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夢あわせ・第二話

 小さい窓が一つだけの部屋の中には、机と椅子が二つ置かれている。そのうちの一つに、匠は落ち着かない腰をおいていた。刑事に声をかけられてから二人は別々の部屋に連れていかれ、さっきから質問責めにされているのだ。
 そう、匠たちが連行されたのは取調室である。今匠の目の前には、熊と虎を足して二で割ったところにヤクザが割り込んだような顔をしたお方がにらみを効かせている。左ほほに傷があるその獣のような顔は、一度見たらなかなか忘れられない。
「…で?なんで報道陣にもまだ教えてない情報を知ってるんだ?」
 重い沈黙をヤクザの声が破る。確かに大通りの事はまだニュースでもやっていない。しかし、それが夢の話の証拠になると思っていた。まさかこんなことになるとは。何度夢で見たといっても信じて貰えない。これではまるで容疑者ではないか。と、その時部屋の扉が開き、さっきの刑事が入ってきた。
「岩熊警部、お疲れ様です。あとは私がやりますんで本部の方に戻って下さい。あなたが本部長なんですから。」
「あ、あぁ…すまん。あとたのむぞ。」
 警部は呟くようにそう言うと、部屋を後にした。なんとなくほっとする。
「ごめんな〜、あの人顔怖いよな。今回の事件の捜査本部長なのに、君の話したらぜひあってみたいっていうもんだからさぁ。」
 この軽そうな刑事さん、露塚というらしい。軽そうなのは話術が巧みだからか、ヤクザ警部の後だからかはよくわからない。
「じゃあ、事件の話を聞かせてくれる?」
 そう言うと、露塚刑事はポケットから取り出した手帳を開いた。
 夢の話はやはり信じていなさそうだが、覚えていることの細かさには驚いたようだった。特に凶器やその時の服装などは警察の方も知らなかったようで、重点的に聞いてきた。また、事件当時のアリバイも聞かれたが、これは家で寝ていたと答えるしかなく、証人も親くらいしかいないが、肉親の証言は使えないらしい。それにその時の心境。これは楽しかったと答えると怒られてしまった。
 匠はなんだか、話をすればするほど自分の首を絞めている気がしてきた。これでは本当に容疑者にされてしまうかもしれない。それだけは阻止しなければ。少しでも自分にとって有利な発言をするため、匠は頭を働かせ今一番大事なことを聞いた。
「…カツ丼は出ないんですか?」

 …二人が質問の嵐から解放されたのは、すっかり日も落ちた午後9時過ぎだった。実に三時間もあの部屋にいたことになる。ちなみにカツ丼は出して貰えなかった。二人は満身創痍の状態で門を出た。何を言う訳でもなく、とぼとぼと家路を辿る。その途中、匠が口を開いた。
「ケーサツはもうあてにならないな。俺達で犯人探すか。」
 これにはさすがの健二も驚いたようだった。
「何言ってんだよ?もういいだろ。たかが夢な訳だし。」
「たかが!?殺人は本当にあっただろ!?俺は予知夢を見たんだよ!」
「そんなの偶然に決まってるだろ!俺は元々信じてなかったんだよ!!」
 さっきまでの取り調べでイライラしていた二人は、だんだん言葉にトゲがついてきた。
「じゃあ最初からついてこなけりゃいいだろ!?」
「お前が無理やり連れてきたんだよ!!」
 そう言うと、健二はくるりと背を向けてスタスタと歩いていった。匠も健二とは反対の方へ歩いていく。後ろの方で小さく咳き込む音が聞こえた。ような気がした。
 匠はこれ程健二とケンカしたのはいつぶりかと考えながら、家に帰るなり自分の部屋へ行くと夕食をまだ食べていないのも忘れて布団の中にもぐり込んだ。

 その日もまた夢を見た。昨日と同じ夢。いや、少し違う。駅前大通りの裏路地には違いないが、昨日と場所も違うし、手に握りしめているのはサバイバルナイフに変わっている。さらに今回は、ひっそりと後をつけている。そしてなにより、前回の楽しい気分の他に別の何かが今回はあったのだ。
 それでも月明かりに照らされてつけている相手を見ると、思わず物陰から飛び出し、ナイフを光らせた。背中の激痛に驚いた彼は、倒れ込むとこちらを振り向き、咳を一つした。そこへまた、ナイフを突き立てていく…。

 翌朝のニュースは、昔からの幼なじみの死を知らせていた…。

        続く

夢あわせ・第一話

 息がきれる。見馴れたいつもの裏路地が、月明かりの元でまったく別のものに姿を変えていた。
 道に点々と残る血の跡もその原因の一つかもしれない。
 その血痕を追ってどんどん路地の奥へ歩を進めていくうちに、暗闇の中で微かだが必死な息づかいが聞こえてきた。
 やがてその息の主が姿を見せる。どうやら袋小路に入ったようだ。青ざめた顔がこっちを見据えている。
 その目には恐怖の色がありありと浮かんでいた。

 手にもった包丁を高々と振り上げると、人も街灯すらもない裏路地の静けさを切り裂くような、大きな悲鳴がこだました。
 ――どのくらい経ったろうか、血のしたたる包丁を握りしめたまま、雲の合間に見え隠れする月をいつまでも眺めていた……。



「……っていう、夢をみた。」

 ここは月明かりのもれる裏路地ではなく、西日のさしこむ午後の教室。すでに授業も終わり、皆帰り支度をしているところだった。

「妙にリアルな夢だったな〜。健二はこんな夢見たことないだろ?」

 今まで大人しく話を聞いていた健二は、さも興味がないというように鼻で笑うと、

「殺人の夢なんて見たくもないな。つーかそんなん嬉しそうに語るな、匠。」

と呆れたように言った。

 この健二とは家が近所で、昔から仲が良かった。いわゆる幼なじみというやつだ。お互いの癖すらも熟知している。
 例えるならば、健二は動揺している時咳き込んでしまう。このことを知っているの人はそういない。
 そんな健二だからこそこんな話もできるのだろうか。いつの間にか自然と声が低くなる。

「しかもな……今朝テレビを見てたら……。」

 と、ここで言葉を切り、一呼吸おいてゆっくりと言った。

「……その夢で見たことがニュースでやってたんだよ……。」



 場所は替わって、駅前大通りである。
 ここらへんは最近急激に大きくなってきたところで、少し道をはずれると細く複雑に分かれている裏路地にすぐ入り込んでしまう。
 そのうちの一つを匠と健二は歩いていた。

 正直にいえば、健二にはまったく信じられない話だった。こんなところまで付き合うのもめんどくさかったが、隣で目を輝かせて話す匠を見ると、どうも言い出せなかった。
 昔から自分は意思が弱くて困る。あのとき断っておけばと健二は思いを巡らせた。



「本当に夢の中のことをニュースでやってたんだって!」

 と、匠はさっきから何度も同じことを繰り返し言っている。いささか聞きあきてきた。
 匠の話をまとめると、夢に出てきた路地というのは自宅から健二達の通う青山高校への近道としていつも使っている道だったらしい。
 目が覚めても記憶がしっかりしていたらしいのだが、特に気にせずにテレビを見ていると、その中のニュースで夢の中で殺した人が本当に殺されていたということだった。

「それで、その殺人現場に行ってどうするんだ?」

 話はすでに、夢の話から夢に出た場所に行ってみようというものにかわっていた。
 匠はもう行きたくてしょうがないらしく、そわそわしている。
「そりゃあ、捜査に協力するに決まってるだろ。」
 あぁ、あのとき断っておけばと、無駄な考えを巡らせる。

「見えてきたぞ。」

 その声で健二は、ふと我にかえった。
 見ると、細い路地にはたくさんのパトカーが止まっており、黄色いテープが行く手を阻んでいる。

「マジだったんだ…。」

 これにはさすがに驚きを隠せない。思わず咳き込んでしまった。匠はそれを見て少し誇らしげだ。
 と、そこに一人の警官が歩み寄ってきた。

「君たち、ここに入っちゃダメだよ。」

「いえ、違うんです。」

 と、すかさず夢の話を切り出す匠。
 しかし話が進むにつれ、警官の目が冷たいものにかわっていく。

「ただの偶然だよ。さ、もう帰りな。」

 そう言うと、警官はさっさと元来た方に戻ろうとする。その対応が気に食わないのか、匠の声のボリュームが上がった。

「被害者は大通りで右腕を刺されてから、ここまで逃げてきて殺害されたんですよね!?」

 すると、その声を聞きつけて一人の刑事が近づいてきた。

「ちょっと話を聞かせてくれるかい?」

 という彼の申し出に、匠の顔がほころんだのはいうまでもない。



 だが、二人が連れていかれたのは薄暗い取調室だった…。


         続く

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