「もうっ…ちょっとくらい待っててくれてもいいのに、」

自分の発したぼやきが教室の静寂に溶け込む。文句を言ってもしょうがないと、溜め息を零して作業を再開した。

窓の外の様子を見て急いで筆を走らせる。いまにも、泣き出しそうな空。

どうしてこんな日に日直になっちゃったんだろ?

ゴロゴロと遠くの空がうめく。その音に敏感に反応する身体。

だから待っててほしかったのに!

“日直だから少し待ってて”

そう言った私に彼は素っ気なく

“俺、先帰ってる”

と言って、本当に帰ってしまった。

「薄情なんだからっ!」

バタンと、八つ当たりするかのように日誌を閉じて教員室に向かう。

否、完璧な八つ当たりだ。

彼女が「待ってて」ってお願いしているのに先に帰っちゃうのは、私のことをあまり好きじゃないからなのか。

告白したのも私からだし。と、薄暗い廊下を歩きながらふとそんな考えが頭に浮かぶ。

ズキンと、胸が悲痛な音を立てた。

暗い空模様は気分まで暗くしてしまう。これ以上悪い方向に考えないように歩く速度を上げた。

職員室にたどり着き、日誌を担任に渡す。早々に退室して足早に昇降口まで来た。

靴を履いて立ち上がり広がった視界に、人影が映る。光の加減でよく見えないが、こちらに近付いて来ている。

自分も足を進めようとした、そのとき。

「キャッ!!」

猛々しい轟音が私の耳をつんざく。勢いよく、雷が鳴ったのだ。

うっすら涙が目尻に浮かぶ。

お化けだって赤点だってちっとも怖くない。でも…これだけは怖くてしょうがない。

恐怖で少し震える身体に追いうちをかけるように、ゴロゴロとまた空がうめく。

涙で滲む視界に先程の人影とまばゆい閃光が走るのが見えて。

また来るっ!

ギュッと目を瞑り覚悟していたあの轟音。それと同時に温かさに耳が包まれる。

大好きな匂いに包まれて、一瞬、何も聞こえなかった。

後ろから抱き締めて耳を塞いでくれたらしい。後ろを振り向くとそこには、ここにはいないはずの彼がいた。

「なっ…なんで…?」

驚きを隠せない私の頭をぽんぽんと撫でる大きな手。よく見れば、頬に汗が伝っている。

「お前、そういえば雷苦手だったなって思って。急いで引き返して来た」

きゅんと、甘く胸が締め付けられる音がした。幸せな気持ちが胸一杯に広がる。

私のことをあまり好きじゃないのかな、なんて。

こうして目の前に彼が居ることが、その答え。ああ、私はちゃんと。

「荷物持ってやるよ」

時に甘く、時に切なく。

「えっ、大丈夫だよ!」

私の心を揺さぶるのは愛する貴方の一挙一動。

「いいから」

強引に奪われた鞄。申し訳なく思っていると、

「お前は俺の隣にいればいーの」

ぐいと、肩を寄せられた。

一つの傘で雨をしのぐ二人。

雨はあんまり好きじゃない。
雷はもっと好きじゃない。

寧ろ、だいっきらい。

でも。貴方がいれば、こんな天気な日も悪くない。

気まぐれ彼氏

(“相合い傘だな、”と)
(貴方がにっこり笑ったから。)

(天気なんて気にせずに)
(“そうだね”って笑い返せた帰り道。)



こんばんは、瀬戸です。

瀬戸のお話を読んでリプを下さった方がいらっしゃいまして、瀬戸の小説を好きと言って下さったんですね。

もう、天にも昇る気持ちで嬉しくて!笑

何回かやり取りをしていて、瀬戸が高校生の頃書いたお話を読みたいとご希望があったので。

高校一年生の頃に書いたお話を、少し修正したのが今回の「気まぐれ彼氏」です。

当時の題名は「気まぐれだーりん」でした← もう恥ずかしいです、はい。

実は投稿後のいまも、題名悩んでたり(苦笑

ちょっとしたことで不安になる女の子の気持ちと、好きな人の言葉、行動で幸せにもなれる女の子の気持ちが描写出来ていたらなあ。と思います。

感想・イラスト・リプなどお気軽に下さい。励みになりますし、嬉しいです(*pωq*)

読んで下さった方、
ありがとうございました!