バーのお客さん水商売の19才?

これは10年程前の事になる。
諸事情で仕事はやめた俺は友人の誘いでレストランバーで働くことになった。
従業員が若いこともあって、活気のある店だった。
朝の8時まで営業していることもあって夜中は仕事あがりのキャバ嬢やら
風俗のねぇちゃんやらが結構来てた。
そんな中、ある常連のホステスK子が連れてきた一人の子、Y美がどうも場違いな感じで目を引いた。
話を聞けば家庭の複雑な事情から家を出て、一人暮らしをはじめたという。
その時は19歳って言ってたなw(本当は17歳の高校生だったわけだが)
あとからわかったことだが、もう高校に行く気はなく水商売で生計を立てる気でいたらしい。
「未成年だから、アンタ達手ぇだすんじゃないよ!w」とK子が口癖のようにいっていた。
K子はよほどY美のことが可愛いのか、頻繁につれてくるようになり
Y美は店の従業員とも打ち解けていった。
決してイケメンではない俺になつき始めたのは初来店から半年経ったくらいだろうか。
Y美は常に明るく振舞う子だった。年上ばかりの中で気を使っていたのかも知れない。
とびっきり可愛いわけではないが、どことなく愛嬌があり、そこそこ人気もあった。
俺が働き初めて二年が経とうとしていた頃、店の恒例行事である花見をすることになった。
従業員、常連を交えてだいたい30人くらいになるその花見にK子とY美が参加することになった。
Y美が比較的俺になついていたこともあって、K子からY美のお守を頼まれた。
Y美は適度に酒を飲みんでいたが、いつもより口数が少なく思えた。
みんなが盛り上がってカラオケをはじめたころ、Y美がすっ、と俺に寄り添ってきた。
そのまま俺に寄りかかり、Y美が俺を見上げる。
「ね、Iさん、最近デートってした?」
「はぁ?何よ、突然w彼女もいないし、最近はないなww」
「へぇ・・・バーテンなのに遊んでないんだぁ・・・」
「いや、バーテンがみんな遊んでるわけでもないしなww俺そんなにモテねぇし」
「ふ〜〜〜〜ん・・・」
しばし沈黙のあと、残っていた缶ビールをキュ、っと飲み干しY美が俺の肩にあごを乗せ
「ね、じゃ、今度私とデートしよ?」
予想もしない突然のセリフに思わず
「はぁぁぁぁああああ!!?!??」
大きな声に少しびっくりしながらちょっと首をかしげがちに俺を見つめる
「イヤ・・・なの?私と遊ぶのイヤ?」
「いや、違うwwイキナリそんなこというんだもん、びっくりもすらぁww」
「イヤじゃない??」
「イヤだったら今この席でお前の横にいないよw」
と、やや恥ずかしげに言う俺。
その言葉をきいたY美は正座をして俺に向き直る。
両手を膝の上に置き、少し首をすくめるとふにぃ、と笑った。
「じゃ、どっか連れてって?ドライブとかいきたぁ〜〜い♪」
「お、いいね♪じゃ、ドライブがてら美味いもんでも食いにいくか?」
「いいね〜〜〜^^じゃ、けって〜〜〜い!」
と、そこで各席で酒を振舞ってきたK子が帰ってくる。
「こぉらぁ、I!なに口説いてやがんだぁ??」
酒を振舞いつつご返杯の嵐を受けてきたK子はもう目がすわっていた。
「ちげぇよww俺はなんも・・・」
ちょっと焦った俺にいきなり抱きつくY美。
「私からさそったんですぅ〜♪今度デートするんだぁ^^」
「はぁ?アンタマジ?このデブと??」
日頃からピザネタでいじられてた俺には普通の会話だ。
「最近お互いデートしてないから、ドライブ連れてってもらうの♪」
「はぁ・・・・ま、Iならいいか、変な気おこすんじゃねぇぞ?」
全く口の悪い女だ。いつものことだが・・・
「へぇへぇ、わかりましたよ」
苦笑いしながら新しい缶ビールを空ける。
横にいたY美が俺の腕をギュっと両手で抱き締め
してやったり、的な笑顔で俺に微笑む。
フフン、と合わせて笑う俺の心音は必要以上に高鳴っていた。
その後、Y美は俺の隣を離れようとせず最後まで談笑していた。
宴も終わり、後片付けに席を立とうとした俺の袖をY美が引っ張る。
「社交辞令じゃないよね?さっきの・・・」
「お?おう^^あったりまえじゃん、どこ行くか考えとくよぉ」
「うん!よろしく!!楽しみにしてるね♪」
「じゃ、K子さんもうヤバイから送ってくね」
「うん、わかった、気をつけてな」
片手で小さくバイバイ、をしたあと、くる、と振り返る。
肩まである綺麗な黒髪がスローに揺れた。
4日ほどして来店したY美に海でもいくか?と聞くと
嬉しそうな顔で「どこでも♪」と帰ってきた。
「どこで待ち合わせる?」とY美
「車だから迎えにいってやるよ、家どの辺だっけ?」
「え・・・あ。いいよ、わかりにくいし。○○駅でいい。」
「遠慮すんなって、駅から近いの?」
「うん、近いけどわかりにくいから・・・○○駅のマクドナルドでいい」
ちょっと様子が違うY美に俺はこのとき気づいてなかった。
デート中は特筆すべき点もないので割愛・・・・・
ひとしきり久しぶりのデートを楽しんだ帰り晩飯を食いに店に近い居酒屋へ入った。
「楽しかったね〜♪」
「おぉ、思ったよりかぶっちぎりでなww」
その日の思い出話に花が咲き、あっという間に時間がすぎていった。
気が付くと日付が変わろうとしている。
「お、こんな時間じゃん、ぼちぼち行くか?送ってくよ」
(ハイ、飲酒運転ですが、何か?)
「・・・・・」
Y美から返事はない。うつむいたまま席をたとうとしない。
「どした?気分悪い?」
パっと顔をあげ、いつもの笑顔で
「だいじょぶ〜、ね、Iさんもう帰っちゃうの?DB(俺の勤め先の店)いかない?」
「あ〜、もう今日はいかないよ、結構飲んだし、お前もあんま遅いとK子に怒られんじゃ?」
「う〜〜〜ん、そうだけどぉ・・・・」酔っているのか、紅潮した顔に目が潤んでいる。
「じゃ、私のウチで飲みなおそ?それならいいでしょ?」
それもマズイんじゃ・・・と思う俺の手を引っ張り店の出口へ向かう。
「途中のコンビニでお酒かってこ〜、ウチあんまりお酒置いてないから」
「う、うん、でも、いいのか?親いるだろ?」
ニコ、っとだけ笑ってレジの前に並ぶ。
車に乗り込むとふぅ〜〜〜<と大きく息をついてY美が話始めた。
「あのね、親はいないの、今の家には」
本当の年齢、両親が不仲なこと、父親から暴力を受けていたこと。
学校にもなじめず、親戚をたどって隣県のこちらへきたこと。
親戚の家にも居所がなく、昼のバイト(喫茶店)でしりあったK子の家に住まわせて
もらっていること・・・・
自分自身を整理するようにゆっくりと、それでも途中で止まることなく
Y美は話続けた。時折見せる作り笑顔がせつなかった。
「ごめんね、いきなりこんな話して」
「あ、う、うん、だいじょぶだいじょぶ、でも大変だったんだな・・」
と気の利かない台詞。
「今日は楽しかったから、まだ一人になりたくないの・・・」
「うん・・・・」
「K子さんが帰ってくるまででいいからウチで飲んでってよ、お願い」
「・・・・」戸惑い、黙る俺の左手を両手でつかみ
「お願い・・・一人になるのはコワイの・・・」
「わかったよ、俺も少し酔い覚まさなきゃいかんしな」
パァっと表情が明るくなるY美
「ホント?ありがとぉ〜〜〜♪」
つかんでいた俺の左手をブンブン振り回す。
「イタタタ!わかったから!じゃ、行くか?」
「うん!♪○○駅方面でお願いしまぁ〜〜〜す」
フフ、と微笑して俺は車を走らせた。