8月3日、増田有華さんの誕生日に贈ったものです。
山ほど届いたプレゼントの中からこの拙文を手にとってくれるか、さだかではありませんが。
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それはファンタジー。 【※閲覧パスはプロフを参照!】
8月3日、増田有華さんの誕生日に贈ったものです。
山ほど届いたプレゼントの中からこの拙文を手にとってくれるか、さだかではありませんが。
With
―Hommage to Yuka.M & The Wizard of Oz
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「こんにちは」
ゆかは声の主をさがした。
「ここですよー!」
脚元から声がして、ゆかは下を見た。
人でもネコでもイヌでもない、ぬいぐるみサイズ。
真っ白な頭と身体、ちっちゃくて丸っこい手足。
(*´ω`*)
「にゃもしですぅ」
えっ、
うそやん。
意味わからん。
「きも」
「そんなこと言わないでくださいよぅ」
「うちん中のにゃもしさん、こんなんちゃう。まじショック」
奇妙すぎるのは確かだけど、
顔文字の世界から飛び出したにゃもしさんが立体的に存在していることに、
不思議と違和感がない。
目の錯覚ではないことを確かめるために、
ゆかは手を伸ばしてにゃもしさんの頭にポンとのせた。
「触れるんやー」
そのままわしづかみにしてみたり、
アスタリスク * のほっぺを引っ張ってみたりした。
o< *´ω`*; >o
「わぁプニプニぃ。めっちゃきもちい」
「なにううんえうあ やえへうあはい (なにするんですか やめてください)」
「なんでこんなところおるん?」
「女神さまのお申しつけで、姫をお迎えにまいりました」
「はあ…」
「東へ旅立つのです」
「なんで?」
「姫は歌手になります。そう決まっているからです」
「歌は好きやけど…」
「女神さまの言葉は絶対です」
「女神さまって?」
「駅までいきましょう。女神さまのところへ行く前に、まずは魔女に会う必要があります」
「ずいぶん急やなあ」
にゃもしさんは、てくてく歩きはじめた。
ゆかはその後について行った。
道を進んでいくと、
何羽ものカラスがカアカアとうるさく群れて暴れていた。
「やめろよ!やめろっつってんだろ!!」
群れの中から、人の声がした。
ゆかは勢いよく走っていって、カラスをみな追い払った。
カラスが群れていた真ん中には、少女がひとりいた。
名前は かな というらしい。
片手に分厚い本を持っていた。
「バカだからって、みんなしてつっついてくんの。
賢くなりたいから外へ出てきたのに、マジひどい」
ひとりでは危険なので、
ゆかとにゃもしさんと一緒に、かなも行くことになった。
しばらく進むと、道を塞ぐように人が倒れていた。
背中には双葉のような大きなねじまきが刺さっている。
動力がきれたブリキのおもちゃみたいに動かない。
「まわしてみたら?」
かなが言った。
ゆかは、倒れている人の背中に刺さった大きなねじまきを巻いた。
ジリジリジリかしゃっ
ジリジリジリかしゃっ
倒れている人は目を開けて、すっくと立ち上がった。
「アリガトウ、
わたシは、マユです。
『ピノキオの大冒険』にあこガれて、ほんモノの人間になリたクテ、
まちをでよウとしたヤサキ、
ねじが、とまッテしまッテこまッテいました」
時々ねじを巻いてやらないといけないので、
ゆかとにゃもしさんとかなと一緒に、マユも行くことになった。
西のほうの駅
ゆかとにゃもしさんとかなとマユは、駅舎に入った。
改札窓口のお姉さんが迎えてくれた。
窓口のお姉さんは、ヒョウ柄のマントをまとっていた。
胸にネームプレートをつけていた。
西のほうの魔女
わたなべみゆき
「こんにちは。チケットを拝見しております」
西のほうの魔女はたずねた。
「女神さまのご指示です」
にゃもしさんが答えた。
「これはこれは姫。お目にかかれて光栄です」
西のほうの魔女は、驚いたような嬉しそうな笑みを浮かべた。
「旅に出られるのですね。名誉なことです。
6番線にハイパーワープゲートを開放いたします。ご利用ください」
「ちょ、ちょっと待って。これからどこ行くん?」
「言ったじゃないですか。東のほうですよ」
ゆかがたずねると、にゃもしさんが答えた。
「チケットはこちらです」
西のほうの魔女は、長方形の乗車券を差し出した。
みちしるべのように、路線図が記されていた。
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乗 車 券 ( 有 華 )
◎西のほう
・
◎歌
・
・
・
◎はじまりのはじまり
・
・
・ジレンマ
・
・夜明け前オレンジ
・
・向日葵
・
・歌姫
・
・20
・
・Cuz of U
・
・がむしゃら
・
・oz
・
・
◎東のほう
・
・
・
↓
最終の行く先
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「あいだの駅はすべて通過して、東のほうの駅へ参ります」
「どの駅も楽しそうやし、大事そうに見えるんやけど。
ぜんぶで下車して、ちゃんと世界を見たいなあ」
「心配には及びません。
ハイパーワープゲートで通過するのは、場所ではなく、“時間”です。
東のほうへ着く頃には、このチケットのすべてがあなたの過去になっています」
「なまけものみたいやん。そういうん嫌やわ」
「そうおっしゃるなら。きちんと説明しなければなりませんね」
西のほうの魔女は、にゃもしさんに目配せをした。
うん、とうなずいて、にゃもしさんは口を開いた。
「ここは姫の“過去”のような場所で、あなたはまだ14歳です。
これから起こる旅のために、
大切なモノを思い出すために、
記憶の中をさかのぼって、今ここにいらっしゃるのです」
「うちは歌が歌いたいだけなやけど」
「そのために数々の試練が待ち構えています」
細い目をさらに細めて、西のほうの魔女は微笑んだ。
「まもなく列車がまいります。ホームへお急ぎください」
←南のほうの駅←
西のほうの駅
→東のほうの駅→
ゆかとにゃもしさんとかなとマユがプラットホームに着くと、
駅員ではないお天気お姉さんが発着のアナウンスをしていた。
「ぅあまもなくぅ、6番線にぃ、東のほう行きのぉお列車がぁあん参りまあぁす」
お天気お姉さんは片手にはトランシーバーを、
もう片方の手には電車発着のサインを出すための手旗を持っている。
「黄色い線のうちがわにお下がりください。ホームの手すりから顔や手を出すと危険ですのでおやめください。駆け込み乗車はご遠慮ください。次の列車をご利用ください。強い電磁波の恐れがありますので繊細な機械等をお持ちのお客様は十分ご注意ください。あら、にゃもしさん。こんにちは。列車到着時の強風にとばされないように注意してくださいね。え。そこのおバカのかなは?……一緒に東のほうへ?なんでまた…ひめの遣い?でもどうして?嘘でしょ?信じられない…」
お天気お姉さんは、わんわんと声をあげて泣き出してしまった。
威厳はすっかり消えて、華奢な少女になった。
なつきは羨ましそうに言った。
「私、本当は列車に乗って世界中を旅したいの。
でも列車の安全点検と秩序管理のために、ここから動くことができないの」
ゆかのとなりの低い位置から、ほぉとため息が聞こえた。
「わかりました。私の役目はここまでです」
にゃもしさんはゆかを見上げた。
「姫、私はここに残ります。4人で行ってください。
東のほうの駅に到着したら、アキハバラという街のドンキホーテを目指してください。
そこにはシアターがあり、女神さまがおられます。謁見するのです」
「でも、私、ここを動いてしまっていいの…?」
「それはあなたが決めてください」
なつきは涙をぬぐって、
発着のサインに使う手旗をにゃもしさんに渡した。
「これであなたは自由です。行ってください」
なつきはお礼を言って、
ゆかとかなとマユと一緒に、列車に乗り込んだ。
「忘れないで。
大切なモノを手にするために、
大切ななにかを犠牲にする勇気を」
長くあっという間の列車の途中。
かなは、あこがれた英知のために、むずかしい本を一生懸命によんでいた。
ゆかは時々、読み方を教えてあげた。
マユは、すっかり暗記してしまうほどにあこがれたピノキオの物語をずっと話していた。
ゆかはうんうんと聞きながら、時々背中のねじを巻いてあげた。
なつきは、窓の外に釘付けで、あこがれた世界の風景を目に焼き付けていた。
ゆかはなつきと、まだ見たことのない先の話をした。
ゆかがふいに歌を口ずさむと、みんなが耳を傾けた。
ゆかの歌はみんなを優しい気持ちにした。
ハイパーワープゲートを抜けると、
目がくらむほどの強い光が4人を待っていた。
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