あたいはだだっ広い部屋に寝転がる。畳(たたみ)越しから、藺草(いぐさ)の芳(かぐわ)しい匂いが漂い、心地よい。
「ふぃ〜食った食った。ご馳走様〜」
あたいはお腹をさすりながら、目を閉じる。この一時(ひととき)が一番の至福だ。
鈴仙はあたいを一瞥(いちべつ)すると、口を開く。
「お粗末様って、すぐ横になると牛になるわよ」
「大丈夫大丈夫、消化が良いからねぇ。すぐに栄養が行き渡るのさ」
「栄養、ねぇ。貴女の場合は特定の部分に集中してそうだわ」
食器を片付けながら、鈴仙はじっとあたいの胸を見る。その瞳から羨望(せんぼう)やら嫉妬やらが感じられた。
あたいは苦笑する。
「……大きいってのも問題さね。肩は凝るし、重いし。何より仕事の邪魔になる」
三途の船頭をしている間、あたいはサラシを巻いて船を漕いでいる。じゃないと仕事に集中出来やしない。
そういえば四季様も同じこと言ってたなぁ。その時の四季様の表情(かお)を思い出し、あたいは笑みが零(こぼ)れた。
「そんなものかしら」
後片付けを終えた鈴仙は畳へと腰を落とす。この角度からスカートの中が見えそうなのだが、不思議なことに見えない。
「しかし静かだねぇ」
あたいは呟く。
外はしんとしていて、時折、聞こえてくる虫の音(ね)が眠気を誘う。
「そうね。いつもならてゐや兎たちが騒がしいのに。たまにはこういう日もいいわね」
鈴仙は瞳を閉じる。
欄間(らんま)から吹く風が頬を撫でた。まったりとした空気があたいたちを包み、うつらうつらする。
意識が沈みかけるその時、重音と地響きがあたいの耳朶(じだ)を打った。
なんだぁ!?
あたいと鈴仙は身構える。
掛け軸が揺れ、重ねていた茶碗類が音を立てて畳へと落ちていった。
鈴仙は兎耳(とじ)をぴくぴくと動かす。
「まさか……」
ばつの悪そうな顔をして鈴仙は外へと飛び出す。
「おい、待ちなよっ」
あたいは鎌を片手に鈴仙を追った。


<(4)へ続く>