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例えそうじゃないとしても



正直にそう思って、素直に心から出た言葉だった。

でも、それを聞いた隼人の顔は今にも泣きそうになった。


「…いつもそういうこと言ってんのか?」
「へ?誰に?」
「付き合ってきた女ども」


あまりにびっくりして言葉が出なくて。
ついでに隼人が自分の空いたグラスに手酌してるというのに、体も動かなかった。




だって、今でも隼人を想ってるのに、他の人と付き合うなんて考えられない。



「オレ、今まで付き合ったことないぜ?」
「さぁ、どうだかな」


急に飲むペースをあげた隼人は、なぜかいらついてるように見えた。




何かいけないことを言ってしまったんだろうか。



またグラスを空けて、テーブルの上に静かにそれを置いて、そのまま俯いてしまった。


表情は見えないけど、もしかして…。




自分の心がドキドキと早鐘をうつ。



「オレは隼人にしか興味ねぇよ?」


ピクリ、と隼人の肩が揺れるのが分かった。





9年前の冬の、あの帰り道での出来事を思い出した。



グラスを置いたままだった、テーブルの上の隼人の右手を握る。


それにはじかれるように顔をあげた隼人と目が合った。





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酔った勢いとかじゃなく



久し振りの隼人との食事は楽しかった。


酔ってるせいもあるかもしれないけど、頬を赤らめてやたら饒舌な隼人に何度手を伸ばしかけたか。



いつもオレが誘う時は日本食(というか居酒屋)ばかりで、なんというか隼人のあのルックスにしろオーラにしろなんか違和感みたいのがあって。


今回のこの店はイタリアンだからワインも取り揃えられてるし、料理も隼人も好めるものだと思った。



以前ツナに教えてもらって、一度は隼人と来てみたいと思ってたから、今回はいい機会だと思って。


連れて来てみたけど、隼人はどう思ってるんだろう。



「…お前は変わらないな」


グラスを空けて突然何を言い出すのかと思って、キョトンとした顔で隼人を見つめる。


目があって、ドキッとした。



そういう隼人だって昔から変わってない。



出会ったあの頃からずっと。



いや…。




「そういう隼人は出会った頃よりずっと綺麗になった」





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変わらない想い




「隼人、あんま強くねぇんだし無理すんなよ?」


明日も仕事早ぇんだろ?なんて言われれば、オレの中の負けず嫌いが顔を出して、なんだかバカにされたみたいで悔しい。

そもそも山本だって明日も仕事だろうが。


「バカにすんな。テメェばっか飲んでてこっちはたいして飲んでねぇよ」


すでにボトル三本空けてるのに、半分以上はヤツの胃の中だ。




久し振りのヤツとの飲みは、最近の任務先での話を、ちょっと旅行に行ってきましたって感じの面白話にして話してくれ、その後は昔話に花が咲き、笑いが絶えなかった。



喋り倒してふと互いの間に静寂が訪れて。

何とは無しに正面に座る山本の顔を見つめる。



もう10年近く共にいて見慣れたその顔に月日の流れを感じた。



いつもヘラヘラしてて、幼かった顔付きも、今では大人の男性の色気が漂っていて、本人は興味がなさそうだけど、外を歩いてても振り返る女性も少なくはない。



コイツが女性と二人で並んで歩いてるのを想像して一人勝手に落ち込んで、それをごまかすようにグラスをあけた。





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わからない




なんだかんだとヤツに押し切られ、山積みの書類をそのままに、山本が見付けたというオシャレな店へ来た。


飲みに行くと言ってたクセに車を使うから、コイツは飲まないんだろうか、なんてちょっと心配してたら、山本の家から意外に近い場所で。

家の駐車場に車を停めて、そこからは歩いて店へ辿り着く。


いつも山本と飲みに行く時は、焼酎や日本酒が取り揃えられた居酒屋ばかりで、このお店はワインが多種取り揃えられていて、料理も美味いし、雰囲気もいいし、居酒屋というよりはイタリアンな感じで申し分のない店だった。


ただ気に食わないことに、この店は山本のイメージとは全然掛け離れ過ぎてることから、誰かに連れて来られて知った店なのだろうということが伺い知れる。


一体誰に連れて来られたのか、そんな些細なことにもチクリとする気持ちをおさえ、グラスをかたむける。




オレには、それを問い詰める権利はないから。




「最近忙しかったし、こうやって二人で飲みに来るのも久し振りだな」


いつも日本酒ばかり飲んでる山本も今日は珍しくワインをあおっていた。


ただ、そんなに強くないオレとは違って、グラスを空けるペースが尋常じゃないことがなぜか可笑しくて笑みがこぼれた。





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重い、想い、思い



「…ヒマじゃねぇよ」
「久し振りに飲み行こうぜ。ちょっとオシャレなとこ見付けたのな」
「だから、ヒマじゃねぇって」
「ワインも結構種類おいててさ。隼人、ワインのが好きだろ?」



隼人の言葉を無視して話を進めていく。



だって、無理矢理にでも連れ出さなきゃ隼人はずっと仕事づけだから。

仕事ができるのもいいけど、みんなが隼人を頼ってしまうから、そこは困りもんだ。




…かというオレが1番隼人に頼りきってしまってるけど。


「…お前なぁ。この机を見てから言え」
「うんうん、オレもう少ししたら表に車まわすから」


周りの人達からも好評の1番の笑顔で話し掛ける。

それを見て何を言ってもムダだと判断したのか、隼人は大きな溜息をついた。



無理しすぎて倒れる方が迷惑も心配もかけるって、なんで気付かないんだろうか。


だからそうなる前にこうやって隼人を連れ出すのだ。


「…っつーか、下の名前で呼ぶなって、なんべん言えば分かんだよ…!」
「うんうん。息抜きって大事だぜ?」


笑顔でそう告げれば、今度こそ本当に全てを諦めたように、メガネを外して盛大な溜息をついた。





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24隼人=眼鏡の方程式。
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