生臭い風が吹く。
そこは右も、左も、暗闇の中をはいずり回る命亡き物で溢れ返っていた。
つい先程まで顔見知りだった物の顔も見えるが、それはもはや人ではない。
何処からともなく沸き上がってきた屍の群れは、瞬く間に小さな村を飲み込んだ。
黒く滲み出たそれは、形を無くすまで壊さねば、再び動き出す。
自警団など役に立つわけも無く、武器を握ったまま屍の仲間入りをしていた。
一刻前までは村だった場所の中央には教会が建っている。
その尖塔で、唯一となった命ある者が剣を振るっていた。
見た目からは外套を着込んでいる為男女の区別は付かないが、小柄で、子供のようにも見える。
手にしている剣にはどす黒い血糊がべっとりと付き、もはや『切る』とは言えず『叩き潰す』為の武器となっていた。
四肢を狙って破壊する。だが、それでも機能は停止しない。
「そろそろ、潮時かな……」
ぽつりと呟いた言葉は、白南風に乗って消えた。
「まだ、生きている人間がいるとは驚きですね……」
闇に、ぞっと背筋が凍り付く程冷たく、低い声が響く。
すると、今まで犇めいていた屍の群れがさっと道を空けた。
「成る程。お前がこの軍団の親玉か」
凛とした口調で紡がれた言の葉は、幾分かの余裕が感じられる。
声からすれば、女のようだ。
「親玉と言われればそうかも知れませんね。それより、貴女は何者ですか。そんななまくら刀一本で生き残るとは」
カツっと石畳の廊下に靴音が響く。
一歩、一歩と歩む足音は次第に近付き、ついにその主を明かりの下へと晒し出す。
黒い闇に紛れる服装。同じような黒い艶やかな髪は後ろに撫で付けられている。
そして双眼は鋭く紅に輝いていた。
「こんな輩にやられる私じゃない。さっさと決着付けようじゃないの……」
言いながら女は剣の血をを服の裾で拭う。
「せっかちな方だ。……ま、嫌いではないが」
ふっと男は口元を歪め、剣を抜く。
月の光りに、二人の剣が煌めいた。
その姿はあたかも、円舞曲を踊るか如く。
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久々SS。
結局普通の人が丸っきり出てない。
……。
つい、書き終えるとすぐに上げちゃいたくなる……病だな。うん。
本日、拍手を頂きました。
ありがとうございます(^^)