2011-8-2 16:34
小学校5年生の時、交通事故で両親を亡くして祖父に引き取られた。
その時から俺の時間は止まってしまったようになって何も考えられなかった。
事故の前のことは何も思い出せなくなり、何もかも楽しくなくなった。
転校した先の小学校でも、何もしゃべれず、全く友達もできなかったし、
友達を作りたいとも思わなかった。
ただ、朝になったら学校に行き、自分の席に座って授業にのみ集中し、
学校が終わればすぐに家に帰った。
先生は気を使っていたようだが、みんな気味悪がっていたと思う。
いつもステテコと腹巻姿の祖父は優しく、
慣れない手つきで家事をしつつ、俺の好物の鳥の唐揚げを良く作ってくれた。
今でも感謝しているがその頃は会話もほとんどなく、
自分の部屋でゲームを延々としていた。
クラスでの俺は誰の眼中にも入らない透明人間のような存在になっていったと思う。
そんな生活を続けていて、いつの間にか6年生になった。
クラス替えもないのでほとんど環境も変わらなかった。
6年生になってからしばらくして、
休み時間にいつもいじめられている女の子がいることに気が付いた。
茶色くて長い髪の大人びた綺麗な女の子だった。
近くにいる奴とかの、ひそひそ話を注意深く聞いていると、
彼女は白人の祖母を持つクォーターで父親を早くに亡くしており、
母親が1年程前から新興宗教に入信し、
熱心な勧誘活動をしているようだった。
「おい!外人!」とか「たたりがあるから触るな」とかバカにされていて、
いつも仲間はずれにされたり、モノを隠されたりしてからかわれていた。
先生も絶対に気付いていたが、黙認しているようだった。
ある日の昼休み、いつものようにクラスの代表格の体の大きないじめっ子が、
彼女が大事にしていたお守りを取り上げた。
周りのみんなはそれを見て笑い囃し立てた。
そんな場面を今まで何度も見たが、俺は何にも感じなかった。
普段、どんなに苛められても平気そうだった彼女が、
この日だけは必死に取り返そうとしていた。
「それはだめ。お父さんの・・・」
小さくて泣きそうな彼女の声が聞こえたとたん、俺の中の何かが切れた。
俺は腹の底から「やめろ!」と怒鳴り、机を倒し、いじめっ子に殴りかかっていった。
喧嘩が強いはずのいじめっ子は不意をつかれたようで椅子につまずいて倒れた。
馬乗りになって彼女のお守りを取り返した。
それでも俺の怒りの爆発は収まらなかった。
その後も俺は机を倒したり、椅子を投げたり、張り紙を破ったりして、
教室の中を狂ったように暴れまわった。
何故かこの教室の全てが憎らしかった。
いつも全くしゃべらない俺が暴れたので、周りのみんなは呆然と見ているか、
悲鳴を上げて逃げているだけだった。
騒ぎを聞きつけた先生が止めに入りその場は収まった。
すぐに学校に祖父が呼ばれ、祖父は一生懸命謝っていた。
俺はただ黙ってそれを見ていた。
次の日から彼女はいじめられなくなった。
俺はさらに孤立したが何とも思わなかった。
ある日の帰り、校門に彼女が待っていた。
「○○君。あの時はありがとう・・・・・一緒に帰ってもいい?」
彼女は少し恥ずかしそうに俺に聞いた。
俺は頷いて一緒に歩いた。彼女は黙って少し後ろを歩いていた。
そして、彼女の家と俺の家との分かれ道に着くと彼女は
「じゃ、また明日。」
と笑って手を振って帰っていった。
次の日の朝、分かれ道に彼女は待っていて一緒に学校に行った。
こうして毎日、俺と彼女は一緒に登下校した。
休み時間も彼女がそばにいるようになった。
最初は何も話さなかった彼女は、
段々打ち解けてきて、家族の事とかをぽつりぽつりと俺に話してくれた。
彼女が幼い頃、おばあさんに作ってもらったお菓子がとても美味しくて、
いつか作れるようになって食べさせてみたいとか言っていた。