GUIDANCE

ツイッターで盛り上がったネタでたくさんお話を書いたはいいけど地雷原過ぎたので
ここにまとめてしまっちゃおう!という場所です。
以下、注意事項になります。

・成人済み推奨

・閲覧は自己責任です
・作者はこの原作に愛しかありません
・原作や実際のものとは一切関係ないフィクションです
・設定の甘さや抜けもファンタジーと思って広い心で見てください
・3次創作は大歓迎です。むしろください


地雷を踏んでも高笑いしながら果てる覚悟のある方のみ、お進みください。



みやこ 拝  →Twitter
特別協賛:橘乃御大 →Twitter
続きを読む

INTRODUCTION

大体この設定の中で話をこねくり回しています
別に読まなくてもいいです ツイッターにはビジュアルつきのもっと見やすいのが置いてありますので
そっちでも
▼でついったーにとびます ない人もいる


登場人物紹介
あっちなみに大包平以外は全員女でございます。

鶯友成(旧姓:古備前) Age30
大学図書館司書。たいていのことは「細かいことは気にするな」で流してくれる、
見た目よりも鷹揚な性格。ただし茶にはうるさい。
生まれつき目が弱く常にカラーグラスかサングラスを着用している。
別に催しているわけではないが、よく図書館のテラスで多感な大学生の相談に乗っている。
五条国永とは従姉妹。
自覚がないタイプの発達で関心が薄く突拍子もないように見えるが、本人的には最大限
気を使って生きているつもり。
声も態度もデカイ弟がいる。喫煙者。諸事情によりマグロ。

五条国永 Age24
1ダブりの大学院生。社会に出て働きたくないからという理由だけで
親の金で合法的にニートをしている。
金もあるし要領もいいので、あと4年は無為に大学に居座るつもりであったが
図書館の君に惚れて攻略のため戦略を練るのが日課に。
自身の従姉妹であり、同じく呪われたさだめを背負っていると知ってからは
なおのこと入れ込む。
ロリータなのは本人の趣味というわけではなく、一番似合う服がこれだからという
至極合理的な理由から着用。哲学を専攻している。喫煙者。

吉光一期 Age22
いまどき珍しい20人を超える大家族の長女。
しっかり者で真面目な性格の優等生だが、反面世間知らずで天然、純粋培養なところも。
そんな彼女は大学に入り、合コンでカモにされたり大人数兄弟の長子ゆえの抑圧に
晒されたりして心身ともに疲れ果てていた折に、図書館の女神と運命的な出会いを果たす。
そこで眠っていたメンヘラの才能が大開花。
狂信じみた愛を、白いやせぎすの小蝿を追い払いながら愛しの女神に囁く毎日が楽しい。
教育学部。非喫煙者だったが、女神の煙草をちょろまかした。

安達友 Age27
髭切とも。
代々古備前や三条といった旧家の貴族連中を守る武装貴族・安達の娘。
分家で同業の源氏の家に異父姉妹がいる。妹は基本的に容赦はしないが好き。
彼女ら姉妹と鶯は乳姉妹として、実の姉妹同然に育った過去を持つ。
大層な腕利きで殺傷行為に微塵もためらわない。
乳姉妹の鶯のことは妹と同じくらい大切に思っており、彼女の身に起きたことは
気の毒に思いつつ何の感慨も持たない代わりに、この先鶯に害成すものがあれば
それが誰であろうと容赦なく切り捨てるつもりでいる。
引くほど健啖家。非喫煙者。

▼三条三日月 Age30
三条家現当主。今剣の養母。女狐。

三条今 Age14
今剣とも。
世間知らずな箱入り娘。ゆえに潔癖。三日月お姉さまを悲しませた鶴が死ぬほど嫌い。叶わぬ復讐を企てている。心を許せる友人は薬研くらいしかいない。

吉光薬研 Age15
今剣と同学年。一見すると正反対のタイプだが、ほぼ常に一緒にいる。姉御肌で男勝り。女子にも男子にもモテるが、寄り付く虫を今がけん制しているので本人にあまり自覚はない。おともだちたくさんタイプ。

源氏緑 Age24
膝丸、薄緑とも。
真面目で堅実で堅物で忠誠的。奥ゆかしいというか古めかしい。姉を姉者と呼び慕い、姉の前では本来の性格とは打って変わって犬のようである。胸は控えめ。

▼古備前包平 Age23
古備前家現当主。鶯の弟。声も態度もデカイけどいい子。

家系図
クソデカ感情関係図



続きを読む

INDEX

※ここから地雷原※
基本的には書いた順
名前の隣から最新話が落とされるであろうそれぞれのベッターに飛べます


ちょっとしたネタがまとめられているところ



new↑ ↓old

▼みやこ  most new
▽橘乃     most new





無情
HAPPY HIPPIE
GHOST
それははじめての
especial
僕らの愛を君に
うそつき
BELOVED
5人の女の場合
今剣の場合
無題
続きを読む

HAPPY HIPPIE

鶴鶯 鶯♀が発作起こしてるだけ





夜中に胃の中を全てぶちまけて目が覚めた。

身体は上を下への大わらわだが、頭の隅では妙に冷静で、ああまたかと感慨に似た何かが湧く。自分の中には壊れた部分があって、それが時たまヒビを大きくして、生きるための本能まで侵食する。今回は呼吸を忘れた。そして目が覚めて、驚いた身体はひきつけを起こした。そんなところだろう。
半分転げ落ちるようにベッドから抜け出て、回る視界で薬を探す。呼吸をしようと開いた口から泡だった液体が溢れ出した。本格的に危険を感じる。嫌な夢でも見たのだろうか、覚えていないが。ローテーブルに見えた薬瓶をひっくり返して、散らばった錠剤を手当たり次第に掻き集めて口に放り込む。水などない。貪り食うように腹に押し込めても次から次から泡が込み上げてちっとも飲み込めている気がしない。視界が明るい。というより白い。まだ夜ではなかったか?
あ、だめだ、もう保たん。
「ああ、鶯や」
ーーーうん、うん、聞こえている。俺は今でも、いつでも、お前に返事をする気でいるんだがなぁ。


「おはよ」
「……おはよう鶴。ここは?」
「びょおいん」
覚醒した鶯の目に飛び込んできたのは、どこもかしこも真っ白な味気のない部屋。そしてそこにいる自分、横たわったベッドのそばには、これまた真っ白な少女。椅子にさかしまに腰掛けて背もたれに顎を載せている。凝った意匠が頭のてっぺんからつま先まで施された、可愛らしいドレス姿で下品に開脚している姿さえ様になっているのだから驚きだ。鶯が起き上がろうとすると、体中を縛り付けているものに阻まれる。五体拘束を施されている身体では身動ぎもままならない。国永は、抗議の色を載せた鶯の視線をひらりと掌で払うそぶりを見せると、ナースコールで鶯の覚醒を伝えた。
発作で意識がオチたのは夜だと記憶していたが、カーテン越しでもわかる外の様相は、今も夜だった。しかし、身体の状態から考えても短時間のうちに回復したとは考えにくい。俺はどれくらい眠っていた?という鶯の問いに、国永は指を4本立てて見せた。4日。長い。保険が下りる。
「完全別棟で主任は俺のセンセイ。守秘義務バッチリ。ちなみに支払いは俺持ち」
「……すまなかったな。借りは追って、」
「金なんか要らん、……」
起きないかと思った。
ベッドに乗り上げた国永は、そのまま鶯の身体に覆いかぶさる。心音を聴くように、長い白い髪を絹糸のように散らばせて形のいい頭を鶯の胸に寄せる。しばらくすると鼻をすするような音が聞こえてきた。位置的に顔はうかがえない。もどかしかった。鶯はそんな国永を抱きしめてやりたいと思うのに、やはり無粋な拘束がそれを阻んで、寸分もかなわないのであった。



その電話が鳴ったのは、日付が変わって少ししたころだった。
国永はいつも通り、特に何の達成感もなく一日を無為に過ごしたあと、家に帰って速攻転寝をかまして、今しがた目を覚ましたところだった。こんな時間では、いくら身体や意識が食事や入浴を求めても、もう本能がうんともすんとも言わない。全部明日でいいか。とりあえずそれらの代わりと言わんばかりに手元の煙草に火をつけて、有害物質で肺を満たす。国永の携帯が悲鳴を上げたのは、そんな折であった。
現代っ子の例にもれず、基本的に国永の電話はならない。鳴らすとしても所定の相手かセールスか詐欺かと言ったところで、ディスプレイを見れば今回はそのうちの一番初めだとすぐに知れた。
「めずらし」
表示された名前はこの世で一番愛しい女の名前だ。睡眠にのみ向かっていた国永の意識が少しだけ冴える。
「よーす、どした?さびしくなったかぁ?」
自覚できるほど脂下がった声で応対する。つけたばかりの煙草を灰皿に押し付けて殺す。けれども待てど暮らせど、携帯が吐き出すのは耳ざわりな雑音ばかりだ。
「……おい?鶯?」
そこで異変に気付いた。ノイズだと思っていた音の正体は、向こうからひっきりなしに聞こえる音だ。何かが落ちたり、壊れたりするような。ついで聞こえる、泣き声と、悲鳴交じりの呼吸
と、派手に嘔吐く声、液体がこぼれおちる音。鶴、鶴、つる。苦しげな声が終わらない嘔吐の合間で自分の名前を呼んでいる。いつもの嫋やかで落ち着いた音とは似ても似つかないひっくり返った声で、それでも必死に、すがるように。彼女をそんな状態にしてしまう原因に、賢明なことに国永は直ぐに思い当たることができた。発作だ。
「くるしい」
「おい鶯、ああ、」
「つる、たすけ」
「まて、ああ助ける、助けるから」
「うええぇっ………」
そこでまた鶯がひどく嘔吐いた。倒れ込みでもしたのだろうか、一等大きな破壊音が聞こえる。国永は努めて冷静に、おそらく意識など蜘蛛の糸よりも細いであろう鶯に呼びかけ続ける。
「すぐに、すぐに行くからな。ああ、そう、俺が行くから、だから、鶯、鶯?おい、おい!」
上着を雑に羽織り、裸足のままローファーをつっかけて外に出る。鶯の家に走りながら、意識は片時もそらさず携帯の向こうに向けていた。だから、しっかりと聞こえた。
なんだ、むねちか。
それきり無音になった通話を切ると、国永は119をコールした。


散歩はしたいがまだ絶対安静、という医者と鶯の間にとられた手段は車いすだった。しかも今から外に出るという。頭痛が酷くなったような顔の主治医に許可をもらい、点滴つきの鶯をそれに座らせ、ひざ掛けをかける。その時鶯の左手が目に入ったが、包帯でぐるぐる巻きにされていた。眉をひそめた国永に、何故か鶯の方がこう尋ねた。
「感覚がないんだ。怪我してるんだろうな」
「きみんちに刃物の類はないはずだろ?むしろどうやってこんな怪我すんだ」
「そうだな?俺も不思議だ、酷くひっかきでもしたかな」
まあ、細かいことは気にするな。からりと笑った鶯に、国永もあいまいに笑い返して、車いすを押し始めた。
「さて、鶯。どこ行くんだ」
「今日は少し寒いなあ。もう春だというのに」
「そういや、早咲きのさくらはもうぼちぼち咲き始めていたな。ここの中庭とか」
「なら、それが見たい」
「了解」
キイキイと音のなるだけの静かな散歩道。夜半の時間、病院という場所柄外出もない。鶯への対応が破格なだけだ。夜の病院というと灯り少なに不気味な印象だが、ここは街灯もたくさんあって、無粋なほど明るい。案の定中庭までたどり着くと、無機質なLEDに照らされた咲き始めの夜桜が二人を出迎えた。闇に溶ける白色。風にあおられちらちらと散る花びらは正しく雨のようで、彼らは折り目正しく鶯の膝へと舞い落ちる。
「今年も、春が来たな」
「そうだな。まだ寒いけど」
「……鶴」
「ん?」
ぎゅってしてくれ。
桜に目をやったまま、鶯はそう、希う。国永は言われるまま、後ろから身を乗り出して、車いすの鶯を抱きしめた。前で交差した国永の腕に、鶯の吐息が触れる。そして、かさついた指先も。
「生きるって、難しいなあ」
国永は鶯の言葉には応えず、鶯がもういいというまで、その痩身を包み続けた。


処置室の外のソファで待っていた国永へ、鶯の応急処置が終わったらしい主治医が近づいてきた。顔見知りの彼は、出奔しても五条の娘である国永には首を垂れる勢いで深々と頭を下げる。
「申し訳ございません。胃洗浄の途中で目を覚まされたので、酷く苦しませてしまいました」
「聞こえてたよ。人間の声かあれが、ってなあ」
彼女は朦朧とする意識の中で手あたりしだいに家に会った薬をかき込んでいたため、軽いODに陥っていた。国永が家にたどり着いたときには失禁までしていてすでに意識がなく、かろうじて呼吸はある状態で救急隊に運びだされた。胃の中の薬を出すために胃洗浄を執り行うことになったが、幸か不幸か、内臓を引っ掻き回されているときに意識を取り戻してしまったのである。
ああー鶯さん、起きちゃいましたねー。もうちょっとかかりますよー。我慢しないで吐いてくださいー。という場慣れし切った看護師たちの声の合間に挟まる、鶯の絶叫と断末魔。初めの内こそ耳をふさいでいたものの、しばらくすると慣れてきて、不謹慎だとは分かっているが興奮したのも事実だ。口にはしないが。
「容体は?」
「安定しています。発作自体はいつものものと変わりません。難儀ですね、彼女も……」
「まあ、クスリブチこまれてこれくらいで済んでんだ。まだマシなほうじゃないか」
どうせ入院になるだろう。国永は彼に自分もしばらくここにいる旨を伝え、くれぐれも三条には伝えおくなとくぎを刺す。ポケットから出した小切手は紙飛行機にしてとばしてやった。それをあわてて受け取った彼は、そうだ、と、彼もまた小さな袋を国永に差し出した。
「なんだこれ、……鍵?」
「はい。胃洗浄した際、彼女の胃から検出されたものです。誤飲でしょうか……」
「いくら朦朧としてたからって、鍵、食うか……?」
まあいいわ預かっとく。国永がそれをポケットに収めたタイミングで、奥の部屋からストレッチャーに載せられた鶯が運ばれてきた。身体は拘束され、汗と唾液と吐瀉物のせいで饐えた匂いを纏っているのに、そんな寝姿も国永にはひどく美しくしか映らない。顔を覗き込む国永に、台を押す看護師たちは止まる。
「なあ、キスしたらだめなのか」
「ダメですよ」


▼そのドアには取っ手がない
続きを読む

GHOST

一鶯



愛して欲しいわけじゃなくて、世界中で私にだけ優しくして。

開架に返却する本を積んだワゴンの中に、書架の本が混ざっていた。帰る前に確認して、なんとなく違和感があったものを取り上げたらドンピシャだったので、すごいですね〜とかけられる声に謙遜を返して、鶯は書架へ向かったのだ。祭日前だしと、他のスタッフを先に返した上で。
閉館時間も過ぎた無人の図書館は不気味なようで、その実落ち着ける場所でもあった。人のいる静寂と、そうでない静寂。どちらが真なるものかはともかく、鶯は自分だけが手に入れられ得るこの場所が気に入っていた。
自分の縄張り。自分の空気。全てが鶯の機嫌と手腕に委ねられていたあの場所。屋敷の中では当たり前であったことが、手放した今思い出される。捨てるべきではなかったものも確かにあるに違いないのだが、鶯は鳥だ。立つ鳥は跡を濁さないし、転じて後悔もしない。
今の暮らしは、求めていたものの一部だ。満足している。楽しいし。たとえば、大人になったのに、なんだか胸躍る悪いこともできる。こんなふうに、居てはいけない場所に居たり。
鼻歌交じりに背表紙の番地にたどり着き、ラベルをもう一度見る。お前の隣人はどこだ?番地の端からラベルをなぞってゆく。
「……ゲーテ、の、第……、ーーッ」
瞬間、鶯は勢いよく振り返った。
これが鶴や獅子なら違っていたろう。彼女らは己に害なすものの気配は感じるより早く元の命を断つ。鶯はそうではなかった。自身に向けられたそれが、ひとよりよくわかるというだけの、ただの女であるからだ。
誰かが鶯の背後にいて、思い切り何かを振りかぶって、鶯の後頭部にぶつけた。待ち構えていたようなそれに、ワゴンのゲーテが罠だったと悟る。お笑い種だ、かの古備前の王がいまではこの体たらくとは。忘れていた。自分の命が元本より遥かに重んじられた時代に、鶯が有象無象に売ってきた数多の怨恨。捨てて惜しいものもあれば、捨てようとも捨てられぬものもある。時よ止まれ、お前は美しいーーー顔が見えていればの話だが。狭くて暗い書架でマウントを取られてはどうにもならず、うつ伏せに昏倒した鶯は、首を絞められてそのまま気絶した。

犯罪なんて思ったよりも後ろめたくも難しくもない。
人は一期が思うより自分のことなど見てはいないし、一期が思うより簡単に人は意識を手放す。誤算があったというのなら、すっかり意識を手放した彼女に手を焼いて、背負うだけのことに一番時間をかけてしまったことくらいだ。それでも、図書館の正面玄関から鶯を背負って出てきた一期のことをとがめる人間はいない。あの目障りな白い蝿もーーー。
大学の近くのビジネスホテルにとっておいた部屋に戻ってくる。ベッドに鶯を寝かせると、枕元に移動させておいたランプと彼女の細腕を手錠でつないだ。豆電球に落とした仄暗い部屋の中でも、彼女の顔は眩いばかりに白く美しい。一期はうっとりしながらその細顎に指を這わせて、なぞるようにして辿り着いた薄い唇に爪を沈める。わずかに口内に入り込んだ一期の指を、生理現象だろうか、彼女の舌先が掠めた瞬間、一期はその唇に自分のそれを重ねていた。
好きなのだ。好きで好きで仕方がない。あの雨の日、汚れた自分にそれでも手を差し伸べてくれたその手が。震える身体を抱きしめて、寝床に迎え入れてくれた胸が。何を聞いても否定せず、穏やかに聞き入れてくれるその目が。美しく気高く、奢ることはしなくとも誰もが認める美しさが。「いちご、」自分を呼ぶ、柔いその声が。気怠げに似合わない紫煙をくゆらせる唇も、煙草を絡める指先も、鶯を構成する何もかもが好きで、好きなのだ。彼女の想いが、興味が、自分以外の何かに向いているなどと、考えてしまうだけでどうにかなってしまいそうなのだ。鶯に夢中で口づけていると、不意に一期の頬を撫でる手がある。
硬直した。
この部屋で意識を持って動ける人間など、自分以外にいるわけがない。驚いて飛びのきそうになった一期の唇を、
「……どうした、一期。何か嫌なことでもあったのか」
彼女はーーー目を覚ました鶯は、この場において重要なことは何一つ口にせず、たったそれだけを聴いたあと、一期の唇を追いかけてそっと罪に震える上唇を食んだ。


一週間ほど、この狭い箱の中で、一期と鶯は二人ですごした。鶯がベッドに拘束されている以外は、ひどく穏やかな生活だ。食べたいものを買ってきて好きな時に食べて。身体は一期が隅々まで清めてくれるので風呂に入らずとも特段問題はない。夜は二人で寄り添って眠る。それのくりかえしだ。
数多いる人間のひとりやふたり、消えたところですぐには大ごとにはならない。世界は思った以上に独りよがりに寛容だ、そんなことを一期がこぼしたら、鶯はおかしそうに笑っていた。
「お前、見た目よりずいぶん力があるんだなあ。俺も、さすがにあの時はとうとう死んだと思ったぞ」
からりと笑う鶯に、買ってきたヨーグルトを差し出してやりながら、一期はか細い声でごめんなさい、と謝罪した。ヨーグルトをもぐもぐと気持ちばかり咀嚼して、嚥下したあと、鶯はその感想でも言うように、きわめて自然に尋ねた。
「俺はお前に、何か気に障ることをしてしまったか」
「……ッそんな、ことは、決して……!」
「ではどうして、お前は俺から自由を奪うんだ?」
ガチャリとなるのは、鶯とランプをつなぐ鎖。昏倒させられて拉致されて、軟禁されているとは到底思えない穏やかな声と笑顔。一期は自分の罪を悔いる気持ちの中に、彼女に対する薄ら冷たい恐れにもにた気持ちがあることに気付き始めていた。
彼女には底がない。注げば注いだだけ満ちて引いてゆく、足のつかない沼に手を突っ込んでいるような心地になる。でも、それでも、一期にはこの想いに、恋というほかにつける名前を知らない。黙り込んだ一期を急かしたりはせずに、鶯は酷薄に笑っている。
「……好きなんです、貴女が」
「ほう」
「だから、私だけ」
「お前だけを見ろ、と?」
「違います!」
今度は鶯の方が驚いた。一期の大きな目が、涙でいっぱいになっている。それがとうとう溢れておちる。
「そんな大それたわがままなんか言いません。わたしは、わたし、にだけ、いちばん、優しくしてほしいんです……!」
鶯は、頭のどこかで、パチリとパズルのピースがはまるような、空白が埋まる気配を感じた。愛することと否定することは矛盾しない、そうであるなら、傍にいることだけが手段ではない。自分はそれを、伝えられなかった。気付かなかっただけの、簡単なことだったのだ。鶯はおかしくなって嗤った。
「お前はすごいなあ、一期」
「……?どういう」
「わかった、それを聞こう。そうすればお前は満たされる。そういうことでいいのだろう?」
「……、」
一期は驚いて声もない。鶯はこともなげに言ってのけているが、それがたやすいことだとは思っていない。けれど、まさか彼女が言葉をたがえるなんてことはないと、一期の妄信的な部分が喚いているし、本能もそうだと思っている。なにか罠が、あるいは策か。一期が戸惑っている間にも、鶯は続けた。
「一期、鍵を出せ」
「……はい、」
鶯が解放を要求するのに準じる言葉を発したのは、実はこれが初めてだった。そう、今の今まで、鶯は解放をただの一度も望まなかったのだ。
これはやはり取引だろう。一期の望みを叶えるためには、彼女の望みを叶えなければならない。なんて姦計、なんて辣腕。乗らざるを得ないほど甘い蜜を目の前にたらし、悪事など知りもしないと言わんばかりの目で柔らかく笑う目が、どうしようもなく愛しくて、美しくて、それ以外に何も信じたくなくなる。鶯という女は、そういう女だ。一期は言われるままに鍵を取り出し、そして、手錠を開錠した。すると鶯は、自由になった手で一期の手を包んで。
「ありがとう、」
そこから、今しがた自分を解放した鍵を手に取る。一期は顔を上げる。真っ青な顔を。
「心配しないでも大丈夫」
一期は絶句している。言葉など紡げよう筈もない。息をするためか何か言うためか、どっちつかずな口がぱくぱくと無意味に開閉する。
「これを、証としよう。それほどの価値があるのか、俺には分からないが。きっとお前だけにーーー」
俺は一等、配慮をしよう。
鶯は笑ってそういうと、やすっぽいアルミの手錠の鍵をぺろりと、飲み込んでしまった。



▼通りゃんせ

続きを読む
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2019年03月 >>
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリー