ほわいとべりー

「タロサン朝デスヨー、起きて下サイ」

ゆさゆさゆさゆさ。身体が右へ左へ軽く揺すられる。

(んあー…龍龍、か)

この間はサラトガに昼寝の邪魔をされたし。ここはひたすら寝たフリを突き通そう。

「んー…タロサン起きないデスネ」

困ったような声を出す彼女に罪悪感を抱かないワケではないが。俺はまだ寝ていたいんだ。

「仕方ないデス」

よし。そのまま諦めてくれ。
これでもう一眠り出来ると、内心ガッツポーズしたとき。

ぎしり、と。ベットが鳴いた。
ベットが先程よりも少し沈む。

そしてふわりと、優しい良い匂いが俺の鼻をくすぐる。

段々と顔に何かが近付く気配が、する。

まさか、まさかとは思うが…

「ちょ、ちょっと待ったああああ」

目を開くとそこには予想した通り、龍龍の顔があって。その距離僅か3センチ。

龍龍の両肩を掴み自分から離した。

「あ、タロサン。おはよゴザイマス」

にこり、と微笑む龍龍。
おはよゴザイマス、じゃなくて！

「お前、いま、何を」

「タロサン起きないので、ちゅーで起こそうと思いマシタ！」

何でもないようにけろりと言い放つ龍龍に、こっちが脱力してしまう。

額に手を充てながら溜め息を吐く。

「お前は何でそんな発想に…」

「白雪姫も、王子様のちゅーで目覚めマス。それにクルトーサンがちゅーすれば起きる言いマシタ」

あの野郎、あとで蹴り飛ばす。
それに俺はお姫様じゃねーし。

とにかく。

「龍龍、その…ちゅーはな。こ、恋人や好きな人とするもんなんだ」

「ワタシ、タロサン好きデス」

さらりと。言いのけて。
俺に向かってにっこり笑いかけた。

「だからそう簡単にしていいもんじゃない」と。

そう、言うつもりだったのに。

「ドシマシタ、タロサン。顔赤いデス」

自分でも、顔が赤くなっている自覚はある。目の前で首を傾げるこいつの所為で。

「タロサンはワタシのこと、好きデスカ？」

「え、あー…えーと…」

「嫌い、デスカ？」

悲しそうに眉尻を下げて。しゅんとするもんだから。

「…好きだよ」

目を逸らしながら、小さな声で呟いた。

「良かったデス！ワタシ嬉しい！」

今まで見せたどの笑顔よりも太陽のように明るくて、幸せそうな笑顔。

その笑顔を眩しすぎると感じることもあるけど。俺はやっぱり。

龍龍の、この笑顔が好きだ。
嫌いであるはずがない。

「タロサン、ちゅーして下サイ」

好き同士なら問題ないデスヨネ？と言わんばかりに、龍龍がそっと目を閉じた。

柔らかそうな唇。

ごくりと。生唾を飲む。
俺が、龍龍と、ちゅー？

いや、待ってまじ心の準備が…！

でも、龍龍は目を瞑っていてくれてそれで何もしないのは失礼に値するのか…？

「ー…っ、」

ちゅっ

覚悟を決めて、俺は龍龍に唇を落とした。

「タロサン…？」

「…いまは、そこで我慢しとけ」

龍龍の額に。そっと。
いまの俺にはそれが精一杯だ。

「はい、分かりマシタ！」

照れくさくて恥ずかしくて。
龍龍の笑顔を確認してから俺は再び布団にくるまった。