懐かしい光景が猛スピードで広がっていく。記憶が正しければ到着まであと2分。嬉しさのあまり歓喜を洩らさずにはいられなかった。
ただいま、故郷!!!
ホームに出ると、懐かしい風、懐かしい匂い、懐かしい街並みが俺を優しく包み込む。小さい頃から住んでいたこの街はどこか温かい感じがした。
「お〜い。こっちこっち!」
この声もそう。
人混みの中、恥ずかしげもなく大声で俺を呼び止める彼の声も、まったく変わっていない。それが妙に嬉しい。
「しゅんじ〜!元気にしてた!?」
「ゆういちこそ元気だったのかよ!ずっと連絡来なかったから心配してたんだぞ」
まぁ、俺も連絡してなかったけどな、なんて楽しそうに笑う姿もあの頃と変わらない。けど、ちょっと大人っぽくなった?
「しゅんじ、ちょっと背伸びたよね。なんか大人っぽくなったって気がする」
「ゆういちが縮んだんじゃねーの?そういう君は変わってないですねー」
ひっどーい!なんてすねてみたら、うそうそ、可愛くなった、って言われた。男に可愛いいって…まぁ、嬉しいですけどね。かなり。
1つ上のしゅんじとは近所同士だったため、まるで兄弟のように育てられた。幼稚園のときも小学校のときも中学校のときもいつも一緒。中学のときはしゅんじを追い掛けるように陸上部にも入ったっけ。
とにかく、しゅんじは俺にとって便りになる兄のような存在だった。
どうやらそれは今も変わらないらしい。いつのまにか俺が抱えていた荷物は、しゅんじの右手にぶら下がっている。
「てっきりあっちの大学に進学するのかと思ってたよ。わざわざ帰ってくるなんて」
「1人暮らししてみたかったってのが一番の理由だけど、やっぱりここが恋しくなっちゃったのかも」
中学3年の夏に突然父親の転勤が決まった。俺は父親の案でこっちで卒業式を向かえ、高校から父親の転勤先に行くことになったため、正確に言えば中学の春からこの地を離れたことになる。(数ヵ月間、父は単身赴任してたってわけ)
あれからもう4年近く立つのか。時間の流れは遅いようで速いなぁと思う。あの頃の記憶もきっちりと残っているわけだし。
「着いたよ」
そうこうしているうちに、これから俺が一人暮らしをするアパートに到着した。とは言っても、前とさほどは変わらない。しゅんじが「俺ん家から近い方がいい」と言ってくれたので、甘えることにしたのだ。もちろん昔住んでいたアパートも近い。
アパートの前にはすでに引っ越し屋のトラックが止まっていた。俺の部屋は二階の角部屋。階段を引っ越し屋のお兄さんがせわしなく登り降りしている。
部屋に入ると、ほぼすべての荷物が運ばれていた。開いている窓からベランダに出てみる。眺めも良い感じ。昔と変わらぬ風が俺の髪を揺らす。
新しく始まるような、昔に戻ったような生活に心を踊らせ、今から起きようとしているすべてのことが待ち通しかった。
昼食ったら行きたい場所があるからと言われ、しゅんじに言われた通り着いてきた。雑木林を抜け見覚えのある岡を登れば、そこには忘れるはずがない場所が広がっている。毎年よく来たよね、2人で。
ここからは俺たちの街を一望できる。春になれば桜が咲き、夜になれば星々が輝きを放つ。人が滅多に入り込まないこの場所は、俺たちの秘密の場所でもあった。ずっと都心で暮らしていたが、やっぱり田舎の方が好きだと思う。こういう場所は田舎の特権だもんね。
「なつかしー!春には桜が満開でさ、今年ももうすぐで咲きそうだねー」
「俺もゆういちが引っ越してから来なくなってさ。すっげーなつかしー」
街を見下ろす。通っていた小学校や中学校。駄菓子屋さんまでよく見える。思わずただいまー!と叫びたくなる景色だ。
プルルルル、プルルルル。
思い出に浸っていると、携帯の着信音が鳴り響いた。俺のじゃない。しゅんじのだ。
「いまからかよー…」
「…どうしたの?」
「バイトの後輩から。今からバイト先まで来てくれって」
どうせしょうもないことだろうけどさ。
そういいながらも、しゅんじはどこか嬉しそうだった。なんだか懐かしい表情だ。よく、泣きながらしゅんじのところに行ったらこんな顔されたっけ。
ちょうど良い機会なので、しゅんじのバイト先まで着いていくことにした。後輩って子にも会ってみたいし。
「あ、先輩。」
無邪気に駆け寄ってきた俺よりも少し小さめの男の子は、一瞬見ただけでも分かるほどの美男子だった。
ちょっと長めの髪を肩に垂らしながら、可愛らしく笑顔を振り撒いている。
「どうしたんだよ急に」
「いつものことですよー。今夜は花火大会だそうです」
しゅんじのバイト先の話は来る途中に聞いた。自営業の料理屋さんらしいのだが、そこの店長がよく集合をかけるらしい。海に行くぞとかバーベキューするぞ、とか。あの夫婦はお子さんがいないため、バイトに雇った学生を我が子のように慕ってくれるんだって。それは嬉しいんだけどな、なんて笑っていた。
「花火かぁ。あ、ゆういちも来る?今日の夜はどうせ家で夕飯だし」
「い、いいのかな…?俺、部外者なのに」
「大丈夫だって。あ、そうそう、こいつは俺の幼馴染みのゆういち。こっちはさっき話したバイトの後輩のたける」
紹介された男の子(たけるくん、だよね)を覗き見すると、パチッと目があってしまった。
漆黒の瞳が俺を捕えて離さない。思わず顔が熱くなるのを感じた。
「こんにちは」
(か、かわいいっ…!)
にっこりと笑顔を向けるたけるくんはすっごく可愛らしかった。昔の俺も女の子みたいで可愛いと言われていたが、たけるくんの方が絶対に可愛いと思った。
「こ、こんにちはっ」
緊張のあまり声が裏返ってしまったため、余計に挙動不審になった俺を、たけるくんは可愛いですね、とくすくす笑った。年下に笑われる俺って一体…。
(つか、たけるくんの方がかわいいし)
しまいには隣にいたしゅんじまでも大笑いをしだし、恥ずかしくなって俺も吹き出した。
優しい春の風が通りすぎるのを感じながら、これから先、楽しいことがたくさん待ち構えているような気がする。そう思いながら、流れる髪に手をゆっくりと添えた。
しゅんじのキャラがイマイチ分からんOrz
もしかしたら別人ってことでお願いします←