魂になったアイオロスとデスマスク





薄闇が広がる視界の端で、淡い光が瞬いた。

体に馴染むひやりとした気配は、普段自分達の操る小宇宙とはまた違う。しかし蟹座であるデスマスクには恐らく小宇宙を知るよりもずっと昔から身近に寄り添っていた異質さだった。

「よお、アイオロス」

当たり前のように投げかけられた名前に答えるように人魂は明滅する。それを肯定と取ったのか、デスマスクは唇をゆるく上げると冷たい石畳の上へと腰を下ろした。
十二宮、吹きさらしになった宮の入口には容赦なく冷たい風が吹き付ける。整えた髪を乱す風はそのままに、問い掛けるように言葉を紡ぐ。

「長かった、っつーのかな…」

消え入るようにほろほろと零す音を拾うのは魂のみ。
その魂も答えてなどはくれないけれど。

「俺らが全て正しかったとも思わねえけど、間違った事をしたとも思わねえ。自分の選択に後悔はしてねえよ。」

懺悔のように綴られるのは確かに己の内にある思いで、柄にもねえな、と苦笑しながらも何時になくデスマスクは饒舌に続ける。

「やるこた全部やったんだ、こっから先に俺らは必要ないだろうよ。そろそろ場違いな死神は退場かね」

くつくつと笑い声を上げるその横顔はどこか穏やかで、ひとつの終わりを感じさせた。

「ほんとはあんたも連れてってやりてえけど、まだ、やることあるんだろ?」

ゆらり、また返事のかわりに人魂がひとつ瞬く。
それを見て満足そうに笑うと、すっかり体温の移った石畳から腰を上げて、踵を返す。
向かう先は黒々と闇を湛える宮の奥。

「じゃあま、俺は先に行ってるわ」

片手をひらつかせてゆっくりと遠ざかる。
明日になればこの聖域の全てが変わる。女神が戻り、あるべき形へと正される日。塗り固められた虚構は終わりを告げる。
すっかり大きくなってしまったデスマスクの背中を、アイオロスは見えなくなるまで見つめていた。




Reverse Day






アイオロスの魂は聖衣に宿るというよりも地上に止まって、女神のために聖衣を星矢達に届けていて、だから何年も経っているのに転生もせずに居たのかなっていう妄想。
それを蟹座であるデスマスクだけが知ってて、本来なら送ってしまうべきである魂をそのままにしてた。
蟹座はそういうのが仕事だったらいい。