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不死の毒(オリジナル)

桜という名前の少年がいた。桃色の花弁を持つ桜という名を付けるなんて両親はどうかしていると、桜は毎日のように思っていた。しかし男であることを主張しようとはしなかった。自分に男らしいところが見当たらなかったからだ。

柔らかいブラウンの髪。小さな顔に大きな瞳。細い腕。女の子の着る服を着たって誰も気付かない。

桜は一人小さな小屋の中でおもちゃのピストルを空き缶に当てて遊んでいた。今朝食べたホールトマトの缶を綺麗に洗い、棚の上のぬいぐるみの間にそれを置いて狙いを定める。ポンッと可愛らしい音を立て缶は倒れた。そのままふらついて棚から落ちた。コン、カランカラン。空っぽな音がする。薄い金属が木の床を叩く音。

桜は缶を落としては拾って、棚の上に戻した。

誰も知らない彼の遊戯。桜はこの場所を誰にも、両親にも教えなかった。こんな姿をした自分がこんな遊びをしているなんて知ったら、きっとピストルを取り上げられ、代わりにお花の冠を渡されるかもしれない。そんなもの貰っても嬉しくない。花はどんな音も立てないじゃないか。

今日も桜は母親の作ったスクランブルエッグとトーストを食べると、こっそり用意したお弁当を持って小屋へと向かうのだった。

ある日桜は父親が飲み干したワインの瓶を持って行った。瓶は重く、おもちゃのピストルではぴくりともしない。玉が軽く跳ね返されて地面に落ちてしまう。何度打っても瓶はぬいぐるみの間に偉そうに立っていて、桜は腹が立ってそれを割ってしまった。とてもいい音がした。

桜は色んな物を家から持って行くようになった。母親の髪飾りや、父親の万年筆。お気に入りのロボットも持って行った。しかし、あの時のワインの瓶ほどいい音を響かせるものはなかった。家でワインを飲むのは父親だけだったので、あまり割ることが出来ない。だから桜は小屋の中を探し回った。棚を倒してみたり、窓を割ったりした。

それでも何か物足りなかった。時々破片を踏んで血が出たのに、全く気にならないほど真剣に探し回った。ないはずあるものか。きっとあるに決まっている。誰が言ったわけでもないのに桜はその言葉を信じ切っていた。

長い雨がようやく止んで、3日ぶりに桜は小屋を訪れて驚いた。秘密基地のように大事にしていた小屋の中がめちゃくちゃになっていたからだ。それをやったのは紛れもなく自分だった。缶を置いていた棚も倒れたままで、ドアは今にも外れそうにぷらぷら揺れていた。桜は怖くなってもう小屋には行かなくなった。

桜は花を好むようになった。冠の作り方を近所の女の子に教えてもらい、一人で作れるようになった。服も女の子のようなものを選ぶようになった。隠してしまいたかった。ネズミの死体を見たとき葉っぱをかぶせるように、あの怖かった記憶を全部見えなくしたかった。

両親がぼろぼろになった小屋を見つけたとき、桜は大声をあげて泣いた。どんな音も聞こえなくなるほど大きな声で泣いた。

それでも小屋はなくならなかった。誰にも触れられずにめちゃくちゃのまま、ずっとずっと残り続けていた。

文鳥は囀る(高杉+桂)


*雨夢楼パロ

あの日の約束を彼は覚えているだろうか。黄昏の中に溶けてしまいそうな儚いあの言葉。幼い少年が口にした夢。季節が巡り、大人になった今でもまだ信じていいだろうか。

 

木漏れ日が穏やかな光を部屋に運ぶ。夜は閨の場所として使われているこの部屋が茶店の一角であるかのように優しい。

そのせいだろうか。高杉が鳥籠の隙間に指を入れる姿がとても愛らしく見える。桂が客として来ているにも関わらず、見向きもせず一心に鳥籠を指を動かす。その中には桂が与えた白い文鳥が小さな嘴を動かして高杉の指を啄んでいた。それはただの白文鳥ではなく、突然変異によって全身が白く目だけ赤い異様な文鳥だったのだが、高杉は随分と気に入っているようだ。

「鳥がそんなに珍しいか」

「いや、こいつを見てると懐かしい野郎を思い出してな」

僅かに桂を一瞥したものの、すぐに視線は文鳥に向かってしまう。桂はもどかしい気持ちに駆られながらも、それを表に出すことなく、静かに茶を啜っていた。

高杉はかつて名の知れた花魁で毎晩のように客が集まっていたのだが、遊郭での法により、桂の与えた文鳥を受け取ったことによって高杉が受け入れる客は桂ただ一人となった。

しかし、桂は高杉に独占欲を抱いていたわけではない。桂には幾松という妻がいたし、元より男を抱く趣味はなかった。にも関わらずここまで彼に世話を焼いてしまったのは桂自身の中でも疑問である。

高杉は桂に対してほぼ全く警戒心を抱かなくなった。染みついた廓言葉も捨ててしまったし、化粧もしなくなった。挙句の果てに年上の桂を「ヅラ」と悪戯好きの子供のように呼ぶ。

「なんという名前なんだ」

「あ?」

「その鳥だ」

「ああ…名前なんざねーよ」

あんなに愛でていたのに。名で縛りたくないという彼の意志なのだろうか。先ほどの「懐かしい野郎」とやらの姿を見ているだけで実際文鳥には目もくれていないのかもしれない。

「お前も俺と同じだな」

憂いに満ちたその言葉に文鳥が答える。ぴぴと可愛らしい響きを乗せて。

彼はこの鳥籠の中から出ることを望んでいる。しかしそれを遂げるのは桂ではない。それが酷くもどかしい。

「高杉」

籠の錠なんてとっくに外れているというのに。

毒矢(高杉×銀時)

六畳の安い部屋の中。品のない明かりは灯さず、障子戸は閉め、部屋の中心に男が二人横たわる。呼吸の音すら聞こえてこない。碌に夜目の利かぬ人の目では獣のように息を潜めて出方を窺うしかあるまい。指の先まで神経を巡らせ、動き出してしまおうとするのを抑え込む。悟られたら最期。食われるしかない。

次第に詰めた息が苦しくなり、銀時が苦笑とともに空気を吐き出した。するとその温度に反応した高杉がカッと瞳孔を開き、銀時に飛びかかる。猫が鼠を襲う時と似ているような気がした。

かぷりと、可愛らしい音を立て高杉の犬歯が銀時の喉元の皮に傷をつける。傷をつけ、血を僅かに滲ませては舐める。ややざらついた舌が皮膚の上を這いずっていく。これは戯れだ。死んでしまっては面白くない。

「殺せないんだろ」

銀時が赤い目が細められる。どうやら笑っているらしい。冷水が背筋を伝ったような感覚に高杉は恍惚の表情を浮かべる。

殺せないのではない。殺さないだけだ。高杉は言う。しかしそれは所詮下らない依存心の表れであると彼は知らない。それも友人や愛人に向けるものよりもっと質の悪いものだった。

「俺ァこんなに望んでるのにな」

さっさと殺せ。殺してしまえ。そして己の死に際にこの世の果てを見るような絶望を見ろ。それを見送ってからゆっくり死んでやる。

銀時にとって死は恐れる対象ではなかった。ただの通過点である。死ぬというのは世の理というもの。突き付けられようと駄々をこねたりはしない。嗤って受け入れてやろうではないか。

高杉は二本の指を銀時の口に捩じ込んだ。大人しく寝そべっている舌を撫で、歯列を確かめるように触れていく。舌と歯の隙間に差し込むと唾液がどっと溢れてきた。ねっとりとした液体に指を絡ませ、舌に塗りつける。硬い上顎にも塗りつけると、銀時が擽ったそうに身を捩った。

「不快だろ」

高杉が指を引き抜く。先ほどとは逆の手で顎の先から下に向かって指を滑らせた。

成る程。銀時は咥内から溢れた唾液を拭う。

死に恐怖を覚えさせるにはどうしたらいいか。死にたくないと思わせればいい。単純なことだ。高杉は銀時の五感を暴れさせ、それをまじまじと味あわせようとしているらしい。思考ではなく、感覚器官によって認識された死とはどのようなものか。

「もっと感じろ、銀時。俺の指から意識を反らすな」

奪われる。銀時は直感した。今までの記憶を、希望を、己を。委ねてしまえば肉一つ残らなくなってしまう。これは果たしてどんな感情なのだろうか。

銀時は素早く身を起こし、高杉から距離をとった。音が畳の上を跳ねる。

「怖いだろ」

「さァね」

これは一本取られた。後手に回るんじゃなかった。

再び静寂が部屋を満たす。両者とも身動ぎ一つしようとしなかった。

湖畔の一輪花(オリジナル)


*虹森にしようとしたら設定付けすぎてオリジナルになりました。名前だけ由孝と修造を使っていますが、別人として読むことをお勧めします



夕陽が大きな窓から差し込んでくる。橙の仄かな光が部屋中を照らし、その優しさに胸が詰まる思いがする。早く沈みきってしまえばいいのに。

由孝は静かな部屋で一人、パソコンのキーボードを叩く。プラスチックが指とぶつかり合う音だけが空間を満たした。

時計の秒針が頂上まで辿り着き、6時になったことを告げた。シンプルな安っぽい掛け時計はボーンと単純な音を鳴らす。しかし由孝は手を止めることなく、ひたすらキーボードを叩いた。

“愛してます” “君だけが僕の全てだ” “ずっと一緒にいよう”

陳腐な愛の言葉を文字にする。せめてこの画面の向こう側だけでも幸せに。誰も苦しまぬよう。

由孝は齢17という若さで恋愛小説作家だった。ベストセラーが出るほどの技術は持ち合わせていないが、ある程度は評価され、収入を得られるほどには名が知られている。彼は毎日のようにパソコンを開き、無音の中原稿を書き続けていた。

ぽたり。由孝は雫を零す。どこから来たものか分からないその涙はテーブルを濡らしていく。彼は自分の書いた小説の登場人物に自分を投影しては泣く癖があった。けれども涙を拭いている時間はない。落ちた涙が少しずつ水溜まりを作っていく。水面に映る顔に一瞥をくれることもなく、由孝は手を動かし続けた。

「ただいま」

「…ッ…?!」

由孝は先ほどから後ろに立っていた男に全く気付いていなかった。耳元でそっと囁かれ、存在にというよりその感覚に驚いた。喉から空気がスッと抜けていく。

その正体を確かめると、由孝の口は声を発することなくゆっくりと動いた。

“おかえり”

一文字ずつ区切って表された視界からの言葉。先ほど帰ってきた男は「おう」と答えると由孝の頭を大胆に撫でた。

彼は修造という男で、この部屋の主である。由孝より八つほど年上で、ちょうど仕事勤めが落ち着いた頃であった。

二人の関係性を一言で表すのは難しい。血は繋がっているとはいえど、遠く離れた血縁関係だ。ほとんど繋がってないと言ってよい。そんな二人が何故出会ったか。事の始まりは由孝の両親の死が原因であった。しかもその光景を見てしまったことで彼は声を失っている。一人っ子で、幼かった由孝は血族の間を流れ流され修造の元まで辿り着いてしまった。修造の両親も同様に流してしまおうとしたが、修造がそれを許さなかった。

修造の両親も実の両親というわけではない。それ故、由孝の境遇が痛いほど分かってしまった。両親は反対したが、修造がバイトで稼いだ金でやりくりしながら二人で暮らすと押し切ったことで了承をもらった。

「腹減った。さっさと飯食おーぜ」

修造はキッチンに向かう。準備は由孝がしているので、あとは温めるだけだ。

暮らし始めてから気付いたが、由孝は料理が上手い。一般的な食材しか使っていないはずなのに、見たこともないような料理を出してくる。聞いてみたところ父親がレストランの料理人だったそうだ。由孝はそれを誇らしく思っているらしい。

由孝もキッチンに向かおうとするが、パソコンをシャットダウンしなければならないし出来た水溜まりを拭かなくてはならない。

ああ、なんでまた泣いてしまったのだろう。両親が死んでから涙なんて枯れてしまったはずなのに。

彼はその理由をぼんやりと知っているような気がしたが、追求しようとは思わなかった。辛くなってしまうのが分かり切っていたからだ。

「おい、由孝。早く来ねーと食っちまうぞ」

何か出来ることはないだろうか。自分を救ってくれたあの人のために。

ぽたりとまた雫が落ちる。由孝は袖で荒っぽく目元も拭うと、キッチンに向かった。

目に見える哀れな未来(銀時×ミク)


*威風堂々MMDパロ

今日はよく雨の降る日だった。

任務を終え、車を走らせる銀時は、時折バックミラーに映るミクを見た。先ほどから窓の外をぼんやりと眺め、一言も口にしない。ここでどうしたなんて聞くのは野暮だろう。それぐらいにはわきまえていた。

『威風堂々』。その名は裏社会ではあらとあらゆる場所に広まっている。5人の女で編成されたそのグループはなにも美しさだけが取り柄ではない。犯しあい、化かしあい、そして殺しあう。それが彼女たちが生きるための手段だった。たとえ望まなくとも、それ以外で生きていく場所がない。かつての居場所を壊したのは他でもない自分たちだった。

「銀、車を止めて。歩いて帰るわ」

ワイパーが忙しなく動いている。傘も持たずにどうやって帰るのだろう。

「銀」

「お前がずぶ濡れで帰ったら、あの姐さんに殺されちまう」

あくまで自己中心的に、偽悪ぶってみせる。彼女はそれで留まってくれるはずだ。

案の定ミクはそれ以上喋らなくなった。もうすぐアジトに着く。それまでこのままでいて欲しい。

指定の駐車場に車を停め、銀時は車から降りると後部座席のドアを開けた。碧の目が彼を見る。海のように深い澄んだ目。銀時が差し出した手をミクは受け取ろうとしなかった。

「逃げ出しちまうか?」

瞳が驚きに揺れる。まるで波打ったように。

「いいえ」

彼女は首を横に振った。その言葉の裏に隠された意味が彼女をそうさせた。捨てる勇気なんてなかった。

ミクは銀時の手を取ると立ち上がる。不安そうなその手を銀時は握り返した。

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