何の前触れも無くやって来た少女は前置きも脈絡も全て捨て、開口一番、
「アカギさんってもしかして小さい頃ウルトラマンシリーズ好きだったりしますか?」
と、質問を投げ掛けてきた。
帰ってきた何とやら。
「…ノックも無しに入ってきたと思えば…。何なんだ君は。」
「実は私最近従兄弟のお兄さんにウルトラマン教えて貰いまして。」
整理していた書類を一旦退け、アカギは眉間を押さえながら溜め息を吐いた。
その様子を見て、促しもしないのにちゃっかり応接用ソファーに腰を下ろしていたキリカは「ヒカリちゃんと隠れんぼしてたもんで。」と言い訳だかなんだか解らない一言を付け加えた。
元はアジトだったトバリギンガビルだが、現在は立派な会社として動いているこの場所を遊び場にするとはいい度胸だ、と説教してやろうかとアカギが口を開く一歩先にキリカが口を開き、発言権を横取りした。
「だって"ギンガ団"なんて名前付けるくらいだから、よっぽど宇宙が好きなのかなぁ、って。宇宙ならウルトラマンだよなぁ、って思…。」
そこまでで、キリカはアカギの目付きがどんどん険しくなっていくのに気付き、言葉を切った。
「や、そんな訳ありませんよね…。アカギさんがウルトラマン好きなはずありませんよ…ね…、あはは…。」
アカギのぜったいれいどが直撃し、その冷たい視線に耐え切れなくなったキリカはぎこちない動きでソファから立上がり、先程話したヒカリとの隠れんぼを再開すべく部屋のドアを開けた。
しかし。
「…君は…。」
「はい?」
部屋を出る寸前、アカギの声がキリカの背中を追ってきた。
「君はウルトラの父と母の実子はタロウだけだと知っているかね?」
「…え!そうなんですか!?"ウルトラ六兄弟"って言ってるのに!?」
「ちなみにセブンはタロウの従兄弟だ。」
「何…だと…!?…って、あれ、アカギさん?」
ぽかんと口を開けたキリカのアホ顔にまたアカギは深い溜め息を吐き、もう一度口を開いた。
「君は幼少の早い時期から私が正義に絶望していたとでも思っているのかね…?」
「いえ、生まれた時から眉間に皺が刻まれてそうだなぁとは思った事…あ、すいません。」
またもや口を滑らせてしまったと苦笑いを浮かべ、キリカはひらりと右手を振った。
「それにしても、面白いこと教えてくれてありがとうございました。それじゃ、私隠れんぼ再開しますんでこれで。」
「ああ、さっさと出ていけ。」
キリカの返答を待たず、アカギは先程整理していた書類に目を落とす。
それと同時に"ジュワッ!"という掛け声が聞こえてきた。
また静かになった部屋の中ふと、昔段ボール箱の奥に押し込んで以来忘れてしまっていたヒーローシリーズの人形達の行方が気になって、アカギはうっかり「キトサン」を「キサドン」と書き損じて頭を抱えた。
帰ってきた何とやら。
「そういえば、隠れんぼをしていたのに隠れていなくてよかったのか?」
「あれ私が鬼だったんです。」
「ヒカリが可哀相だ…。」
アカギさんは幼少期ヒーローに夢見る普通のお子様だったっていうギャップがあってもいいと思うよ!←
お粗末様でした。