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静雄×臨也




周期的に訪れる衝動は、臨也の全てを否定する。

それはとても簡単な衝動であり、それだけに抑えることも予期することも出来ずに手をこまねいていた。

自由業に近い朝を邪魔するものは無く、臨也は身体が自然と起床するまま瞼を上げた。

窓を多い尽くすカーテンの隙間からは陽光が漏れ出し、すでに日が昇りきっていることを示している。

臨也の生活は不規則極まりなく、同時に本人の気まぐれとあいまって、その身体は栄養補助剤で出来ているといっても過言ではない。

顔なじみの闇医者に「君はたまに僕より薬品臭いよね。雰囲気とか、覇気が」と笑われたこともある。もっともそれをいちいち気にするような可愛げなど無く。臨也は食べたいものを好きなときに食べ、眠たくなれば眠り、そしてその逆も然り。ものを食べるのが面倒だと思えば何も口にしないし、眠れなければ延々と起きている。

中学時代はなかなか自身の限界を見極められず、時折倒れては件の闇医者(当時は卵だったが)に薬や看病の世話になった。今の臨也が外見上は健康に見えるのも、彼が口うるさくサプリメントの服用を指示したからだ。

習慣付いた動きは無意識のままに肉体を動かし、臨也はほぼ眠っているのと変わらないような心地のまま本日の薬を服用した。形や色の異なるいくつかの小さな栄養剤はお菓子のようにも見える。

分かっているのに齧って後悔したこともあったっけ、とようやく思考能力を取り戻したところで、その手に握られていたカップをシンクに戻した。

普段オフィスとして使っている仕事場の回転椅子にゆっくり腰掛けたところで――それは突然やってきた。

「あー……」

臨也らしくない、だらけきった吐息が空気に溶ける。インテリアとして飾っている観賞用の植物を見ながら、スリープモードのパソコンを起こす気もなくなってしまった。

衝動はいつもたった一言だ。

 

もう、いいかな。

 

たったそれだけの言葉が、臨也の存在を全て否定する。

無性に興味が無くなるのだ。

自分が振りまいた災厄の種々も。

折原臨也に纏わる、あらゆる捻れた糸の数々も。

彼がただひたすらに愛をささげる、人間という存在すらも。

たった一人嫌悪する、あの男の事も。

まるで長い夢から唐突に目覚めたような、今までのことは本の中の出来事でしたと言われたような。

リアリティの欠如。

その精神を除けばオリハライザヤというアイデンティティは忽然と消失し、そこにはもはや生きている意味すらない。

だからこそ普段の臨也は、例え誰にも理解されなくとも真剣に愛に生きているといえるだろう。

「あーもー」

からっぽの身体と頭に価値を見出せず。

臨也は気だるげに呟くと同時に、コートを羽織ると家を出た。