カンカン照りの日差しの中意味もなく砂浜をいじっている。昨日のことを思い出しながら。
「いたっ…!!!」
昨日…たけるくんと喧嘩した。理由は単純。
急に仕事がおやすみになった彼から昨晩電話がかかってきた。明日会わないか、と。けれども今日はこの通り、ズッキーとあだーちんとで海に行く約束をしていた。しかも前々から。俺だって本当ならたけるくんに会いに行きたい。けど、前日に「行けなくなった」なんて連絡をすることなど俺には無理だ。ズッキーなら(たけるくんとのことを知っている)から「行っておいで」って言ってくれると思うが、せっかく前から決めていた約束なのにドタキャンなんて申し訳なさ過ぎる。
案の定たけるくんからは不機嫌オーラ。電話越しでも分かるくらい。
(俺だって会いたいのにさぁ…なんだよ。たけるくんなんか俺の気持ち、わかるはずないんだ)
そう思ったら俺もちょっとムキになってしまった。
『もういいよ!たけるくんなんかしらない!』
乱暴に通話ボタンに指を押し付ける。
(たけるくんがいけないんだ!全部たけるくんが悪いんだ!)
ベッドに投げつけた携帯を何度か覗き見たが、再度音を発することはなく、静かに動くことはなかった。
ぽたぽたと指先から流れ落ちる赤い液体をぼうっと眺める。滴り落ちるそれは、キラキラと太陽の光を反射させいる貝殻の上へと落ちていく。
「うわっ!ちょっと!血出てるって!」
急いで持ってこられたティッシュに指が包まれる。純白のものが徐々に赤へと染まった。なぜか、視界が霞んだ。
「うぅっ…ずっきぃー…」
「何泣いてんの。そんなに痛かった?」
「ちがうよぉ…」
ハハッと笑って、ズッキーは俺の髪に指を絡め、頭を撫でた。ズッキーはなんだか安心できる。
「彼となんかあった?そんな顔してる。」
何でもお見通しなんだ。言わなくても空気とか俺のふとした動作で分かってしまう。ズッキーはすごい。
にっこりと微笑むと彼は立ち上る仕草をした。
「ほら、帰るよ。」
「え?もう…?」
「行くんでしょ。彼のところ。」
風が吹く。
人々のざわめき声など風と共に何処かへ飛んで行ってしまったのだろうか。俺の悩みすらも抱えて。
「…!!!…うんっ!!!」
ズッキーって本当不思議。自分以上に俺の気持ちに気付いてくれる。
悩みなんか彼の一言で一瞬にして吹き飛んでしまう。改めてズッキーの存在の大きさに気付かされる。大切だ。大切な存在だ。
けど、もっともっと大切な人が1人、いる。
行かなくちゃ。
ありがとう、ずっきー。
そう言って俺は電車に乗り込んだ。
「え…?東京に向かった!?」
意を決してチャイムを押した俺の努力はなんだったのか。(30分も格闘したのに、)
たけるくんのお母さんが言うには、昼過ぎに家を出たと言う。(なんだ、仕事あったんじゃん)
仕方ない、戻るしかないか。たけるくんもたけるくんだけど俺も俺もだ。考えもなしにここまで来たのがまずかった。連絡の一本でも入れとけばよかった。
自分の無能さに泣きたくながら元来た道を引き返していく。煩く鳴いている蝉の声も自分の心臓の音も、どこか遠くのもののように感じられる。寂しさと共に募る会いたいと言う気持ちが腹の底から飛び出してくる。あぁ、彼に会いたい。
音楽が聞こえる。誰か聞いているのだろうか。
手元が震えてる。ふと見下ろす。あぁ、携帯が鳴っているのか。
「もしもし…」
『もしもし』
「………。」
『………?』
「…た、たたたたたけるくん!?」
『うん。そんなにたはついてないけどね』
「たけるくんだ…!!」
『だからそう言ってるじゃん』
うー、と思わず泣きそうにると、泣くなって言われた。我慢するよ。
『あのさ、昨日は…ごめん』
「え…?」
『ゆういちが断れないのは最初から分かってたけ…』
「俺もごめん…!!!たけるくんとは滅多に会えないのに海なんか行っちゃったりして、でも、ずっきーがたけるくんに会いに行きなって言ったかてくれて」
『……鈴木さん…?』
「え、…うん。」
『…鈴木さんとまだ一瞬にいるの』
「いないよ!たけるくんに会いに行くために別れたんだ!」
『…鈴木さんに言われたから会いに来てくれるんだ』
「え…?ち、ちがうよ!何それ!」
聞き返してもたけるくんは何も言わなかった。やだ、また喧嘩になっちゃうじゃん…。
はぁっ、と溜め息が聞こえたかと思えば、怒ったような口調。声のトーンが明らかに違う。
『昨日、何で俺がキレたか分かってないでしょ』
「わ、わかってるよ。俺が海を優先したから」
『…そんなことで怒ってると思ってたわけ。そんなに子どもじゃないんですけど』
「え、じゃあなん…」
『鈴木さんのことを嬉しそうに話してるゆういちにムカついた』
ずっきーのこと話したっけ…?
確かずっきーたちと海に行くってことと、あ、あと、俺の気持ちを分かってくれてるってこと。
『…それだよ。なんか俺は分かってないって言われてるみたいだった』
そんなつもりで言ったわけじゃ…。けど、確かにちょっと思ってしまったのも事実だった。
だって、俺だって会いたいのに全然分かってくれないんだもん。鈴木さんとでも遊んでくれば、とか言ってさ。
『俺だって去年あんなに一緒にいたんだから嫌でも分かるっての。ゆういちがどんだけ俺に会いたがってるのかとかもちゃんと分かってますからね』
「え…?」
『なーんか、そんなこと言ってたからさ。これだけ愛されてれば普通分かるっての。だいたい鈴木さんなんかより…』
「……………。」
『…ゆういち?』
「う〜、ひっく、…ごめんなさいっ…」
結局、悪かったのは俺なんだ。たけるくんを怒らせちゃったのもずっきーの話ばっかりする俺のせい。ずっきーの方がよく分かってくれてるって思ってた俺のせい。ずっきーずっきー言ってるから…………ん?
「………たけるくん、一つ聞いてもいい…?」
『何?』
「もしかして、ずっきーに嫉妬、してた…?」
『…ッ!!!ゆういちのばか!アホ!!!』
嬉しくなってもう一度聞いたら、またばかって言われました。
今どこにいるの、と言われてたけるくんちの最寄り駅って言ったら大馬鹿って言われました。
けど、たけるくんはどこにいるの?と聞いたら、ゆういちの家の前って言ったたけるくんはもっともっとおばかさんだと思いました。
(そんなおばかさんが大好きな俺は、もっともっともっとおばかさんだと思ったのは秘密)
ブログネタ。
オワレ\(^0^)/