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こまっちゃんの休日(1)

「休み……ですか?」
晩夏(ばんか)昼過ぎ、あたいは執務室にいた。
「ええ、上部からの命令です」
椅子に座っている緑髪(りょくはつ)の女性は、溜め息混じりにそう仰(おっしゃ)った。

四季映姫(しきえいき)・ヤマザナドゥ。
やたらと長い名前だけど、本名は四季映姫でヤマザナドゥは役職名だ。
身体の割には不釣り合いな、ごでごでした帽子を被(かぶ)っており、幼い顔立ちをしている。
しかしこれでも泣く子も黙る閻魔様であり、あたいの上司でもある。

「そりゃまたどうして?」
「日頃、あくせく、額に汗して、働ている、死神たちを、労うための配慮だそうです」
あたいの疑問に四季様は一言一言強調して答える。
なにか含みのある上司の言い方に嫌な汗が流れた。
「気のせいですかね。まるであたいが、あくせく額に汗して、働いてないように聞こえるんですけど」
「……働いているのかしら?」
机上(きじょう)にある、罪の分だけ叩くという悔悟(かいご)の棒を手に持つ四季様。
……やばい、目が笑ってない。
「い、いや何でもないですっ」
自然とあたいの身体は直立不動の姿勢をとる。これ以上いうと火に油を注ぎかねないので、黙っておくことにする。
「まぁ私としては貴女の休暇は甚(はなは)だ疑問なんですが」
お仕置き棒を机に置き、四季様は再びため息を吐いた。その仕草にあたいは頬を掻(か)く。
……う〜ん、あたい、そんなにサボってるかぁ?
「……まぁ」
コホン、と上司は咳払い。
「せっかくのお休みだから、二日間ゆっくりと羽を伸ばしてきなさい」
四季様は相好をくずす。
「……はぁ」
あたいはなんとも言えずただ曖昧に返事をするしかなかった。
まぁ、これ以上考えても意味がない。四季様の仰る通りゆっくりさせて貰いますか。
「あ、それと小町」
四季様は部屋から出ようとするあたいを呼び止める。
「なんですか?」
「休みだからといって、あまり羽目(はめ)を外さないこと。朗(ほが)らかで陽気なところは貴女の美徳だけれど、熱中すると周りが見えなくなる。冷静さを保つこと、それが貴女が出来る善行ですよ」
人差し指を立てながら、閻魔様はいつも通りの忠告をなさる。
「……善処しますよ」
あたいは苦笑して、四季様に一礼して部屋を出た。



<(2)へ続く>

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