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劣化した記憶


「いやっ」

いつものように事務所にやってきた弥子に手を伸ばせば嫌嫌、と我が輩を振り払う
ソファーへと放り投げてやれば、意外にも弥子は押し黙った

「何を嫌がるわけがある?」

その華奢な身体に跨がると、悲鳴にも似た声が聞こえた
目を固く綴じ、何かに堪えているかのような態度を取る

「我が輩が、怖いか?」

くつくつ、と笑うと弥子はゆっくりとその淡い栗色の瞳を覗かせた
恐怖に染色されたその瞳は、逸らすことなく我が輩へと向けられる

「ひっ」

手を頬に添えただけでこの様だ
我が輩が何かしたか、と言いたくなる程の避けられ様だった
身に覚えのないことに我が輩は首を傾げる

「怯えるな、」

ふるふる、と震える身体
細い腕が我が輩に向けられて、少しだけ目を見開いた
調教し直す必要があるか、と問えば返ってくるのは喘ぐような声ばかり
決して答えとは言えるものではなかった

「やっ」

暴れる腕を絡め取り、弥子の頭の上にスカーフで固定する
尚も暴れる弥子を我が輩はただ観察することしか出来なかった

「ヤコ」

「呼ばないでっ」

やっと会話らしい会話が返されたと思えば、拒絶の言葉だ
涙を瞳に浮かべ、目元を赤く染めている

「ヤコ」

「やめ、て」

弥子の制服のリボンを解いてやると、白く優美な肌がふと目に映り込む
甘ったるい匂いに誘われ、我が輩はその肌に舌を這わした

「っ」

何を感じているのか、弥子は身体をよじらせる
ふと覗いた胸元に、薄い痣が出来ていて
好奇心を揺さ振られ、指で触れてみる

「…!」

弥子は背を弓なりにして、また固く目を綴じた
白い首筋から淡い人肉食へと変化した鎖骨へと舌を動かしてやる

「ふあっ」

「この痣はどうした?」

涙を浮かべながら、ひたすら弥子は首を振り続けた

「言え」

「いえっ、ない」

ちくり、と首に痛みが走る
言えないのだと口をつぐむ弥子に苛立ち、我が輩は弥子の鎖骨に噛み付いた

「いっ」

どろっと一筋の真っ赤な血液が弥子の身体から滑り落ちる
血は弥子を服を汚した

「まだ言えない、か?」

ぽとりとまた血液が滴り落ちる
弥子の服を弥子のではない血液が占めていく
自分からの血液
不思議に思い、先程痛んだ首に手をあてがうと黒い手袋に染みができる

「わかった、でしょ」

「何のことだ?」

種族の違う二つの血液が交じりあう
傷に触れればやがて引っ掻き傷だと判明し
そして弥子は口を開いた

「言えないよ、」

(あなたにされた、だなんて)













ごめんなさい(´・ω・`)
魔人様視点はわけわからないです 笑

餓死することも出来なくて


一人だけの時間
今日はお母さんは家にいない
淋しくはない、
慣れたことだと思っていたから
でもやっぱり何か足りなくて

「…遅いな、ネウロ」

来てしまった
いつもの事務所
けれどネウロはいなかった
静かな部屋にわたしの息音だけが支配して

「どこ行っちゃったんだろ」

アカネちゃんも知らない、と髪を振る
わたしにはこの沈黙がたまらなくもどかしい

(はやく、かえってきて)

胸騒ぎがした
でもわたしは無力な人間だから

ドアの軋む音がしてわたしは勢いよく目を遣った
そこにあったのは大切な人が扉にうなだれている姿
近づいてみると、服も髪もびしょ濡れになっていることに気付いた
口を固く閉じていて、滴る水は止まることを知らない

「…どうしたの?」

理由を聞いても返事を返されることはなかった
いつの間に雨が降ったのだろう、とわたしは頭を抱えることしかできなくて

「…っ!」

引き寄せられたことにまで頭はついていけなかった
掴まれたままの腕が痛む
じわり、とわたしの服に遠慮なしに滲む雨水
もう夏だというのに肌寒かった
ネウロの体はひんやり冷たくなっていて、

「冷たいよ、ネウロ」

小声でそう呟いた
回された腕に抗うような真似は、わたしには出来なくて
ただ肌を伝う温度を心から感じることしか出来なかった

「…寂しい、の?」

焦るようにわたしと唇を交わすネウロ
餓えた魔人は貪るかのようにわたしを食した

「ヤコ、」

低くて、少し震えた声が事務所に響く
心地良い、
求められることも、拒否されることさえも

「安心して、心を許して」

冷めた心を暖めてあげるから
愛してあげるから

「ねう、ろ」

そんな目でわたしを見ないで

解放

青は天国のいろ、緑は安らぎのいろ
そんな目でわたしを誘わないで
わたしにとって貴方はわたしの命を脅かす存在でしかない


「ね、うろ?」

目を覚ますと、わたしは見たことのない場所にいた
ゴツゴツとした岩石が散らばる丘のような場所
辺りは霧がかり、空を見上げれば少し朱に染まっていて
朝焼け、らしい

「…ここ、どこ?」

空気中に漂う水滴がわたしの肌をくすぐる
体を起こすとますます大きな不安に苛まれていく
孤独、という漠然とした言葉が脳裏を掠めて
わたしは途端に恐怖に刈られてしまった
立ち上がることもこの空間では怖くて行動できない

「ねっ……ネウロ!」

誰もいない
ネウロも、笹塚さんも
一体何故こんな、わけのわからない場所にたどり着いてしまったのだろう
ここに来る前の記憶がわたしにはない

「こわい…」

この肌寒さも、石の感覚も本物で
わたしは何者なのか、今までどうやって命を繋いできたのかもわからない
すべて、わすれてしまった

「たすけて」

まるで山奥に来てしまったかのようで
不安と恐怖に押し潰されそうになる気持ちを必死で押さえ込む

「ねうろ」

これは、夢?
それとも現実?
その時、わたしは実感した
わたしはネウロがいないと何も出来ないことを

立つことさえできない
笑うことも、泣くことも
わたしは貴方がすべてだったのだと

貴方を失ったわたしには
あと一歩を踏み出す勇気さえもなくなって、
躊躇しないなんて、言える筈もなかった

亀裂(苦い、わたしの恋心)


「馬鹿みたい…」

わたしは事務所から少し離れた道に座り込んでいた
乱れた制服のリボン
なんとかシャツは走りながら直したけれど

「はは」

なんだ
好きなんかじゃなかったんだ、
あいつは笑ってた
わたしのことを

(愛している、ヤコ)

(…ネウロ)

いいかなって、いいのかなって
ただ純粋に迷った
ネウロにならいいかなって、思えたのに

(フハハ、愚かだな)

(ウジムシ)

もう、忘れた
ひどい男の笑い声が、今も耳から離れない

「っ」

涙なんて
わたしなんて

「…ふ」

冷たい雫が頬を伝う
人の視線も、気にならない
体がどんどん雫で濡れていく
この街は、冷たい人だらけだ

(先生?)

(ヤコ)

ああ、
こんなときでも貴方の笑顔を思い出してる
さっきのことなど許せてしまうほど

「……ほんと、馬鹿」

無理矢理だった
断ろうとすれば殴られて
一瞬でも揺らいだわたしが馬鹿らしくて
必死になって逃げ出した
こんなのは違う
あなたはわたしに愛を囁いてくれたじゃないか

(…愛?それがどうした?)

馬鹿馬鹿しい
逃げ出して当然だ

なのに



―どうして後悔してるの?



「ねうろっ」

すきなのに

疲れてるならやめればいいじゃないか
どうして、
どうして、

(愛している)

ああ、そうか
簡単なことだった
ただ期待して
裏切られて


愛している、
誰より
ずっとあなたに
そう言われたかったのね

馬鹿ね、わたし
殴られたことなんて、もう許してしまった


止まることのない涙の理由、それは感情を持ち合わせていないあなたからの


愛の言葉

壊れた関係

このままじゃいけないと信じてわたしは貴方の手を離した

本当は離したくなどなかったのに

「ネウロ、」

貴方は苦しそうな顔をしていたね

その時貴方も、わたしも笑ってなんていなかった

「魔界、行っていいよ」

ぐすん、と鼻が鳴る

貴方のため、わたしはさよならを決意した

行ってほしくなどない、

決意とは裏腹に、わたしの感情が暴れだす

「辛い、でしょ?」

貴方は息が出来ないのよ?

辛いと言って、

わたしを離して

「だ……いじょうぶ、だ」

嘘つき

汗をかかない貴方が汗をかいているじゃない

息、荒いじゃない

「ねえ、もう離して」

わたしは決めたの

わたしがいると貴方は魔界に帰ることが出来ない

だから

「……おねがい」

声が上手く出せない

きっと泣いている所為ね

早く笑え、

笑わなきゃ、

「おねがいだから、」

笑わなきゃ

笑わなければ貴方は帰ることが出来ないのに

「わたしは大丈夫、だから」

冷たい手を握り締め、わたしはゆっくりと手を離す

嗚呼、もうわたしは貴方とはいられないのね

「ねうろ、」

悲しくなんて、ないよ

本当よ

貴方に出会えて、愛の意味を知ることが出来て

貴方を愛して、貴方が何より大切で

「もう、いいの」

目も耳も離せなくて、

気になって

何も手につかなくなって

「ばいばい、だよ」

でも、貴方の為ならば

わたしは手を離せるよ

「さよならだよ、ねうろ」

わたし、笑えてた?

貴方を安心させることが出来たかな?

最後に残った羽だけは、せめてわたしの掌に





辛くはないよ

貴方の声が今だ耳を掠めるけれど、

わたしは平気

だから、後悔してないよ?




ねえ、ネウロ

わたし本当に、貴方のことが

好きでした
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