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reminisce1



 あいつの気持ちに気付かないはずがなかった。

 俺を見る目が他とは明らかに違っていて。俺を見かける度に真っ先に駆け寄ってくる少し大きめな身体は、いかにも幸せですというかのように満面な笑みを見せる。
 確かに彼は一般的には可愛い。毎日毎日何が楽しくてあんなに笑顔を振り撒いているのかと思わせるぐらい、彼はあの間抜けっぽい笑顔を見せるのだ。しかも女性に負けないくらい美人となると憎もうにも憎めなくなる、らしい。けれど、それが俺を腹の底から苛立たせた。
 出会ったときからそうだった。へらへらと馬鹿っぽい笑顔を見せながら「中村優一で〜す!」と自己紹介をされたあの時から。こいつとは絶対に仲良くなれないと思った。寧ろなりたくないと思った。あいつののろまな一つ一つの行動が俺を苛立たせるのだ。


「たけるくんが好きなの。」

 次にもらった仕事で、再度彼と同じ仕事をすることになった。告白されたのは確かこの仕事の半ばぐらいだっただろうか。以前と変わらないあの馬鹿っぽい笑顔で当然のように告げられた。

「…知ってる」

 自惚れていたわけではない。だが、いつかこの日が来るであろうとは想定していた。
 毎日毎日全身から好きですオーラを醸し出しながら近寄ってくるあいつの笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。正直むかつく。

「でも俺、中村のこと嫌いだから。うざいんだよ」

 壊してやりたかった。あいつのあの憎たらしい笑顔を。俺の手で壊して、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。
 酷いことをたくさん言ってやった。立ち直れないくらい傷つけてやった。もうあの笑顔を俺に向けることはなくなるだろう。絶対大泣きして逃げるに決まってる。

「…そっか。今まで気付かなくてごめんね」

 けれどもあいつは泣き出すどころか、いつもと変わらぬあの笑顔を俺に、向けた。
 じゃあね、と手を振るあいつを見つめながら、俺はただただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

もしも願いが叶うなら1




 ガンガンと激しいヒップホップが部屋中に響き渡る放課後の教室。いつもならとっくに帰っている時間だが、俺はずっきーこと鈴木裕樹を待っていた。
 俺達は小学校からの付き合いで親同士も仲が良い。

 どうやらずっきーはダンスの補習があるらしかった。うちの学校は体育に創作ダンスの授業があり、最終的には学年内発表と言うものをしなくてはならない。俺のクラスはダンス経験者がいたためどうにかまのがれた。
「ゆういち、時間大丈夫?」
 予定より時間を押しているらしく、先に帰ってもいいと声をかけてくれた。
「大丈夫だよー。一人で帰るのつまんないしさ」
 無邪気に笑ってみせれば、ずっきーは安心したように俺の髪をくしゃりとさせた。
  とは言ったものの、だんだんと帰りたくなってきたのも事実だった。他のメンツとはずっきーを通して知り合ったため、すれ違えば挨拶をする程度の関係だ。まったく無関係ではないものの、やはりどこか居づらかったりもした。
 暇つぶしに窓を開ければ見慣れたものとは少し違った景色が見える。俺のクラスは2階だが、今いるずっきーのクラスは4階なため少し遠くの方も見渡せる。この校舎の隣は木々の植えられた小さめの広場になっているため、遮るものが何もないのだ。
「あ……」
 広場を見渡せば、端の方に置いてあるベンチに誰か寝転んでいるのが見えた。あの寝方は間違いなく、彼だ。
「ずっきー、俺ちょっと外行ってくるね!」
 俺は一目散に教室を飛び出した。

 名前も学年すら分からないが、窓際の俺の席から丁度見えるベンチによく寝転んでいるのを知っていた。2階からではあまりはっきりとは見えなかったが、遠くからでも整った顔つきをしていることは一瞬にして分かった。絶対にモテるタイプだ。
 そんな彼を初めて見つけたときから、俺は何か惹かれるものを感じた。自分には授業をサボることなんて絶対にできないことなのに、それを当たり前のようにやってしまう彼は一体どんな人なのだろう。それに、遠くからでも分かるほどの美人な人がこの学校にいただろうか。そんなことよりも、もっと何か。どこか周りとは違う何かが俺を引き付けた。
 そう考えれば考えるほど彼のことが気になってしまい、いつか本人と話してみたいと思うようになっていた。

 外へ出た俺は校舎の裏へ回り、ばれないように壁に沿って広場へと近づいた。怪しいことだってことは充分分かっているが、こんな機会は滅多にない。授業中は抜け出せたくても無理なことだし、放課後にいるところなんて始めてみたのだ。またいつこんなチャンスが訪れるか分からない。
 しかし、自分は一体彼に近づいて何をしようとしているのだろうか。話したいのならこっそり行く必要もないわけだし、かといって「君、授業中もここにいるよね☆」なんて初対面なやつに話し掛けられたりしたら不審がられて当然だ。
「どうすればいんだろう……ん?」
 良い案を見つけるべく組んだ俺の腕に、何かうにょうにょと動くものがくっついているのを見つけ…
「……け、け、けむしぃぃぃ!!!」
大の虫嫌いな俺は思わず腕を振り回したが、毛虫は落ちるどころか動くことさえしない。
「も、やだぁぁぁぁ!!!って、いてっ!」
 周りを見ていなかった俺は何かに躓いてしまったらしく、盛大に頭からすっころんでしまった。
「いったー。もーなんだよぉー!」
「え……!?」
 頭上からの声に顔を上げると、一人の男の子が俺を化け物を見たとでも言うかのように驚いたように見下ろしていた。
「え…?」
「だから…」
「あ、あ、あー!!!」














 「つまり、助けに来てくれたさとうくんの足に俺が引っ掛かって転んでしまった。ってわけかぁ」
「わけかぁ。ってそれ意外に何か言うことないんですか」
「あ、えと、ごめんなさい…いや、ありがとう…?」
 先ほど名前を教えてくれたさとうくんに盛大に溜息をつかれてしまった。なんか、イメージと違う…?
「さとうくんってもっと柔らかい人かと思ってたー。ってか、なんで敬語使うの?くせ?」
「なんでって上履き見れば分かりますよ。先輩3年生でしょ。だから」
「え…?さとうくん年下!?」
 全然分からなかった。だって言われてみれば少し背は低いけど、そんなことを気づかせないくらい大人っぽいと言うかしっかりしてる。
「先輩、2階の教室ですよね」
「え…?よく知ってるね!」
 もしかしてさとうくんも俺を気にしてくれてたの!?思わず俺は目を輝かせた。
「いや、授業中俺を見てる怪しい人がいたのでもしかしたらと。さっき俺のこと知ってた風に言ってたし、柔らかいとかどうとか」
 あ、そうですか…。いや、見てたけど怪しいってひどくないか…いや怪しいけどさ…。


 何時間が経っただろう。それから、さとうくんと俺はいろんなことを話した。お互い初対面だったものの、遠慮のない彼の性格に(言い方ひどい?けどほんとのことだもん)話しが尽きることはなかった。最終的には下の名前で(たけるくんって言うらしい)呼ぶことになったし、たけるくんも敬語をやめてくれた。












 「でさー、ずっきーったら気合い入れすぎて捻挫しちゃってさー」
 あの日から俺はたけるくんのところに通うようになっていた。特になにかするわけではなかったが、たけるくんは呆れながらも俺の話をたくさん聞いてくれた。
「ずっきーって人は7組だっけ。なんか面白い人なんだな」
「かっこいいくせにたまーに天然だったりするんだよねぇ」
「ゆういちに天然とか言われたら終わりだと思うけど」
「えーひどーい!」

 最近たけるくんはずっきーの話にやけに反応する。俺の話を聞いて仲良くなりたいと思ったのだろうか。なんか、ちょっと嫉妬してるかも。でもたけるくんが気になるなら力になってあげたい。
「今度ずっきーも連れて来てあげるよ。きっと気に」
「いい。それはいいから」
 たけるくんは慌てたように即答で断ったてきた。慌てることなんて滅多になかったので、さすがの俺でも異変に気づかないはずがなかった。
「最近のたけるくん、やたらとずっきーの話題に食いつくけどもしかして知り合いなの…?」
「…………。」
「何かあるなら俺幼なじみだし協力す」
「余計なお世話なんだよ!」
「え、あ…ご、ごめ………」
「………ごめん。帰る」

 正直びっくりした。ちょっとクールだけど怒鳴る様な性格には見えなかったため、この時の俺は引き止めることも謝ることもできず、ただただ走り去る彼の背中を見つめることしかできなかった。

one's first love




初恋って淡い思い出。
幼稚園のときに初めて好きな子ができたときは、キスしたいとかえっちしたいとか、そんな下心はまったくなくて、ただ単純に相手が好きだったんだ。ただ隣にいて、笑顔で笑ってくれるだけで心が満たされる。
だから初恋って忘れられない思い出なのかもしれないね。


突然、ゆういちがそんなことを言い出した。何、じゃあ俺とはセックスしたいから付き合ってるわけ?
おもむろに口を開けば、違うよぉ!、と頬を染めておもいっきり否定された。

「そりゃあ、したいなーって思うときはあるけど……で、でもそのために付き合ってるんじゃなくて、好きだからしたいって思うわけでっ」

想像以上に必死に弁解されるとちょっと笑えてしまう。そこまで本気にならなくてもいいのに。(まぁ、ゆういちだからね)
分かってるよ。
にっこりと笑えば、ゆういちはほっとしたように胸を撫で下ろした。肩を使って息が吐き出される。

「え、えとね、だからねっ」
「なに?」
「初恋がたけるくんじゃなくてよかったなぁ…って思って…」
「…え?」
「だって、初恋ってね、絶対叶わないって言われてるんだよっ。もしたけるくんが初恋の人だったら思い出で終わっちゃうんだよっ…」

そんなのやだもん…。
そう告げた彼の唇は、ぷるぷると震えていて(泣くな、)
俺よりも大きめな身体すべてが愛しく思えた。
(やっぱりばかだ、こいつ)

緩む口元を押さえ付け、ふんわりとパーマのかかった髪をくしゃりと触ってやる。
「それが本当なら、」



(俺の初恋がゆういちじゃなくてよかったよ)



柄にもないことを思うのはゆういちのせい。だから、お前には絶対言ってやらないよ。








tkrはいろんな人と付き合ったんだけど、本気で好きになったのはゆういちが最初で最後。だから多分初恋なんだけどね(笑)

休息




さらさらと風が流れる。
木々の揺れる音。
鳥たちの静かな声。

窓際にあるベットに腰を下ろしながら少し開いた窓に寄りかかる。隣には俺よりもちょっと小さめな恋人。
特になにをするわけでもなく、なにを話すわけでもなく、静かな時間をゆっくりと過ごす。

こてん、と俺の肩に寄りかかる隣の人。たけるくんの髪が首筋を擦って、ちょっと擽ったい。

「どうしたの?」
「ねむい…」
「寝ちゃっていいよー」

たけるくんがいつもしてくれるみたいに髪を手で解かしてあげれば、うん、と小さく頷いた。

空いた片方の手が握られる。ぎゅっと握りしめられるわけでもなく、たけるくんがいじいじと俺の指で遊んでいる。


「ゆういちー…」
「なに?」
「すき」
「…ふふっ…俺も」
「…しってる」

こんなやりとりは眠たい証拠。(すきだなんていつもは言ってくれないもん)
おやすみ、と頭をぽんぽんと撫でれば、たけるくんは目を閉じた。

さらさらと風が流れる。
今日はとっても暖かい。
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