※管理人の下書きフォルダから発掘した、前後不明なものです(ごめんね)!
別に取り立てて欲してた訳じゃない。
ただ、少し気分を変えたかっただけ。
小銭を持って降りた人気のないロビーは、少し冷たく感じて気持ちよかった。
チャリと手の中で聞こえる金属音に、何を買おうか今更ながら悩む。
ただ1人になりたくて出てきただけ。
近づく仄かな自販機の明かりの心地好さに、そんな事を考えていた僕は少し注意が足りなかったのかもしれない。
「――――ッ!」
引き返せない所まで来て漸く気づく影に、上げそうになる声を慌て飲み込んだ。
ロビーのソファーに体を預け、ピクリともしないその姿――まさに僕が1人になりたいと思わせた人物で。
様子から、眠っているんだと解って少し安堵する。
薄ぼんやりと灯る光に照らし出されたいつも精悍な横顔は酷く疲れて見えて、痛々ささえ感じる。
僕のせい、かな?
よぎる考えをすぐさま首をふって否定する。過酷な合宿で、常に先頭を切らなければいけない立場。ほんの戯れ言程度の僕とのやり取りで、疲れてるなんて考えるのは滑稽すぎる。
それでもと、違う僕が否定する。
逃げたのは誰だ。なにか言いたげに見つめる視線を全て無かったことの様に扱ったのは誰だ、と。
「・・・・・イライラする、全部。」
実際、なんなんだろう。
救いのない想いを言いあったところで、何になるのか?
しかも今は大事な時期だ。お互い、余計な悩みなんか持っている余裕はないのに。
何故、純粋にサッカーだけを一緒に楽しめないのか。
苛立ちと共に見つめる姿は更に弱々しくて。
もて余した気持ちで、握り占めた拳が温い温度の硬貨の存在を思い出させた。
当初の目的がなんなのか、改めて気づいて硬貨を入れる。
起きるかな?
そう躊躇したのは一瞬で、そんな事を気にする方がおかしいと思い直す。
起きても起きなくても、結局起こさなければいけないのに変わりはない、チームメイトとして。
ガチャンと勢いよく響く機械音が、静寂になれた耳に痛いほどなのに――
「・・・・・・・・・寝てたな、俺」
寝起きらしい小さく掠れた低い声は、まるで別モノの様に聞き取れる。
そんな自分にまたなんとも言い様のない苛立ちが募って、小さく謝罪する声を無視して。
「・・・・・・風邪、引くよ。自覚がたりないんじゃないかな。」
素早く目の前を通りすぎる。
――そして、僕はまた君から逃げた。
情けなく脈を打ち続る心臓に、僕は明日走り込み頑張ろう、なんて無理やり『何か』を捩じ伏せた。
end
※限りなくパラレル/火野別人/引退話/以上要注意で!!
「ずいぶん、軽装だな、お前。」
空気に溶け込むように淡く、柔らかく、目の前に現れた男は、一人で。
短期間日本ユースに所属してただけの細い情報網では、この男は重傷だった。
変わったのは出会った頃より僅かばかり逞しくなった顔だけ。
ふらっと遊びに来た、そんな言葉が今にでも飛び出しそうだ。
「どんなだと思ったのさ?」
「良くて、ギブスに杖だ。」
「噂って、怖いなぁ」
――火野が信じるくらいだし
のんびりと他人事のように。
同意を動作だけで伝えれば、少し目を細めて表情だけ笑った。
「僕、引退するんだよ。」
不思議と何も感じなかった。
重症の報が流れた時点で頭を過ったものだった。爆弾抱えてるのも、なんとなく知ってた。
「・・・・・・そうか。」
ただ、異常に冷える手足から
「うん」
刺すように、
「日本とやりやすくなったな。」
駆け巡る、これは、そう、きっと―――
「まさか、強いよ、日本。」
―――歓喜
「だろーな。まっ、これでお前を縛るもんなくなったし。」
口からついて出る戯れ言は、次から次へと止まらねぇし。
「なんなら、このまま嫁げよ。うぜーもんなくなったら気兼ねなく突っ込んでやれるよなぁ。」
「僕、随分愛されてるね。」
「ちげぇ、お前が、岬が俺を愛してんだろ。」
「そうかもしれない。」
「そうなんだよ、認めろ。」
「・・・・・・ありがとう。」
頬に触れられた指先が濡れていた。
――なんで、俺泣いてんだろうな?
◆◇◆◇
それはとても純粋で、真逆で、同じ。