俺が声をなくしてから隼人の小言が増えたから、黙らせるにはこれが一番だと発見した。
今も言われた通り報告書を書いて持ってきて、また小言が始まりだしたから、その可愛い唇を塞ぐ。
それより先のことはまだしたことはないんだけど、一度ことを進めようとして怖がられたから我慢している。
先走ってやって怖い思いも後悔もさせたくない。
そんな俺の気持ちを理解してからなのかはよく分からないけど、キスは許してくれるからこういう時にも利用させて頂いている。
ただ、今は名前を呼ぶことすらできないから、その代わりという訳じゃないけど、俺の想いを伝える手段としてキスを贈る。
唇を離すとさっきよりも顔の赤みも瞳の潤みも増してて、銀色の睫毛がふるふるとふるえていた。
あーもうホントに全てが可愛いくて仕方ない。
「…テメェ…いつまでもコレでごまかせると思うなよ…!」
そんな強がる隼人にさえ欲情しちゃう俺ってばもうどーしよーもない男だな。
でもこれは可愛い隼人のせいだ。しょうがない。俺のせいじゃない。うんうん。
俺から少し離れて両手でマグカップを支えてコーヒーをすする隼人にさえ欲情する。
目の前の綺麗な銀糸に手を伸ばす。
と、突然隼人の部屋の電話が鳴り出す。
この音は内線だ。
マグカップを置いて直ぐ様電話の方へ行ってしまった為、伸ばした手は銀糸に触れることなく宙をさまよう。
しゃべり方や話の内容で、相手はツナだと容易に想像できた。
聞き耳をたてれば、分かりました、や、なんでしたら今すぐ向かいます、とか言ってるから任務の話だろう。
心中穏やかじゃなくてソファから立ち上がり隼人の後ろへ立つ。
話が終わったみたいで、受話器を置いて振り返った隼人と目が合う。
「…どうせ聞いてたんだろ。オレ、今から任務だから」
机の上の整理を始め、引き出しから指輪やら匣やらの準備を始める。
らくがき帳に『オレもいく』とだけ書いて隼人に向ければ、ふざけんなって言われた。
「声も出ねぇのに足手まといなんだよ!」
確かにそうだけど、そんな風に言われるとやっぱり傷付いてしまう。
それでも、ここで下がるわけにはいかなかった。
めったなことがなければ、戦線へ出ることがない隼人がオレの代わりに赴くというのに。
『足手まといにはならない。指示はできないけど、指示は聞こえるから』
汚い字でガリガリ書きなぐって隼人につめよれば、諦めたように溜め息をつかれた。
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