彼にとっての友達の定義がどんなものなのかは分からない。普段の姿を見ていると話したら友達、とかそんな感じと言う気がする。
 とは言え店員と言う立場上、お客さんと友達の間に線引きはあるらしかった。だからオレの事も客の一人と見ているものと思っていたが、どうやら違ったらしい。
 それを知ったのはたった今の事だった。
「アズマくんは友達だからね」
 さらっと当たり前の事のように言われて、言葉を失った。
 ただの客だと思われてなかった、と言う嬉しい驚きがあった。
 しかし、それだけではなかった。歓喜のような暖かい気持ちはある。けれど、どこか空っぽの気持ちでもあった。
 少しして、自分がショックを受けているのだと漸く気付いた。
「ど、どうかした?オレ何か変な事言ったかな?」
 黙ったままのオレを見てイッキさんが焦っていた。
 変な事は何も言っていない。でもどうしてそれがショックなのか。
「いえ、オレ、友達だったんだなぁって……」
「あ、駄目だった?」
「何て言うか、お客さんの一人とかそう言うイメージだったので、嬉しかったと言うか」
 これは本心だ。客と店員と言う関係に留まっていない事は単純に嬉しい。
 何が駄目なんだろうか。一所懸命に頭を働かせるのに答えは見つかりそうになかった。
「でも、何か、友達とは違う気がする」
「え、あ、うん?ど、どう言う事……?」
 うっかり考え事が口から出たせいでイッキさんの焦りが増していた。流れる空気もおかしい。
「変な事言ってすみません!良いんです、そう、友達で!何も間違ってないです!!」
「友達で良い、ってなにそれ、何かその先があるみたいじゃない」
「えっ」
 盲点だった。
 友達の枠に収まりたくない。とてもしっくりきた。
 それってつまり。
「ま!まさか!!そんな訳ないじゃないですか!」
 混乱は最高潮で、自分が何を言ってるのかもう分からなかった。
 幸い、イッキさんの方も混乱しているのか気にとめた様子はなかったのだけれど。