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夢あわせ・第三話

『次のニュースです。○○県○○市で昨夜、殺人がありました。殺害されたのは長澤健二君(16)。凶器はナイフのような刃物と思われます。健二君は殺害されたその日に、先日同市で起こった米月駿介(29)殺人事件に関与しているとして警察に事情聴取されたばかりで、その帰りに殺害されたと見ています。犯行の場所や手口から、犯人は米月氏を殺害した人物と同じ……。』

健二が死んだ。

 学校ではその話題で持ちきりだった。皆犯人がまだこのあたりに潜伏中だという話を聞いて不安でいるようだ。学校も生徒がまた被害になるのを恐れてか、とうとう学校閉鎖になってしまった。そしてその後、健二の葬式を終えた匠のところに警察が現れるまで、あまり日はいらなかった。
 匠は今、また取調室に来てしまっている。目の前に座っているのは、あの時と同じ露塚刑事だ。ここ最近毎日のように会っているので、すでにずいぶん見知った顔となっている。露塚刑事が口を開く。
「さぁ、また夢の話を聞かせてくれ。」

 警察が匠の家に来たのは健二の死から五日後。少し遅い気がした。警察は今まで独自に調査していたらしいのだが、全く手掛かりが見つからず、藁をも掴む思いで来たのだそうだ。それだけでも少々気にさわるようなところがあるのに、その後真っ先に連れていかれたのは精神科の病院だった。おそらく夢の真偽を確かめるためだったのだろう。 精神科では世間話を少しした後、夢のことを色々聞かれた。感覚はその時あったか、気分はどうだったか、記憶はどの程度はっきりしていたかなど、かなり詳しく聞いてきた。
 そして次の日から、警察との奇妙な共同捜査が始まった。夢の中で覚えていることを現場で確かめていくのだ。それで手掛かりになりそうなものを探し出し、夢も立証することができるというものだった。ただ匠が犯人である可能性も十分にあるということで、それ以外は取調室に閉じ込められままだが。
 最近、取調室に本部から抜け出してきた岩熊警部がよく顔を出すようになった。そしてまるで匠を犯人と断定しているがごとく、半分脅しながら問い詰められる。露塚刑事いわく、あれから犯人からの動きが全く無くなり、だいぶ焦ってきているらしい。確かに日に日に顔色が悪くなっているのが見て取れる。

 そして夜になると、あの夢のことを考えることが多くなった。
 殺人なんて滅多にできる経験ではない。しかしその罪をとがめられることなく、人を殺すことができるのだ。匠には少しずつ死への興味が湧いてきていた。だが、これによって人が死んだということも確かだ。幼なじみを殺した感覚もこの手に残ってしまっている。最近はあの夢を見ていないし、見たいとも思わなかった。また親しい人を殺してしまうのではないかという恐怖と、むやみに人を殺してしまうことへのためらいからだ。しかし、夢を見ることで犯人逮捕に近づくのも事実である。
 と、ここで犯人がもし捕まったらどうなるのかということを考えてしまう。もし犯人を捕まえて殺人を起こせなくなるとすると、もうあの夢は見られないのだろうか。それは困る。匠にはまだ見たいものがたくさんあった。自分が絶対に経験出来ないことも夢の中なら体験できるし、死のことについても知りたいことがたくさんあった。死ぬ体験をして、なお生きていられる人はそうはいないだろう。
 毎夜、警察から解放されるとそんなことを考えていた。

 そんなある日、事態は急変することになる。警察に匿名で手紙が届いたのだ。それは例の犯人からのものだった。いわゆる犯行予告だというものだ。
「とうとう向こうから動き出してきましたね。」
取調室でその話を聞いた匠は意気揚々としている。それとは対照的に、露塚刑事はさっきから考えこんでいるのか口数が少ない。
「それがね…、このタイミングで犯行予告ってのはかなり稀なことなんだ。」
確かに二日連続で人を殺した後、しばらく間をおいての犯行予告はあまり聞かない。犯人は無関係の人間を(おそらく突発的に)二人も殺した後、ゆっくりと頭を冷やしてから改めて自分から人を殺そうとしていることになる。わからないことばかりだ。
 しばらく思案した後露塚刑事はゆっくりと
「こっちも警備は厳重にしておくけど、夢を見たらなるべく手掛かりになりそうなものを見つけておいてね。」
と言うと、また押し黙ってしまった。
 そしてこの後すぐ、匠は最後の予知夢を見ることになる。

 また薄暗い裏路地。その中をまた走っていた。しかし、今回は今までとずいぶん違っていた。息は上がり、疲れも溜まっているはずだが、全く速度を緩めない。いや、緩めることが出来なかった。追われているのだ。恐怖で後ろを振り返ることは出来ないが、何かがすぐ後ろに迫ってのがわかった。速度を上げると、後ろの何かも走る速さを早める。そんなことを繰り返す内に、知らず知らず袋小路に入ってしまった。どうすることも出来ず、後ろを振り返る。とたんに胸の辺りに激痛が走り、倒れ込んでしまった。そこに追い打ちをかけるようにサバイバルナイフが刃を向ける。
 次第に感覚と意識が薄れていき、匠はとうとう死を体験した。そしてそのなくなりかけた意識の中で匠は犯人の顔をはっきりと見ることが出来た。それは、左ほほに傷のある、一度見たらなかなか忘れられない獣のような顔だった。

 目が覚めると同時に布団をはね飛ばした。全身嫌な汗でぬれている。匠は混乱する頭を整理しようとして、思わず呟いた。
「…岩熊警部……?」

        続く
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