その日、いちかは休日だった。
いちかは鼎・梓・彩音と一緒に「珈琲 藤代」でさながら女子会みたいな感じで、デザートを食べながらわいわい話してる。
この頃になると用心棒の梓は、ゼルフェノアの雰囲気に慣れていた。
「ねぇねぇ琴浦さん、琴浦さんはゼルフェノアにもう慣れた?」
いちかはいちごパフェを食べながら無邪気に梓に聞いている。
「ん〜?まぁ慣れてはきたかな。あたしは鼎の用心棒で来てんだよ。鼎がお前に誘われたっていうからついてきただけだ」
相変わらずちょっと怖い眼鏡のお姉さんという感じの梓。言い方もちょっと怖いせいか、いちかは初めはびくびくしていた。
年齢も鼎と同い年なんだそうな。
鼎はケーキセットにしたらしく、モンブランを食べている。飲み物はコーヒー。
彩音はフルーツパフェを食べていた。梓はコーヒーゼリー。
彩音は和気あいあいと女子会みたいなことをするのが内心嬉しかった。ゼルフェノアに1人、用心棒という形で女性が増えるなんて。それも鼎の幼なじみで。
休日なので全員私服だったが、梓は三節棍を持ってきていた。ハンドガンも携帯。梓は鼎の隣に座っていた。警護のため。
いくら彼女が休日でも抜かりないのが、用心棒の役目だ。
いちかと彩音は鼎達とは向かい側の席に座っている。
そんな和気あいあいとした中に、入店してきた人達が。小学生くらいの少女と青年だ。
2人とも黒い服を着ている。黒地に赤が差し色なのが目を引いた。
少女はまるでお人形さんのようでかわいらしい。だがどこか怖い雰囲気を漂わせている。
少女と青年は畝黒(うねぐろ)家の者だった。明莉(あかり)は突如、いちか達をビシッと指差してこう言い放つ。
「お前達、ゼルフェノアの者か?」
抑揚のない、機械的な無機質な言い方。なにこの女の子…怖い。
「そ…そうだよ?あなた達は誰?」
明莉はいちかの質問を無視し空席にどかっと座るなり、こんなことを矩人(かねと)に聞いた。
「これはなんだ?」
「明莉様、お目が高い。これはテーブルにてございますよ。ここで食べ物を食べるのです」
4人にはこの2人が明らかに異質に見えた。あの明莉という少女、人間とは思えない無機質な話し方をしている上に無表情。
さすがのこの事態に藤代は2人を退店させようとする。
「お客様、他のお客様に迷惑です!今すぐ出てください」
「私は客だが?」冷たい声。
「店の備品を傷つけておいて客はないでしょ。今すぐ出て行ってください!」
明莉と矩人はわかっているのかいないのか、鼎達4人を再び見るなり…姿を消した。藤代は慌てる。
「消えた!?」
この一連の様子を見ていた鼎と梓はある推測をした。
2人は小声で話す。
「あいつら2人…人間じゃない雰囲気を出していたな。消えること自体、異質だろ」
「鼎もそう思うか。あの明莉とかいう女の子…歳相応じゃない。無機質すぎる…あいつ…人間じゃないのでは?」
「あの青年はかなり人間臭かったけどね」
「なんなのあいつら…」
いちかは機嫌を損ねたらしく、イライラしながらパフェを貪り食べてる。
変な女の子にいきなり指なんて差さされたら、そりゃあ嫌な思いはする。
畝黒家。明莉は當麻の元へ。
「パパ。ゼルフェノアの人達を見たよ。あいつらを壊せばいいんだね」
相変わらず無機質な話し方をする明莉。
「お前の役目はそれだ。矩人、お前も協力しろよ」
當麻はまだ感情があるため人間味はあるが、どこか…怖い。
「何なりと」
矩人は深々と礼をした。
畝黒家経由でイーディス達に通信が。
「明莉と矩人が動いた?じゃあ私達は鼎をじわじわいたぶりましょうか、當麻様」
「共にゼルフェノアを崩壊させるぞ。厄介なのは義手の長官・蔦沼だが」
「グレア、あのマキナを使うのよね」
「使いますよ〜?ゼルフェノア潰しなら手段は問いませんから。ふふふ…」
グレアは不適な笑みを浮かべている。
翌日・ゼルフェノア本部。
「変な女の子を見た?」
宇崎はまともに取り合わない。
「室長、あいつ絶対人間じゃないっすよ!見た目は小学生の女の子なんだけど…無機質で怖かったんだよ。それにその場から消えたのを見たっす」
宇崎は一応話を聞くことにした。
「そいつの名前は?」
「明莉とか言ってたような…」
「あかり?ちょっと待て…そいつに付き人らしき人、いなかったか?」
「いたっすよ」
「あくまでも推測だがそいつら…『畝黒家』の人間かもしれない」
「うねぐろけ?」
いちかは首をかしげた。司令室には鼎もいたので引っ掛かったらしい。梓もだ。
「室長、畝黒家とは一体何者なんだ?」
鼎が聞く。
「お前らは知らないかもしれないが、何やってるかわからない大企業・畝黒コーポレーションの核となっている一家だ」
畝黒コーポレーション!?
「名前だけは聞いたことがある。畝黒コーポレーション…」
「鼎、畝黒コーポレーションって確か…」
梓が言いかけたが宇崎が遮る。
「首都圏にはないぞ。その企業。場所を特定されにくいようにあえて首都圏外にしているくらいだが、実態は謎。
表向きはベンチャー企業だが、明らかに怪しいことをしてるという黒い噂が立たない…そんな謎に包まれた企業だ」
「めちゃめちゃ怪しいじゃないっすか。あの女の子がなんであたし達に接触しようとしたんだろ」
「…ゼルフェノアをどうにかしたくて遣わせたとかじゃないのか?いちか。
過去の例からするに、あの機械生命体と畝黒コーポレーションは関係あるように思えるんだが」
「鼎もその推測か。あたしも同じだよ。あの機械生命体の解明が急がれるところだな」
鼎と梓はどことなく似ているところがあるようで。幼い頃から一緒だったせいもあるのだろう。
解析班の持ち場。朝倉は突如、こんなことを言い出した。
「あの機械生命体を生け捕りにするわよ!!解明のためにっ!!」
「チーフ!それ無理ですって。頭おかしくなったの!?大丈夫!?」
矢神が止めに入る。
「今までの怪人とは性質が違うから生け捕りは行けると思うんだけど。コアさえ壊さなければ爆散しないのはわかった。
それに人が作ったんなら、解析班としては解明しなくてはっ!!敵を暴いてやるーっ!!」
司令室。
「朝倉、それ本気で言ってるのか?」
宇崎はきょとんとしている。
「今までの怪人とは性質が明らかに違うから、サンプル採集に生け捕り出来るのではと…」
「いくらなんでも無謀すぎだろ!」
「だから隊員達に協力を仰いで貰いたいのよ!敵を暴くためにもね!!」
「敵はなんとなく推測してるんだが…。わかったよ、御堂達に伝えておくよ」
「ありがとうございます!」
こうして前代未聞の怪人生け捕り作戦が実行されることになる。
解析班が隊員を巻き込むような形で。