スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

俺は某大学病院に勤務している外科医だ。
通常勤務以外に週1〜2度の当直が義務付けられていて、
大抵は早くに仮眠を取り、夜中は当直室で論文、手術所見や
学会認定のための書類作成などのデスクワークをすることにしている。
ある夜、俺はいつものように当直室で論文の仕上げに集中していた。
うちの大学の当直室は各科、各階に個室が2部屋ある。8畳程の広さで
入ってすぐ右にロッカー、洗面台、反対側にベッド、そして正面の窓に
面するようにデスクが置かれている。
夜中二時頃、俺はこのデスクでノートパソコンに向かっていた。
ふと集中が途切れたとき、何かしら耳慣れない音に気付いた。『ポタ…ポタ…』
‘?’俺は耳を澄まして音の方向を探る。その音はドアの外から聞こえてくる。
俺は何の躊躇もなく納得した。この病院は二年後に建て替えが予定されている
古い建物で、配管はすべて廊下や室内の天井にむき出しになっていて
状態も悪く、水漏れなど日常化していて何の不思議もない。
ぬるくなったコーヒーを飲み、再び机上の仕事に集中しようとしたそのとき、
俺は異変を感じた。
『ポタ…ポタ…ポタ』音が、移動してきたのだ。明らかに部屋の中で聞こえているのだ。
‘…?!’振り向こうとしたが体が石のように固まって全く動かない。
全身からどっと冷たい汗が噴き出す。俺は満身の力を込めて眼球を動かした、
いや、恐らく俺はあの時無意識に見ることを拒んでいたのだろう、直観的に。
俺は目の前の窓ガラスに視線を移した。暗闇に映し出された当直室に、
俺の姿と、背後に天井から逆さまにぶら下がった濡れた長い髪の首が
俺をガラス越しに睨んでいたのだ。不気味に嗤いながら。


                    2007/05/18(金)

水面に写る友人

今思えば、俺が人生で初めて体験した怖い話だったと思う。
夏休みの午後のことだった。
俺と友人の二人で近所の川で釣りをして遊んでいた。
田舎ってこともあって見渡す限り回りには誰もいない。

その川には普段からかなりの頻度で訪れていて、その日もいつもと同じポイントで釣りをしていた。
普段なら釣りをしはじめてすぐに魚が釣れるのに、
その日は全くといっていい程釣れなかったのがとても印象的だった。
俺達はしばらく釣りをしていたが、やがて飽きてきたためにその川に入って遊ぶことにした。

しばらく遊んでると、後ろから「うわっ!」って叫び声聞こえた。
その声に驚いて急いで振り向いたら、友人が足をすべらして転んだようだった。

俺は「大丈夫?」って言いながら急いで友人にかけよった。
そして、友人の少し後ろを見た瞬間、俺は血の気がサァーって引いてくのが分かった。

水面に映った友人が明らかに俺の方を見て「ニタッー」と笑っているのだ。
その水面に映った友人は、さらに気持ち悪い笑みを浮かべて
「おいで、おいで」と俺に向かって手招きをしていた。


                   2007/05/12(土)

人型焼き4

と、言うのも獣の臭いに混ざって、さっきから酒の臭いが漂って居たのだ。

神主は酒を杓で掬うと箱に掛け始めた。
おいおい…いくらアルコールだと言っても、どう見たって日本酒だぞ。気化しにくく、発火性も低い日本酒を掛けても止めを刺すだけだ…と思ったが、予想に反して火は驚く程に燃え上がった。

「ぎゃぁぁぁぁ!!いぎぃぃぃぃぃ!!おのれええぇぇ〜!妻と子供に会わせろ〜!帰せ〜!俺を帰せ〜!!」

「お前は〇〇ではない!人形だ!お前はお前に帰るんだ!!」
そう言うと神主は懐から手鏡を取り出し、箱に投げ入れた。
そして、周りの木組みを袴姿の男達が中心に向かって倒し始めた。

最後に神主は桶を担ぐと、残りの酒を全部ぶっ掛けた。
炎はこれまでより猛々しく燃え上がり、巨大な火柱と成った。

「ぎょぇぇぇぇ〜!!!!」
それが最期だった。


それからは叫び声がする事も、箱が揺れる事も無かった。

気付けば俺は、汗だくに成って居た。
神主達は、火がくすぶるまで呪文を唱えていた。

目の前で起こった出来事を、否定したい自分が居た。
俺は、確実に昨日までの俺とは違うだろう。日常を一歩踏み外した…ただそれだけなのに、見える世界は色を変えていた。

その後、神主が俺に歩み寄って来た。
俺は変に身構える事も無く、神主の話を聞いた。

「一応祓って上げるから、ついてきなさい」
俺は神主を追って本殿に入った。

じいさんは、神主と先を歩きながら何やら喋って居た、どうやら顔馴染みの様だ。

本殿で二人は、簡単な御払いを受けた。

その後、茫然自失と言うか、府抜けた感じだった俺に、神主さんが詳しい事情を話してくれたから、少しスッキリした気がした。


 

「あの人形はね…長い間、人として暮らして来たんだよ」
「あのマネキンを連れて来た御婆さんが言うには、自分の娘が大事にしていたそうだ」
「娘と孫は事故に遭って死んでしまったけど、あのマネキンだけは無傷だった」

「御婆さんは遺品だけど気味が悪くて、仕方なく此所に持って来たんだよ」

「事故に遭った時も車に乗せてたくらいだから、きっと相当大事にされてたんだろう。余りに感情移入すると、次第に人間は人形が生きてると勘違いしてくるものなんだ」
…この後の言葉は、今でも頭から離れない。

「人形も同じだ」
「余りに大事にしすぎると、自分が人間だと勘違いしてしまうんだよ」
「何故なら、彼等も生きているのだから…」

忘れた時を取り戻す様に蝉が鳴き出した。
ある夏の日の出来事だった。


                            2007/03/28(水)

人型焼き3


「毎朝ここを散歩していてね。マネキンを下ろす処からずっと見ていた」
成程。

おじいさんの話を聞いてる内に準備は着々と進み、さぁ火を着けようかと言った感じだった。

神主さんが突然掛け声を上げた。

それに続いて袴姿の男達も一斉に呪文?お経?の様なモノを唱えながら火を持ち、箱を囲んだ。

よく見ると箱は、針金の様な物でグルグルと巻かれていた。

一人目の袴男が、箱の四隅の木組みに火を灯した。
チリチリと煙を上げ、やがてゴウゴウと燃え出した。



 

それに続いて二人目、三人目と、とうとう箱を除く全ての木組みに火が灯り、激しい火柱を創った。

50〜60mだろうか?結構離れているこちらにまで熱気が伝わる様だった。

最後は、神主さんが真ん中の木組みに、松明を投げる様な感じで火を着けた。

四本の木組みの中には、木の葉が入れてあり、白い煙をあげていたのだが、真ん中の箱の辺りからは黒い煙がモクモクと沸き上がっていた。

「うっ…!!」
俺は思わず鼻を摘んだ。
いつの間にか、今までかいだ事も無い様な獣の様な異臭が辺りに立ち込めていた。

神主達の声が一層大きく成った気がした…次の瞬間!



ぎょぇぇぇぇ〜!!ぎゃあぁぁぁぁ〜!やわなは@〇※▽@◆…
声に成らない叫び声と言うか、今まで聞いた事も無い悲鳴が広場の静寂を引き裂いた。
と、同時に箱がガタガタと激しく揺れ出した。

情けない話だが、正直俺は腰を抜かしそうだった。
走って逃げようかとも思ったが、足が動かない…完全にすくんでしまった様だった。

箱はバンバンと内側から叩かれて、炎に包まれて居る。
ひょっとして人殺しなんじゃ…とも思った。

凄惨な光景だった。
火はゴウゴウと燃え、箱はガタガタと揺れ、神主達は声を上げ、悲鳴はやがて言葉に変わって居た。


 

「出せ〜!此所から出せ〜!返せ〜返せ〜…」
しゃべってる…まさか人間…いや、そんな筈は無い。
大一、あの状況下で人間がしゃべれるのか?
最初は『返せ』だと思っていたが、後から違うと気付いた。

「かえせ〜かえせ〜!俺を妻と子供の所に帰せ〜!!」
箱は依然とガタガタ揺れ、バンバン叩かれている。

「お前は〇〇(男の名前)では無い!」
神主が突然怒鳴った。
「お前は人形だ!人形なんだ!有るべき姿に戻れ!!」
そう言うと、またも神主は呪文を唱え始めた。

「ちがう〜!俺は〇〇だぁ〜!!帰せ〜!!」
箱は一層揺れだし、端の蓋が焼け落ち…と言うより弾け飛んだ。
ソコから焼けただれた手が生えて、暴れて居た。

すると、突然火が弱まり、消えてしまうのでは?と思うくらいに頼り無くなった。

神主は、振り向くと置いてあった桶を持って来た。
桶の中には水の様な物が入って居たが、すぐに酒だと思った。

人型焼き2

奇妙な一行は本殿の裏に消え、後から神主も出てきて、またもや裏に消えて行った。

ふと気付けば、自然と本殿の方に歩みを進めている自分が居た。

警告に対する恐怖心よりも、好奇心が勝っていた。
此処まで来たら、見るしかない。

本殿の脇の道を進んでいく。
道は木が生い茂り、薄暗く、苔がむしている。

少し進むと、前方が開けた広場の様な場所に出た。

神主達は慌ただしく、なにやらキャンプファイヤーの木組みの様なものを、四方に作っていた。
真ん中には、件の箱が一番頑丈そうな木組みの上に置いてある。
神主と目が合った。

怒られるかと思ったが、別段気にも停めない様子で作業を続けていた。

何だか許可を貰った気に成ったので、木陰から広場に踏み出した。

何が始まるのだろうか?
期待と不安でソワソワしながら事の成り行きを見守って居ると、視界に人が映った。

 

神主でも袴姿でも無い。

普通のじいさんだ。

俺の右、20mくらいの所に立ち俺と同じように神主達をみていた。
俺はおじいさんに近付き、話掛けた。

「すいません。今から何かあるんですか?」
「人型焼きだよ」
おじいさんは、気さくに答えてくれた。
「今から人形を焼いて供養するのさ」
「人型焼き…ですか」

予想はしてたが、当たりだ。
今日来て正解だった。面白いモノが見れそうだ。
それにしても、何でこんな時期に?
俺はてっきり、こう言うのは年末とかの締めにやるモノだと思っていた。
だが今日は特に特別な日でも無い。

「いつも見に来るんですか?」
おじいさんに尋ねた。
「いつも人型焼きが有るわけじゃないからねぇ。いつもはこんな時期にはしないし、こんなに大きな人形を焼くのも初めてだ」
少し間を置いておじいさんが答えた。
「今日は特別なんだ」

もう一歩踏み込んでみる。


 

「『特別』って何かあったんですか?」

俺の問掛けに、初めて少しだが表情が曇った。
地雷を踏んだか?…と思ったが、じいさんは暫く考えた後に口を開いた。

「信じられん話かも知れんが」
そう言う話なら大歓迎である。
「実はな、あの人形は元々本殿の脇に在る倉庫に厳重に保管されとったものだ」
「だがしかし、今日の早朝、3日振りに神主が倉庫の点検をした時、あの人形が消えとった」
「神主と神社の者が総出で探し、日が明るく成った時にやっと見付かった」
「何処に有ったと思う?」
何なんだ?勿体ぶらないで欲しいな。
…と思いながらも、乗ってやった。
「何処に有ったんですか?」


 

「明るく成るまで、だ〜れも気付かんかった」
「それもその筈、人形は誰が乗せたか本殿の屋根の上に置かれていた」
「これには神社の者も心底驚いた」
「何せ人形はマネキンだ。成人男性くらいは有るマネキンを高い本殿の上に持って行くのは、容易ではない」
「大一、悪戯にしては手が込んでるし、あんなトコにやる理由が判らん」
「兎も角、考えててもラチが明かんので、マネキンを下ろす事にした」
「だが梯を登って下ろす最中に、マネキンを抱えた男が足を滑らせマネキンと一緒に落下した」
「男は足を折ったらしく、すぐに病院に運ばれて行った」
「男はしきりに『人形が噛んだ』『人形に噛まれた』と訴えて居った」

「これはいかんと、神主が慌てて型焼きの準備をし、今に至る訳だ」

「随分詳しいんですね」
にわかには信じられない話だったし、完全に疑ってる訳では無いが、ちょっと意地悪してみた。


<<prev next>>
プロフィール
708さんのプロフィール
性 別 男性
あしあと一覧