「僕だって……できることをします!」
 足手まといにはなりたくない、と叫ぶ宵の言葉に答えたかのように、壁が厚みを増した。一度の攻撃で壊れない。これは使えると、更に恭一は叫んだ。
 「お前、俺の行く前に壁を作っていけ!」
 「えっ?」
 宵には恭一の言っている意味が分からなかったが、すぐに走り出してしまった恭一を守るかのように壁を作りだしていく。ツキモノの横に回り込んだかと思うと、頭上へと跳躍した。渦を巻いているため、頭上はガラ空きだ。恭一の刀だけでは防ぎきれない部分は、宵の壁が防いでくれる。
 恭一の刀が一閃し、少女本体を斬り裂いた。闇は千切れ、宙へ浮かぶ黒い物体。
 「逃がすか!」
 少女の身体を離れ、どこかに逃げようとするツキモノを更に斬りつけ、ツキモノは薄い靄になってしまう。これがまだツキモノが生まれた状態の姿である。これ以上ツキ斬りはツキモノを弱らすことはできない、消すことはできないのだ。滅するには、ツキ取りが喰らうしかないのだ。
 「おい、早く……」
 恭一は宵に早く食べろと振りかえると、そこには腰を抜かしたようにへたり込む宵の姿があった。
 「何してるんだよ。」
 呆れたように溜め息をつき、宵に近づくが、立ちあがるために手を差し出そうという優しさはない。
 「僕、初めてツキモノを倒せたんです…だから嬉しくって。」
 それだけじゃないはずだ、恭一は思った。落ちこぼれといわれ続けていた宵のことだ、ここまで力を出したのがはじめてだから疲れていて力がないはずだ。なおさら早くツキモノを喰らわなければならない。
 「早く喰えよ、逃げられても困る。」
 気を抜いてしまい、新たな宿り主についてしまうこともある。手早さが重要なのだ。宵はそれに気付き、慌てて口を開いた。
 口を開くと、ただ宙を浮いていた黒い靄は宵の口に吸い込まれていく。ツキ取りは人の姿をしていても人外である。人間と同じ食事をとるが、好物はツキモノなのである。しかしツキモノはツキ取りよりも強いことが多い。そこでツキモノを斬ることはできても、滅することができないツキ斬りと手を組み、食事にありつこうとツキ取りの先祖は考え、以来数百年という長い月日を過ごしてきたのである。
 全ての靄を吸い込むと、宵の金の瞳が光った。お腹も一杯になり、満足したのだろう。その瞳は、今宵の月に負けないほど光り輝いていた。





※あとがき
ようやく一話が完成しました。一話はツキ取りとツキ斬り、そしてツキモノの説明的な感じです。名前が似ててややこしいですが、打っている私の方がややこしいです。まだツキ斬りとツキ取りの関係については説明しきれていないので、おいおい話したいと思います。
あとツキ取り当主の槻鳥月は、月は“つき”でなく、“ゆえ”です。DOLLsでも真珠と書いて、“しんしゅ”と読むキャラが居たりややこしいですが、覚えてください。
口調が定まらなくて大変です。なにせ殆どが男キャラだし、男の口調ってレパートリー少ないし。精進します……
なんだかBLっぽいようで、BL臭のしない作品ですが、楽しんでいただけたら幸いです。