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ドタイザ←シズ?
ほのぼの来神
屋上の扉を開けるとそこは異次元でした。
「おお、静雄。呼び出し終わったのか?」
「ああ。ガラスの弁償がどうのって話だった」
「この高校、いっそ窓ガラス全部外したほうが費用削減になると思うけどなぁ」
頭をかきながら屋上を唯一占拠する集団近付くと、親切な門田が当たり前のように静雄の昼食を食堂で買ってくれていた。擦り切れた財布から金額を払い、減りすぎて気持ち悪い胃袋に食料を詰め込んでいく。
成長期らしく食べても食べても腹が減る静雄は、黙々と食べ続けながら、目前で繰り広げられる異様な光景を見ていた。
「あふ」
「臨也、よだれ垂れてるよー」
「にゅー」
「ったく。ほら、もういい加減飯食え」
「やら……あー、ドタチン、イジワルー!」
遠ざかる門田の指を掴もうとするが、逆にサンドイッチを握らされる。いままで臨也の口に収められていた門田の指は、唾液でテラテラと光っていた。
納得がいかないような顔をしながらも、何故か門田には従順な臨也は大人しく昼食をとり始めた。栄養補助食品やゼリー飲料で昼を済ませがちな臨也の世話を焼く新羅と門田は、手のかかる子供を見る親のようだ。
昼の時間は不戦協定が暗黙の内になされているため、臨也も特に静雄に突っかかることは無い。出来るなら普段からしてくんな、と静雄は思っているが、それとこれは別らしい。
そしてこうして昼を共にするようになって、臨也の困った癖を見ることになってしまったのだが。
「ああ、実に面白いよね。あの折原臨也ともあろう悪党が、幼児癖も抜け切ってないなんて事実はさ!」
いつだったか新羅が目を輝かせて言っていた。
「普通に考えて幼少期にかまってもらえなかったんだろうね。臨也のご両親、二人ともバリバリのエリートで共働きだし。実は臨也の協調性の無さってずっと家にいたからだと思うんだよね。知ってる? 臨也って小学校に上がるまでほとんど家から出たこと無かったんだって。昔から賢くてベビーシッターもほとんど雇ってなかったらしいし」
子供の成長過程の社会性がどうと言っていたが、とにかく静雄は「あいつがあんなにとち狂ってんのは子供からか」と認識している。
相変わらず男子高校生同士とは思えない密着を見せる臨也と門田は、しかし悲しいかな、静雄には見慣れた光景だ。
あぐらの上に堂々と座り込み、頬に付いた卵をとってもらっている臨也の、こんな時だけ幼く見える無邪気な笑顔も。
静雄が言うのもなんだが、臨也には協調性が無い。
普通なら胸のうちに押し留める言葉や欲求をそのまま示す言動は、確かに幼児とそう変わらない気がした。
「まぁ臨也の悪いところは、その行動の異常さを正しく理解していながら実行するところだけど」
新羅はおもしろそうに疑似親子を観察していて、静雄としてはよくそんな顔が出来るものだと思う。
幸いなことは臨也の容姿がむさくるしいものとは程遠く、観賞に値する程度であることだろうか?
「しかし行動をそのまま幼児に当てはめるのなら、臨也は本当に門田君のことが好きなんだねぇ」
「あぁ?」
「だって幼児が指を吸うのは母親の授乳を、ひいては母親そのものを恋しがってる分かりやすいサインだよ。甘えたいんじゃない? ただでさえ臨也の周りには、環境と性格的に甘えさせてくれるような人間がいないからさ」
甘えたいとか。あの臨也が。
「……とりあえずムカツクことだけは確かだ」
「とりあえず君はその感情の元が何なのかをいい加減自分で把握したほうがいいと思うんだよね。甘えられない嫉妬で僕に八つ当たりとか本当に幼稚だしいたたたたたたた骨いっちゃう。骨くだけちゃう! 僕もセルティとお揃いになる! あれ? なんか素敵だね、おそろいっていだだだ嘘ですごめんなさい離してくださああああああい!」
「ドタチン、卵焼き頂戴」
「ほら」
「んー。さっすがドタチン、料理上手いねー。あ、後でまた指貸してね」
「いいから、ちゃんと食え」
昼休みは平和だった。