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L月お題:変態に恋されてしまいました 1

1 スキンシップじゃなくてセクハラだよ



「月くん月くん」

ほらまた来た。
この台詞をあいつが口にするのを、今日これで何回聞いただろうか。
生憎、僕にはそんなことを数えてる暇も余裕もないが。

「なんだ?」

それでも僕は受け応えをする。
なぜなら僕はそういう人間だから。
いつだって人の話はちゃんと聞き、無視なんてしない。
そうやって、僕を作ってきた。

「休憩しませんか」
「……そうだな、お茶でも飲もうか」

見れば時計もうは3時半を過ぎていた。
確かに、ずっと気をはっていたら体力がもたない。
捜査員の方たちに声をかけて、お茶の用意をしよう。



***



「月くんは」

竜崎が話しかけてきても、僕の茶葉をティーポットに入れる手は止まらない。

「紅茶をいれるのが上手です」

沸騰したお湯をポットに注ぎ、蓋をして蒸らす。あと2分したらちょうどいい濃さになるはずだ。
あとは竜崎専用の菓子箱からクッキーを小皿に乗せるだけ。

「はやく飲みたいです」
「おい」

お茶の用意が整った、というところで、ようやく僕は口を開いた。
というのも、僕が用意をしている間ずっと竜崎は僕の背中にくっついていたわけで。

「離れろよ、飲めないだろ」

体を捻って、くっついている竜崎を離そうとしたけれど、こいつはなかなか離れない。全く、この細い体の一体どこにそんな力があるのか。まぁ、毎回のことだからもう慣れたのだけど。
こういうときの竜崎は、ちょっとやそっとじゃ離れてくれない。
そう諦めていたので、僕はそのままソファーに座った。
竜崎は僕の横に、例の変な座り方で並んで座る。
竜崎の手は既に菓子に伸びていた。

「月くん」
「ん」
「手を握っていいですか」
「はぁ?」

何を言い出すかと思ったら、手を握るだと。
……なんなんだいきなり。

「どうして握手なんか」
「月くんと仲良くなるためです」
「……意味、わからないよ」

立場上素性を隠しているとはいえ、毎日同じ時間を過ごしているのに、こいつに関してはわからないことが多過ぎる。
例えば、そのいつも変わらない格好、食べ方、座り方。
菓子を食べるのはいいが、せめてこぼしながら食べるのは、部屋が汚れるからやめてほしいといつも思う。

「スキンシップは仲良くなるための基本です」

そう言いながら、竜崎は突然勝手に僕の腕を掴んでぎゅっと握った。
そのまま強く引っ張られ、僕は竜崎の方に倒れ込む。

「ちょ、……おい!」
「なんですか」

これはどう考えても握手じゃないだろ、と抵抗する余裕も僕に与えずに、竜崎の手は僕の背中にまわされ、そのままゆっくりとなでた。
その手つきがなんだか、

「これ、さ」

なんだか、

「スキンシップじゃなくて、セクハラだ、よっ!」

いやらしくて。


僕の右拳が少し痺れた。
床には、左の頬が赤くなってる人間が一人。
ああもう、鼻血なんか出してまた部屋を汚して!



***



わからないことだらけの竜崎について、今日僕は一つ学んだ。

竜崎は、変態だ。
それも「超」がつく程の。

ほら、今も僕にまた殴られたいみたいだ。




 (by確かに恋だった)
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