こんばんわ。
放置してごめんなさい。
実は…。
お姉さんと少しづつ仲良くなって浮かれてました。
お姉さんに、仕事を辞めたいと思ってることとかも相談したり。
お姉さんにね、自分を認めてくれる人がいるって事の大切さを教えて貰って、僅かにもう少し続けてみようかって気持ちになれて、僕なりにちょっとだけ前向きな考えをするようになった。
けど…
お姉さんに何の仕事をしてるの?って聞かれて答えられないんだ。
やっぱり、まだ無理だ。
言えない。
僕がどんな仕事をしてるのかなんて、絶対に言えない。
どうしよう。
凄く後ろめたいよ…
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成人の事があって益々仕事に行くのが億劫になった。
せめてもの救いは所属する事務所が違うって事だけ。
それでも契約している雑誌が幾つか被ってるから嫌でも顔を合わせる事になってしまう。
撮影で絡みがないだけましかな?
あれから成人も僕も互いに少し距離を置くような態度を取ってしまい、何度か礼二くんに問われた。
何もない。
そう言うしかない。
実際、キスをされたことは事実だけど、それ以外はなにもないんだし。
話ってなんだったんだろう。
気になるけど、聞き出す勇気は僕には、ない。
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仕事を終えて控え室で帰り支度をしていた。
撮影中、ずっと成人の視線が気になった。
いつからそんな風に僕を見ていたんだろう。
不意に部屋のドアをノックする音。
妙に嫌な予感がする。
開けたくない。
そんな僕の意志を跳ね返すかのように扉は勝手に開かれ、成人がゆっくりと入ってきた。
また、そんな目で僕を見る。
一体、いつもの貴男は何処に行ってしまったんだろう。
近づく足跡。
次第に聞こえる呼吸。
思わず僕は後退りして成人との距離を保ってしまった。
『逃げるなよ、櫻』
だって、その目が怖いんだ。
ドンドン近づいて、ずるずると僕は後ろに下がって、背後を断たれて初めて不味いと気付いた。
『逃げないでくれって…』
笑いながら、そう成人は言っていたが、目は、相変わらず怖いままだった。
追い詰められた僕を更に逃げ道を塞ぐように両腕をすっと伸ばした成人は、そのまま僕の頬を掠めて後ろの壁に手を付いた。
また、何かされる。
否応にもそんな不安が脳裏を過った。
『映画なら一緒に行く!…だから、』
『何もしねぇよ。嫌なら映画も行かなくて良い。……だから、そんなに怯えるな。何もしねぇから…』
そのまま、どの位そうしていただろう。
随分と長い時間が流れていたような気がする。
『恐がらせて悪かったな。…話したい事があったんだが、また今度にするよ』
そう言って僕は解放された。
成人が出ていくのをじっと息を殺して見送り、扉が静かに閉められると同時に僕は床に崩れ落ちた。
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成人に誘われた映画の話。
どうする?って今日改めて聞かれた。
問われて、断る理由を探してる自分に気付いて、だったら素直に断れば良いのにって思ったんだ。
断れない。
なんで?
分からない。
分からないけど、断れないくらい成人の目が真剣なんだ。
なんだろう、これ。
成人が別人に見える。
どうしたんだろう?
どうしてそんな目で僕を見るの?
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あれから僕の憩いの場所が増えた。
図々しくも太郎くんと遊ぶ約束をした僕は度々お姉さんの自宅にお邪魔するようになってしまいました。
玄関を潜ると走って僕を迎え出てくれる太郎くん。
一人っ子の僕にとって小さな弟が出来たみたいで凄く嬉しい。
此処にいると、僕も普通の生活をしているような錯覚がするんだ。
でもね、お姉さんには僕の仕事の事を聞かれても答えられないのが辛い。
きっと知ったら軽蔑するよね。
知られたくない。
やっと仲良く出来るようになったんだもん。
また一人になるのは嫌だ。
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