dwarf Garden

サヨナラ、今日のわたし


サヨナラ、明日のわたし



サヨナラ、サヨナラ。


逃げたもん勝ちって言葉があるし、今日と明日の真ん中でユラユラしてても問題ないよね。




ああ、でも煩い夜は嫌い。

風の強い夜に耐えなきゃいけないぐらいなら、静寂で満たされた海底がいい。




ひたひた、冷たい場所がいい。

卒業式の日、ラブレターをもらった。


いや
もらった、というのは間違いかな。



帰り際、下駄箱に無造作に入っていた、ルーズリーフ。




友達はみんな、ラブレターなんかじゃないと言った。


でも私には分かる。あれは絶対にラブレターだ。







「ありがとう、またいつか」

と走り書きされた細い文字。



まっすぐな黒髪みたいな、細い文字。












あれからかなりの時間が経って、あのルーズリーフはどこかに無くしてしまったけど、はっきり覚えてる。













先日、

同窓会があって、久しぶりにクラスメイトみんなに会った。
あの頃みたいに時間を忘れておしゃべりした。





その帰り際、彼女が私に投げかけた一言。






ありがとう、またいつか。







私も笑って言った。






こちらこそ、ありがとう。
また、いつか。






彼女は笑って、あの頃と変わらない、まっすぐな黒髪を揺らして、去っていった。

■ショートストーリー



ハロー、
もしくはグッドモーニング
もしくはグッドイブニング。

みなさん　ごきげんよう



スノードームって、知ってますか


そうそう。あの綺麗な置物。


僕はあのスノードームが、世界の縮図だと思うんです。


綺麗で
丸くて
ちっぽけで
誰かが揺り動かさないとずーっとそのまま。



まさにそうでしょ？


え、なに？

僕の言ってることが分からない？





うん

まぁそれでもいいんじゃないかな


聞き流してくれていいよ




要は

とにかく僕はこの素晴らしく美しく汚い世界が好きだったって話。


うん？

『だった』って何かって？


はは、さっきまでの聞き流す姿は嘘？
ちゃっかり聞いてるんじゃん。


…はいはい、分かったよ。そうイライラしないで。



あ、そうだ
そういえば新しい紅茶の葉を買ったんだよ。そこらの安いティーバッグじゃなくて、ちゃんとした葉っぱ。
安いのは安いので美味しいけどね。
リプトンとか大好きだし、僕。

はい、僕特製のスペシャル紅茶。
そんな顔しないでよ、大丈夫。
毒なんて入ってないからさ。



……ごめんって、ちゃんと話すよ。




でもまぁ


最近の人間は僕の本当のことを話したって、信じないから、やっぱり言わない。




はいはい、消えますよ。うん。






じゃぁ、紅茶のカップはちゃんと片付けといてね。


サヨナラ、人間。

いまここに立って

いま空を見上げて

いま白い息を吐いて




ちらりと流れた星を網膜に焼き付ける



宇宙ってスゲーッ！




くたびれたスニーカー履いて
のらりくらりと生きてる俺も


ぱりっとスーツでキメて
早足に生きてるサラリーマンも


北風無視してミニスカートを揺らす
アイメイクばっちりの女子高生も








宇宙からしたら
地球からしたら


なんてちっぽけな存在だろう。





だから、


この世界の果てには大きなドアがあって、それを開くと
そこは見たこともない生き物が生きてる世界で、
俺たちの世界の果てに繋がるドアは
その世界では駅の片隅の寂れたコインロッカーで。


…なんていうＦＳ映画のラストシーンを、俺は密かに信じてる。

高かった空がくすんで、
自販機にコーンポタージュの缶が並ぶ季節。

肌にぴりりと北風が染みる。



なんだか前よりも、たくさんの景色が溢れて、わたしのこころは駆けだした直後のわくわくに似た気持ちで満たされている。


あのころ、たしかに幸せだったけど、一直線になりすぎて視野は狭かった。

そんな曖昧で苦味を帯びた甘味は、どんどんわたしのこころを蝕んでいた。


プラスになるものしか要らないこころが、マイナスの甘味で満たされていく。
それにわたしは耐えられずに。




ついに捨て置いた後は、
あっけないほどにこころは晴れて、わたしは新しいわたしになった。



ずるずる手を差し伸べる苦味はもう振り返っているのも馬鹿馬鹿しく、


わたしはあの選択を間違えていなかったと、木枯らし吹く街で幸せに暮らしている。