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もしも願いが叶うなら1




 ガンガンと激しいヒップホップが部屋中に響き渡る放課後の教室。いつもならとっくに帰っている時間だが、俺はずっきーこと鈴木裕樹を待っていた。
 俺達は小学校からの付き合いで親同士も仲が良い。

 どうやらずっきーはダンスの補習があるらしかった。うちの学校は体育に創作ダンスの授業があり、最終的には学年内発表と言うものをしなくてはならない。俺のクラスはダンス経験者がいたためどうにかまのがれた。
「ゆういち、時間大丈夫?」
 予定より時間を押しているらしく、先に帰ってもいいと声をかけてくれた。
「大丈夫だよー。一人で帰るのつまんないしさ」
 無邪気に笑ってみせれば、ずっきーは安心したように俺の髪をくしゃりとさせた。
  とは言ったものの、だんだんと帰りたくなってきたのも事実だった。他のメンツとはずっきーを通して知り合ったため、すれ違えば挨拶をする程度の関係だ。まったく無関係ではないものの、やはりどこか居づらかったりもした。
 暇つぶしに窓を開ければ見慣れたものとは少し違った景色が見える。俺のクラスは2階だが、今いるずっきーのクラスは4階なため少し遠くの方も見渡せる。この校舎の隣は木々の植えられた小さめの広場になっているため、遮るものが何もないのだ。
「あ……」
 広場を見渡せば、端の方に置いてあるベンチに誰か寝転んでいるのが見えた。あの寝方は間違いなく、彼だ。
「ずっきー、俺ちょっと外行ってくるね!」
 俺は一目散に教室を飛び出した。

 名前も学年すら分からないが、窓際の俺の席から丁度見えるベンチによく寝転んでいるのを知っていた。2階からではあまりはっきりとは見えなかったが、遠くからでも整った顔つきをしていることは一瞬にして分かった。絶対にモテるタイプだ。
 そんな彼を初めて見つけたときから、俺は何か惹かれるものを感じた。自分には授業をサボることなんて絶対にできないことなのに、それを当たり前のようにやってしまう彼は一体どんな人なのだろう。それに、遠くからでも分かるほどの美人な人がこの学校にいただろうか。そんなことよりも、もっと何か。どこか周りとは違う何かが俺を引き付けた。
 そう考えれば考えるほど彼のことが気になってしまい、いつか本人と話してみたいと思うようになっていた。

 外へ出た俺は校舎の裏へ回り、ばれないように壁に沿って広場へと近づいた。怪しいことだってことは充分分かっているが、こんな機会は滅多にない。授業中は抜け出せたくても無理なことだし、放課後にいるところなんて始めてみたのだ。またいつこんなチャンスが訪れるか分からない。
 しかし、自分は一体彼に近づいて何をしようとしているのだろうか。話したいのならこっそり行く必要もないわけだし、かといって「君、授業中もここにいるよね☆」なんて初対面なやつに話し掛けられたりしたら不審がられて当然だ。
「どうすればいんだろう……ん?」
 良い案を見つけるべく組んだ俺の腕に、何かうにょうにょと動くものがくっついているのを見つけ…
「……け、け、けむしぃぃぃ!!!」
大の虫嫌いな俺は思わず腕を振り回したが、毛虫は落ちるどころか動くことさえしない。
「も、やだぁぁぁぁ!!!って、いてっ!」
 周りを見ていなかった俺は何かに躓いてしまったらしく、盛大に頭からすっころんでしまった。
「いったー。もーなんだよぉー!」
「え……!?」
 頭上からの声に顔を上げると、一人の男の子が俺を化け物を見たとでも言うかのように驚いたように見下ろしていた。
「え…?」
「だから…」
「あ、あ、あー!!!」














 「つまり、助けに来てくれたさとうくんの足に俺が引っ掛かって転んでしまった。ってわけかぁ」
「わけかぁ。ってそれ意外に何か言うことないんですか」
「あ、えと、ごめんなさい…いや、ありがとう…?」
 先ほど名前を教えてくれたさとうくんに盛大に溜息をつかれてしまった。なんか、イメージと違う…?
「さとうくんってもっと柔らかい人かと思ってたー。ってか、なんで敬語使うの?くせ?」
「なんでって上履き見れば分かりますよ。先輩3年生でしょ。だから」
「え…?さとうくん年下!?」
 全然分からなかった。だって言われてみれば少し背は低いけど、そんなことを気づかせないくらい大人っぽいと言うかしっかりしてる。
「先輩、2階の教室ですよね」
「え…?よく知ってるね!」
 もしかしてさとうくんも俺を気にしてくれてたの!?思わず俺は目を輝かせた。
「いや、授業中俺を見てる怪しい人がいたのでもしかしたらと。さっき俺のこと知ってた風に言ってたし、柔らかいとかどうとか」
 あ、そうですか…。いや、見てたけど怪しいってひどくないか…いや怪しいけどさ…。


 何時間が経っただろう。それから、さとうくんと俺はいろんなことを話した。お互い初対面だったものの、遠慮のない彼の性格に(言い方ひどい?けどほんとのことだもん)話しが尽きることはなかった。最終的には下の名前で(たけるくんって言うらしい)呼ぶことになったし、たけるくんも敬語をやめてくれた。












 「でさー、ずっきーったら気合い入れすぎて捻挫しちゃってさー」
 あの日から俺はたけるくんのところに通うようになっていた。特になにかするわけではなかったが、たけるくんは呆れながらも俺の話をたくさん聞いてくれた。
「ずっきーって人は7組だっけ。なんか面白い人なんだな」
「かっこいいくせにたまーに天然だったりするんだよねぇ」
「ゆういちに天然とか言われたら終わりだと思うけど」
「えーひどーい!」

 最近たけるくんはずっきーの話にやけに反応する。俺の話を聞いて仲良くなりたいと思ったのだろうか。なんか、ちょっと嫉妬してるかも。でもたけるくんが気になるなら力になってあげたい。
「今度ずっきーも連れて来てあげるよ。きっと気に」
「いい。それはいいから」
 たけるくんは慌てたように即答で断ったてきた。慌てることなんて滅多になかったので、さすがの俺でも異変に気づかないはずがなかった。
「最近のたけるくん、やたらとずっきーの話題に食いつくけどもしかして知り合いなの…?」
「…………。」
「何かあるなら俺幼なじみだし協力す」
「余計なお世話なんだよ!」
「え、あ…ご、ごめ………」
「………ごめん。帰る」

 正直びっくりした。ちょっとクールだけど怒鳴る様な性格には見えなかったため、この時の俺は引き止めることも謝ることもできず、ただただ走り去る彼の背中を見つめることしかできなかった。

桜色メモリー1




懐かしい光景が猛スピードで広がっていく。記憶が正しければ到着まであと2分。嬉しさのあまり歓喜を洩らさずにはいられなかった。
ただいま、故郷!!!


















ホームに出ると、懐かしい風、懐かしい匂い、懐かしい街並みが俺を優しく包み込む。小さい頃から住んでいたこの街はどこか温かい感じがした。

「お〜い。こっちこっち!」

この声もそう。
人混みの中、恥ずかしげもなく大声で俺を呼び止める彼の声も、まったく変わっていない。それが妙に嬉しい。

「しゅんじ〜!元気にしてた!?」
「ゆういちこそ元気だったのかよ!ずっと連絡来なかったから心配してたんだぞ」

まぁ、俺も連絡してなかったけどな、なんて楽しそうに笑う姿もあの頃と変わらない。けど、ちょっと大人っぽくなった?

「しゅんじ、ちょっと背伸びたよね。なんか大人っぽくなったって気がする」
「ゆういちが縮んだんじゃねーの?そういう君は変わってないですねー」

ひっどーい!なんてすねてみたら、うそうそ、可愛くなった、って言われた。男に可愛いいって…まぁ、嬉しいですけどね。かなり。

1つ上のしゅんじとは近所同士だったため、まるで兄弟のように育てられた。幼稚園のときも小学校のときも中学校のときもいつも一緒。中学のときはしゅんじを追い掛けるように陸上部にも入ったっけ。
とにかく、しゅんじは俺にとって便りになる兄のような存在だった。

どうやらそれは今も変わらないらしい。いつのまにか俺が抱えていた荷物は、しゅんじの右手にぶら下がっている。

「てっきりあっちの大学に進学するのかと思ってたよ。わざわざ帰ってくるなんて」
「1人暮らししてみたかったってのが一番の理由だけど、やっぱりここが恋しくなっちゃったのかも」


中学3年の夏に突然父親の転勤が決まった。俺は父親の案でこっちで卒業式を向かえ、高校から父親の転勤先に行くことになったため、正確に言えば中学の春からこの地を離れたことになる。(数ヵ月間、父は単身赴任してたってわけ)

あれからもう4年近く立つのか。時間の流れは遅いようで速いなぁと思う。あの頃の記憶もきっちりと残っているわけだし。

「着いたよ」

そうこうしているうちに、これから俺が一人暮らしをするアパートに到着した。とは言っても、前とさほどは変わらない。しゅんじが「俺ん家から近い方がいい」と言ってくれたので、甘えることにしたのだ。もちろん昔住んでいたアパートも近い。
アパートの前にはすでに引っ越し屋のトラックが止まっていた。俺の部屋は二階の角部屋。階段を引っ越し屋のお兄さんがせわしなく登り降りしている。

部屋に入ると、ほぼすべての荷物が運ばれていた。開いている窓からベランダに出てみる。眺めも良い感じ。昔と変わらぬ風が俺の髪を揺らす。
新しく始まるような、昔に戻ったような生活に心を踊らせ、今から起きようとしているすべてのことが待ち通しかった。


















昼食ったら行きたい場所があるからと言われ、しゅんじに言われた通り着いてきた。雑木林を抜け見覚えのある岡を登れば、そこには忘れるはずがない場所が広がっている。毎年よく来たよね、2人で。

ここからは俺たちの街を一望できる。春になれば桜が咲き、夜になれば星々が輝きを放つ。人が滅多に入り込まないこの場所は、俺たちの秘密の場所でもあった。ずっと都心で暮らしていたが、やっぱり田舎の方が好きだと思う。こういう場所は田舎の特権だもんね。

「なつかしー!春には桜が満開でさ、今年ももうすぐで咲きそうだねー」
「俺もゆういちが引っ越してから来なくなってさ。すっげーなつかしー」

街を見下ろす。通っていた小学校や中学校。駄菓子屋さんまでよく見える。思わずただいまー!と叫びたくなる景色だ。


プルルルル、プルルルル。
思い出に浸っていると、携帯の着信音が鳴り響いた。俺のじゃない。しゅんじのだ。

「いまからかよー…」
「…どうしたの?」
「バイトの後輩から。今からバイト先まで来てくれって」

どうせしょうもないことだろうけどさ。
そういいながらも、しゅんじはどこか嬉しそうだった。なんだか懐かしい表情だ。よく、泣きながらしゅんじのところに行ったらこんな顔されたっけ。








ちょうど良い機会なので、しゅんじのバイト先まで着いていくことにした。後輩って子にも会ってみたいし。

「あ、先輩。」

無邪気に駆け寄ってきた俺よりも少し小さめの男の子は、一瞬見ただけでも分かるほどの美男子だった。
ちょっと長めの髪を肩に垂らしながら、可愛らしく笑顔を振り撒いている。

「どうしたんだよ急に」
「いつものことですよー。今夜は花火大会だそうです」

しゅんじのバイト先の話は来る途中に聞いた。自営業の料理屋さんらしいのだが、そこの店長がよく集合をかけるらしい。海に行くぞとかバーベキューするぞ、とか。あの夫婦はお子さんがいないため、バイトに雇った学生を我が子のように慕ってくれるんだって。それは嬉しいんだけどな、なんて笑っていた。

「花火かぁ。あ、ゆういちも来る?今日の夜はどうせ家で夕飯だし」
「い、いいのかな…?俺、部外者なのに」
「大丈夫だって。あ、そうそう、こいつは俺の幼馴染みのゆういち。こっちはさっき話したバイトの後輩のたける」

紹介された男の子(たけるくん、だよね)を覗き見すると、パチッと目があってしまった。
漆黒の瞳が俺を捕えて離さない。思わず顔が熱くなるのを感じた。

「こんにちは」

(か、かわいいっ…!)
にっこりと笑顔を向けるたけるくんはすっごく可愛らしかった。昔の俺も女の子みたいで可愛いと言われていたが、たけるくんの方が絶対に可愛いと思った。

「こ、こんにちはっ」

緊張のあまり声が裏返ってしまったため、余計に挙動不審になった俺を、たけるくんは可愛いですね、とくすくす笑った。年下に笑われる俺って一体…。
(つか、たけるくんの方がかわいいし)

しまいには隣にいたしゅんじまでも大笑いをしだし、恥ずかしくなって俺も吹き出した。



優しい春の風が通りすぎるのを感じながら、これから先、楽しいことがたくさん待ち構えているような気がする。そう思いながら、流れる髪に手をゆっくりと添えた。










しゅんじのキャラがイマイチ分からんOrz
もしかしたら別人ってことでお願いします←
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