2011-6-30 17:13
今思えば、俺が人生で初めて体験した怖い話だったと思う。
夏休みの午後のことだった。
俺と友人の二人で近所の川で釣りをして遊んでいた。
田舎ってこともあって見渡す限り回りには誰もいない。
その川には普段からかなりの頻度で訪れていて、その日もいつもと同じポイントで釣りをしていた。
普段なら釣りをしはじめてすぐに魚が釣れるのに、
その日は全くといっていい程釣れなかったのがとても印象的だった。
俺達はしばらく釣りをしていたが、やがて飽きてきたためにその川に入って遊ぶことにした。
しばらく遊んでると、後ろから「うわっ!」って叫び声聞こえた。
その声に驚いて急いで振り向いたら、友人が足をすべらして転んだようだった。
俺は「大丈夫?」って言いながら急いで友人にかけよった。
そして、友人の少し後ろを見た瞬間、俺は血の気がサァーって引いてくのが分かった。
水面に映った友人が明らかに俺の方を見て「ニタッー」と笑っているのだ。
その水面に映った友人は、さらに気持ち悪い笑みを浮かべて
「おいで、おいで」と俺に向かって手招きをしていた。
2007/05/12(土)
2011-6-30 15:31
と、言うのも獣の臭いに混ざって、さっきから酒の臭いが漂って居たのだ。
神主は酒を杓で掬うと箱に掛け始めた。
おいおい…いくらアルコールだと言っても、どう見たって日本酒だぞ。気化しにくく、発火性も低い日本酒を掛けても止めを刺すだけだ…と思ったが、予想に反して火は驚く程に燃え上がった。
「ぎゃぁぁぁぁ!!いぎぃぃぃぃぃ!!おのれええぇぇ〜!妻と子供に会わせろ〜!帰せ〜!俺を帰せ〜!!」
「お前は〇〇ではない!人形だ!お前はお前に帰るんだ!!」
そう言うと神主は懐から手鏡を取り出し、箱に投げ入れた。
そして、周りの木組みを袴姿の男達が中心に向かって倒し始めた。
最後に神主は桶を担ぐと、残りの酒を全部ぶっ掛けた。
炎はこれまでより猛々しく燃え上がり、巨大な火柱と成った。
「ぎょぇぇぇぇ〜!!!!」
それが最期だった。
それからは叫び声がする事も、箱が揺れる事も無かった。
気付けば俺は、汗だくに成って居た。
神主達は、火がくすぶるまで呪文を唱えていた。
目の前で起こった出来事を、否定したい自分が居た。
俺は、確実に昨日までの俺とは違うだろう。日常を一歩踏み外した…ただそれだけなのに、見える世界は色を変えていた。
その後、神主が俺に歩み寄って来た。
俺は変に身構える事も無く、神主の話を聞いた。
「一応祓って上げるから、ついてきなさい」
俺は神主を追って本殿に入った。
じいさんは、神主と先を歩きながら何やら喋って居た、どうやら顔馴染みの様だ。
本殿で二人は、簡単な御払いを受けた。
その後、茫然自失と言うか、府抜けた感じだった俺に、神主さんが詳しい事情を話してくれたから、少しスッキリした気がした。
「あの人形はね…長い間、人として暮らして来たんだよ」
「あのマネキンを連れて来た御婆さんが言うには、自分の娘が大事にしていたそうだ」
「娘と孫は事故に遭って死んでしまったけど、あのマネキンだけは無傷だった」
「御婆さんは遺品だけど気味が悪くて、仕方なく此所に持って来たんだよ」
「事故に遭った時も車に乗せてたくらいだから、きっと相当大事にされてたんだろう。余りに感情移入すると、次第に人間は人形が生きてると勘違いしてくるものなんだ」
…この後の言葉は、今でも頭から離れない。
「人形も同じだ」
「余りに大事にしすぎると、自分が人間だと勘違いしてしまうんだよ」
「何故なら、彼等も生きているのだから…」
忘れた時を取り戻す様に蝉が鳴き出した。
ある夏の日の出来事だった。
2007/03/28(水)
2011-6-30 15:28
奇妙な一行は本殿の裏に消え、後から神主も出てきて、またもや裏に消えて行った。
ふと気付けば、自然と本殿の方に歩みを進めている自分が居た。
警告に対する恐怖心よりも、好奇心が勝っていた。
此処まで来たら、見るしかない。
本殿の脇の道を進んでいく。
道は木が生い茂り、薄暗く、苔がむしている。
少し進むと、前方が開けた広場の様な場所に出た。
神主達は慌ただしく、なにやらキャンプファイヤーの木組みの様なものを、四方に作っていた。
真ん中には、件の箱が一番頑丈そうな木組みの上に置いてある。
神主と目が合った。
怒られるかと思ったが、別段気にも停めない様子で作業を続けていた。
何だか許可を貰った気に成ったので、木陰から広場に踏み出した。
何が始まるのだろうか?
期待と不安でソワソワしながら事の成り行きを見守って居ると、視界に人が映った。
神主でも袴姿でも無い。
普通のじいさんだ。
俺の右、20mくらいの所に立ち俺と同じように神主達をみていた。
俺はおじいさんに近付き、話掛けた。
「すいません。今から何かあるんですか?」
「人型焼きだよ」
おじいさんは、気さくに答えてくれた。
「今から人形を焼いて供養するのさ」
「人型焼き…ですか」
予想はしてたが、当たりだ。
今日来て正解だった。面白いモノが見れそうだ。
それにしても、何でこんな時期に?
俺はてっきり、こう言うのは年末とかの締めにやるモノだと思っていた。
だが今日は特に特別な日でも無い。
「いつも見に来るんですか?」
おじいさんに尋ねた。
「いつも人型焼きが有るわけじゃないからねぇ。いつもはこんな時期にはしないし、こんなに大きな人形を焼くのも初めてだ」
少し間を置いておじいさんが答えた。
「今日は特別なんだ」
もう一歩踏み込んでみる。
「『特別』って何かあったんですか?」
俺の問掛けに、初めて少しだが表情が曇った。
地雷を踏んだか?…と思ったが、じいさんは暫く考えた後に口を開いた。
「信じられん話かも知れんが」
そう言う話なら大歓迎である。
「実はな、あの人形は元々本殿の脇に在る倉庫に厳重に保管されとったものだ」
「だがしかし、今日の早朝、3日振りに神主が倉庫の点検をした時、あの人形が消えとった」
「神主と神社の者が総出で探し、日が明るく成った時にやっと見付かった」
「何処に有ったと思う?」
何なんだ?勿体ぶらないで欲しいな。
…と思いながらも、乗ってやった。
「何処に有ったんですか?」
「明るく成るまで、だ〜れも気付かんかった」
「それもその筈、人形は誰が乗せたか本殿の屋根の上に置かれていた」
「これには神社の者も心底驚いた」
「何せ人形はマネキンだ。成人男性くらいは有るマネキンを高い本殿の上に持って行くのは、容易ではない」
「大一、悪戯にしては手が込んでるし、あんなトコにやる理由が判らん」
「兎も角、考えててもラチが明かんので、マネキンを下ろす事にした」
「だが梯を登って下ろす最中に、マネキンを抱えた男が足を滑らせマネキンと一緒に落下した」
「男は足を折ったらしく、すぐに病院に運ばれて行った」
「男はしきりに『人形が噛んだ』『人形に噛まれた』と訴えて居った」
「これはいかんと、神主が慌てて型焼きの準備をし、今に至る訳だ」
「随分詳しいんですね」
にわかには信じられない話だったし、完全に疑ってる訳では無いが、ちょっと意地悪してみた。