惜しげも無く白い肌を晒す。そこに羞恥などはなく、まるで、懺悔をしているかのようだった。
生まれたままの姿で広いベッドに横たわる今は、ぼんやりと虚空を見つめている。髪を下ろすと普段の幼さが少しなりを潜め、未発達な身体と諦観な表情は不釣り合いで、まるで知らない少女のようだった。
となりで寝てくれるだけでも、いいですから。
動けないでいる俺に悲しげに目配せをして、ベッドに横たわった。そして、現在。
覚悟を決める。色気もなにもないパーカーを脱ぎ捨て、くるぶし丈のジーンズを靴下ごと脱いだ。いい加減やめろと姉妹に言われたスポーツブラを脱ぐ。……裸に、なる。
ベッドに膝を乗せると、柔らかくて滑りそうになった。その気配に気づいた今が少し驚いたようにこちらを見る。目があった。それからまじまじと見られ、自分が裸であることを思い出す。
「……あんまり見るなよ」
「だって、びっくりして……」
互いに、なんだかそわそわする。少しおかしくなって笑うと、張り詰めた空気が柔らかくなった。

陽を知らないような真白い肌。小さな肩。まだ膨らみかけたくらいの胸。この幼い身体は、もう、男にひらかれてしまった。彼女を女にした、顔も知らぬ男を、ひどく恨めしく思う。どうしてこの幼い身体に、そんな無体を強いることができようか。
考え込んで黙っていると、今は少し怯えた顔をしていた。いけない、安心させてやるつもりだったのに。深く息を吸い、笑みを作る。頭を撫でてやると、今は安心したように息をついた。
「……どうしたらいい?」
「うーん……つるつるしたお人形だとおもえばいいかな……」
人形。例えだとしても、それは悲しく響いた。そんなことをいうな。例え無意識だとしても、おまえは人形なんかじゃないと、教えてやりたかった。いまからそれを教えよう。その肌は、ちゃんとあたたかいのだと。
片手で胸を包む。そのやわらかさにひどく胸が高鳴った。目を閉じた今の耳が少し赤い。そうっと揉むと、ふにふにした。手触りが気持ちよくて何度か続けると、手の中で小さな粒が主張してくる。
「………ん……」
「……嫌じゃないか?」
「いやじゃないです、でも、へんなかんじがします……」
互いの呼吸が浅い。ゆっくり続けていると、指の腹が突起を掠ってしまって、今が声を上げた。
「あっ……」
ぴく、と小さい肩が跳ねる。咄嗟に手を離して覗き込むと、今の顔はは真っ赤になっていた。
「あ、いや、悪い……だ、大丈夫か?」
今は唇を噛んだまま視線をうろうろさせている。ひと呼吸おいて、今の手がそろそろと俺の胸に触れてきた。おずおず揉んだり、撫でたりする。そのうちに、ぴり、となんともいえない刺激が走り、さっきの今と同じように肩が跳ねた。
「……そうだな……へんな感じだな」
「うん……」
頬を染めて目を逸らして、なんだか、それもへんな感じだ。しばらくそうして、同時に目が合う。今の目は潤んでいた。たぶん、自分の目も。

キスをした。
唇が触れて、離れて、もう一度、触れた。



あれから、触れ合いは続いている。放課後、今が薬研の手を握って指を絡めると、決まって今の部屋に行った。制服を脱がし合い、行われる秘め事。
触れるだけのキスをしてから、そっと互いの肌に手を這わせるのだった。

「今……! も、やだ、って、言ってんのに……っ」
「だって、薬研がかわいいから」
「っ……ばか」
胸の突起を遊ばれて、薬研の身体は不規則に跳ねる。今はどうやらその反応が好きらしく、また、薬研は胸が一等に敏感であることが発覚し、毎回、しつこいほどに胸を弄ぶことをやめられない。
小さな手には収まらない胸をやわやわと揉んで、そこをゆびで擦って、きゅっとつまんで、たまにすこしだけ強くして。それだけで、おもしろいほどに感じてしまう、女の子の身体。
「んぅ……っ、あ、んッ……やめ……」
真っ赤な顔で、涙目になっている薬研を見ると、ますますやめられない。みんなが知る格好良い薬研はここにはいなくて、いまは、とっても可愛い女の子で、そんな薬研を知っているのは、自分だけなのだ。
「ま、て、やだ……っん……!」
びくん、びくんと薬研の腰が跳ねる。薬研は唇を噛んで声を抑えた。淡い絶頂。こんなことをするのは今が初めてだけれど、こんなに感じてしまうようになったのは、絶対に今のせいだ。
今は頬を上気させ、満足げに笑う。蕩けた目の縁にちゅっとキスをして、そうっと腹を撫でながら下に手をやった。中心に中指を這わせると、シーツに滴りそうなほどの愛液でいっぱいだ。ほう、とため息をついてしまった。
「わ……とろとろです」
「言うな……っ」
「だいじょうぶです、ぼくも」
薬研の手を取り、秘めた場所に触れさせる。そこは濡れているはずだ。ぬる、と今の秘所に触れた薬研はますます赤くなる。その赤いほっぺたに、またキスをする。そのまま唇を塞げば、行き場をなくした薬研の手は今の肩に触れた。

向かい合って座り、互いの性感に触れる。
「ま、て、今、まって」
陰毛まで濡れそぼった薬研のそこは小さく主張している。蜜を塗りつけてくるくる擦ると、おもしろいほど身体が跳ね上がった。
「ひッ、あ、」
「やげん、かわいいです」
「………ッ」
跳ねる身体を抑えながら、薬研は意地を張るように今のそこに触れた。無毛なそこに触れるのは、どこか背徳感があり、それが余計に胸を高鳴らせる。見つからないくらい小さな陰核を見つけ、自分がされたのと同じように、愛液を撫でるように塗りつける。
「ぅん……っ、やげん」
「いま……っ、や、あ……ッ」
「は、あぅ、う、やげん、やげんっ……」
深くまでは触れない。″女の子″を愛でるだけ。蕩けあった視線を交わし、どちらからともなくキスをして、空いた手を繋ぐ。指を絡めて、何度も唇を食んで、時々舌を絡ませて、その間もゆびは止めないで。
「ンッ……あ、あ、だめだ、ストップ……!」
「ふぁ、いいです、ぼくも、あっ、ぁ」
「いま、も、だめぇ……、あ、アッ……!」
「んんんっ、ぁう、やげんっ、ふぁあっ……」
揃ってびくびくと震え、熱く短い吐息をはきながら、絡めた指を強く握る。脱力感に包まれたまま、唇を合わせる。深く口付けると、溜まった唾液がくちゅりと音を立てた。

薬研は疲れ果てたように広いベッドに身を投げ出していた。羞恥心はなりを潜め、裸のまま仰向けに転がる。性を知ったばかりの少女には、この触れ合いは刺激が強い。
今はそんな薬研を見て笑った。あんなにはずかしそうにしていたのに。自分だけが知る薬研は、もうすっかり引っ込んでしまった。
「薬研がぼくのものになればいいのになあ」
今も隣に転がる。ぼうっとしていた薬研は、今の言葉の意味を測りかねた。
「ぼくだけの薬研になればいいのに」
薬研をひとりじめできたらいいのに。
「……そういうこと」
「ほかのひとになんていいません。ぼくは薬研だけが好きですから」
無邪気な笑顔は、時に毒だ。薬研の胸は高鳴り、耳が、目の奥が熱くなる。そんな願い、こっちの方が叶いやしない。好きだなんて言葉も、人に触れることのなかったこの少女にとっては、親愛の形だろう。きっとそうなのだ。
「ばか」
「なんで、すぐばかっていうんですか!」
膨らんだ頬を指でつつくと空気が抜けて、今はさらにいじけた。頭をわしゃわしゃ撫でてやると、こども扱いはきらいだと言われた。

恋なんてしたことがない。したことがないのに、恋をさせないでくれと、好きの形が変わらぬようにと願う。
それは、もう遅いと知りながら。