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サイト休止から二年、もう一度物書きをするキッカケは、やっぱり素晴らしい作品達との出会いでした 新しく私は再起動したい、その思いを込めての“Re:START”
東の王は月詠を帰すことにした、それを聞いた家臣たちは一同安堵し、連れ去ったときとは対照的に、丁重に月詠の帰還を用意した。月詠は帰れることにほっとするものの、どこか突っかかりを覚えていた。それは見送りに出てきた東の王を見て強くなっていった。
「月詠。」
ずっと黙っていたままだった東の王が、出発しようとする月詠に最後の最後で口を開いた。家臣だけではなく、見周り兵や警備兵が数多くいる中、王は馬に乗った月詠の手を握り、決意した目を向けた。
「俺は絶対お前を幸せにしてやる。“傾国の姫”なんて絶対よばせねぇ。俺が大陸一番の王になって、お前の一族の汚名を返上してやるよ。」
それは西の王の手紙にも書いてあったこと。そんなにも西の王へ嫌がらせがしたいのか、とほとほと呆れかえり、手を振り切ると馬を走らせた。遠くなっていく王を背中で感じつつ、子供のような東の王に傷ついた心が痛かった。
「月詠!」
名前を叫ばれても振り返らなかった。
「俺の名前は、青嵐(セイラン)だ!俺の后になる気があるんなら、今度はお前がこっちにこい!二度もさらってやらねーからな!!」
そんな臭い台詞に振り返る気などなかった。
東と西の国境付近。そこには西の国の使者と、なんと西の王もわざわざ来ていた。
一度は傾いた国を立て直し、賢王と言われ、他国からも一目を置かれる西の王。そんな王が、こんな縁起でもない女を酔狂にも后にしようという。それはとても名誉なことで、月詠自身そんな風に言ってもらったことなどなく、とてもうれしかった。月詠の一族の汚名を晴らすに、一番近い存在も彼と言えよう。それでも、この心に巣付くるのは、何故かあの子供のような情けない王なのだからしょうがない。
月詠は頭を深く下げ、西の王に言った。
「西の王。私は、あの人に心まで攫われてしまったようです。」
自分でも臭い台詞だな、と思い笑った。
東の王の后は、傾国の姫と言われる不吉な姫であった。
しかしその姫が后になってから、東と西の国は友好的な関係になり、互いに協力するようになっていった。
それは東の国に多大な利益をもたらし、東はもっとも栄えた国となった。
そんな王の妃を、人々はこう呼んだ。
幸せを齎す、月の姫、と。
※あとがき
一回目の更新の時先が続かなくて、どうしようかと思っていたら、数週間後書き始めたらすらすらと書けたので安心しました。文章の質はう~んですが、話的には好きな感じになりました。この月詠のツンツンな性格が好きだ。そして最後のデレに注目です。ホントはもっと無感情な感じにしたかったのですが、この王にテンションがついて行かないだろう(笑)南の王と要も出せてよかったです、伝書鳩的な役割でしたが。
最後に残ったのが西の王です。ちなみにネタバレをいたしますと、西の王のお相手は、月詠を奪った憎き東の王の妹姫です。西の王と月詠の出会いなんかも書けたらいいなぁなんて。
その夜、東の王は月詠を軟禁している部屋へ赴いた。家臣の報告からは今日一日は大人しくしていたようだが、昨日の夜のように脱走されてはたまらない。それに渡したいものがある。東の王はそんな言い訳をしながら、部屋へ入っていった。
「女性の部屋に入るのに、一声もないのか?」
月詠はまだ起きていて、窓からのぞく青い月を見ていた。砂漠の月は、なぜか青く輝き、殺風景な砂漠を、神秘的に照らしている。
「南の王が来た。」
東の王の言葉に、月詠は落胆の溜め息をついた。
「とうとう西の王に見捨てられたか。」
月詠はこれでは復讐できないな、と諦めているようだ。しかし東の王はそれに首を振り、南の王に渡された手紙を月詠に差しだした。
「西の王は、お前をあきらめちゃいないようだぞ。」
東の王の言っている意味が分からず、いぶかしみながら月詠は手紙を読む。その表情は徐々に驚愕のものへ変わっていく。
「西の王は、お前が自分のことを怨んでいることを知っていた。復讐しようとしていることにもな。それでもお前を后にしようとしたんだ。これの意味わかるか?」
手紙には、月詠への謝罪、そして月詠への強い愛情、更には立派な王になり“傾国”という汚名を払拭させてみせるという誓いが書かれていた。その手紙の内容に、月詠は戸惑いだけでなく、少しの喜びもあり、そんな月詠に、東の王は苛立った。
「これでお前は西の王に復讐する理由はなくなった、だからって大人しく西の王のとこへ嫁ぐのかよ!」
復讐に燃えていた悲劇の姫の姿はそこになく、一気に幸せの階段を駆け上がる末来の后がいた。しかしそれに東の王は納得しなかった。
あのまま月詠を攫わなかったら、西の王の真意を知らず、月詠は復讐を成し遂げていたかもしれない。そして月詠は罪人として裁かれていたかもしれない。だが、攫ったことにより、月詠は西の王と分かり合い、西の后と幸せになった。それではまるで自分は当て馬じゃないか!!
「お前はそんなんなのかよ!そんな簡単な女なのかよ!!」
誘拐した時馬上で勇ましく暴れ、宮殿についても帰せと気丈に訴え、時に一対一で罵倒し嘲笑する、それが東の王が知っている月詠の姿だ。
「だったら家に帰るなり、西にいくなり、好きにしたらいいさ!!」
茫然とする月詠を尻目に、東の王は部屋を飛び出していった。
違う、そんなことが言いたいんじゃない。そんな女々しいことが言いたいんじゃない。ただ西の王と月詠を引き裂くはずが、二人の中をくっつけてしまったことに悔しかった。西の王の手紙に、表情を崩した月詠を見て、それが自分じゃなかったことが嫌だった。本当なら悲劇の姫を救うのは自分だったのに。
歳が近く、同じ時期に王となった西の王と東の王。常にいがみ合い、お互いを敵視してきた西と東なのだから、王を比べられるのも当然だった。しかし傾きそうな国を立て直した西の王は、西の国だけでなく、大陸中から賢王と呼ばれ、尊敬されていた。普通の王の自分と、賢王の西の王。そしてついには西の王は、愛しい者まで奪っていくというのか。
「かっこわりー、俺って……」
廊下に座り込む情けない王を見ていたのは、青い月だけだった。
.
「なんでお前がくるんだよ!?」
「や、久々だな。」
次の日東の王の元へやってきたのは、意外にも南の王であった。客室の長椅子に、まるで自分のものかのようにくつろぐ姿は、以前と同じと同じだった。しかし決定的に違うのは、以前ならばわざわざここまで来ないということだ。それは南の王の隣に座る后のおかげなのかもしれない。現に今もだらしなく座る南の王の頭をはたき、叱っている。
「で?で?噂の傾国の姫はどこにいるんだ?」
昨日の今日ということで、部屋に軟禁をしている。今度は王自らが兵に警備を命じたため、月詠は昨日のように逃げ出せないはずだ。家臣たちの顔は納得がいかないようだったが、王はそれを黙殺した。
「会いたかったなぁ。なあ、要?」
会えないと分かると、南の王は残念そうに傍にいた后に凭れかかる。
「重い!うざい!」
しかし后はぞんざいに王を引きはがすと、后とは思えない足取りで部屋から立ち去ってしまった。どうやら南の王のふざけっぷりに嫌気がさしてしまったらしい。
「短気だな、相変わらず。」
しかし南の王は気にした様子はなく、いつもことと受け流していた。
一方東の王は、その二人の様子に驚いていた。以前は愚王と言われ、自身の気に入らないことがあれば、切り捨てるような残虐な一面を見せていたが、今や后に尻を引かれている。
「不思議だろ?」
そんな東の王の疑問に答えるように、南の王は笑った。
「あいつの傍にいると、不思議と素直になれる。嫌いだった王の仕事が今ではこんなにも好きになった。」
本当はお前のところにくるのも厭だったんだがな 要がこれも外交だってうるさくてな。そう南の王は言う。
「昔のお前だったら、あんなのは傍に置かなかっただろうし、そんな風に素直に仕事することもなかっただろう?」
東の王は気付いていた。王の素質を持ちながら、先代の影に魘され、王という地位に南の王が嫌気をさしていたことを。そんな王が先代のことすら受け入れ、真面目に王を務めている。后の存在によって。それが疑問でならなかった。
「あいつはこの世界の人間じゃないんだ。」
突然の南の王の告白に、東の王は驚きはしても、疑うことはなかった。北の王が人魚を后にした例もあるが、今この状況で南の王が冗談をいうとは思えなかったからだ。
「今はこの世界にいてくれても、いつか帰ってしまう時が来るかもしれない。それが数年先かも、明日かもしれない。それでもいい。それでもいいように、あいつの傍にいて、あいつに俺の姿を目に焼き付けておいてほしい。」
そのために、本当は大好きな自国のため努める王の姿を、時にはだらしなくさぼる姿を、要を愛し愛しむ姿を、素直な自分の姿をさらすのだ。
「東の、お前はもう気付いてるんじゃないのか?素直にならないと、お前の大事なものはすり抜けていくぞ。」
南の王はそう言って、東の王に手紙を手渡すと、要が出て行った扉を開けた。怒っている要を鎮めるために。
.
夜中月詠は部屋を抜け出し、宮殿の廊下を駆けた。
西の国が助けにこないなら、自分自身が逃げ出そうと決意した。元々捕虜でも客人でもない月詠には、部屋の前には警備などおらず、抜け出すには容易いものだった。もしかしたら東の国の家臣にしてみれば、月詠が勝手に逃げ出した方が都合がいいのかもしれない。王が勝手に連れてきた、“禍”なのだから。
しかしそう簡単に諦めない者がいた。
「なーにしてんの?」
宮殿の出口付近にまで来ていた月詠を呼びとめたのは、その東の王であった。
「他の奴はあんたを邪魔者扱いしてるかもしれない。でもな、俺は違うんだよ。あの憎い西の王の鼻っ柱折れるなら、お前が欲しい。」
一国の王に、お前が欲しいなどといわれて傾かない女がいないはずはない。しかし月詠は違った。そんな王を嘲笑した。
「どうして私を求める?この美貌か?」
天井から差す月光が月詠の顔を照らす。
「だがな、この容姿は王を色狂いさす魔の象徴だ。一族が産んだ、国が恐れる傾国の姫なのだぞ。」
あの南の王ですら疎んだ傾国の姫を敢えて后に迎えようとしたのは、西の王だけだった。それは月詠が狙ったからでもあったが、西の王は周囲の猛反対を押し切ってのことだった。そんな禍をもたらす姫を、たかが嫌がらせのためだけに誘拐してきた東の王は、王の自覚があるのだろうかと疑問に思ってしまう。
「お前は王の自覚はあるのか?私には見えない。こんな我を誘拐したうえ、西との関係をわざと悪化させようとしている。国を滅ぼしたいのか?」
いつ戦争になってもおかしくない状況の双国。緊迫した状況で、こんな幼稚な理由で事件を起こしたことにも月詠は怒りを抱いていた。
「どうしてそんなに西の后になりたいんだ?西の王が好きってわけでもなさそうだけど?」
東の王にはそれが分からなかった。月詠は西の王を愛しているようには見えなかった。しかし月詠は帰せと訴える。
王は月詠の腕を掴み、おもむろに引きよせた。傾国の姫を謳われるその容姿は、夜の帳の中月の光を浴びて、この世のものではない、神か何かではないかと思わせた。そんな月詠の顔は憎悪で歪む。
「私は、私は母の仇を取りたいのだ。」
月詠の母はどうやら西の国の妃だったらしい。そういえば先代の王の后は絶世の美しさという話を聞いたことがある。
「美しいという外見だけで、妃にと所望され、しかし王の愚かさのせいで国は傾いたはずなのに、母のせいにされ、“傾国”などと呼ばれる。」
数年前まで西の国は、先代の悪政により、崩壊寸前だった。昔のような活気は失われ、城には不満を顕わにした民が押し寄せ、東の国が攻めいれば簡単に落とせるのではないかと言われるほどに衰弱していた。
「そして何の罪もない母は、王とともに殺されたのだ。」
しかし革命がおこり、先代の王と后は殺されてしまった。その革命を起こした者こそ、王の息子であり、今の西の王なのでもある。
「母は、無理やり西の国に嫁がされ、后になり、王の愚行で殺されたのだ。傾国の姫などと言われてな!!」
それは月詠の母だけではない。何百年にもわたる一族の歴史の中で、そう言われ続けた。それでも姫を所望するものは後を絶たず、一国の王だけではなく、名家の当主、大手の貿易商人、中には海を支配する海賊などもいたが、すべて滅んでいった。
「“傾国”など褒め言葉でも何でもない。あれは我々を愚弄する呪いの言葉だ。」
月詠もそう言われるのを覚悟していて生きてきたに違いない。しかし西の国で言われるはずだった罵倒は、関係のない東の国で噂されてしまっている。
「私を西の国へ帰せ!私は母の仇をとるのだ。母に汚名をかぶせ、そして殺したあの憎き西の王を殺すためにな!!」
今ようやく立ち直ってきた西の国の長を殺せば、きっと月詠はただでは済まされないだろう。ただでさえ西の王は傾いた国を立て直した功労者なのだから。死罪はもちろんのこと、一族ですらどうなるかわからない。
「だったら余計に帰すわけにはいかないな。」
どうしても失いたくはないと思ってしまった。例え彼女の意志に反することになっても。
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「どうゆうことですか、南の。我が花嫁が東のに攫われたというのは。」
昨夜の報告を受けた西の王は、すぐさま南の国にやってきた。直接東の王と会うことはしないのは、それだけ嫌悪していることが影にあり、その怒りの矛先を南の王に向けるしかできなかった。
「知らないな、俺は。月の一族が勝手に西の国に嫁ぐことにして、勝手に攫われた。国は一切関与していないからな。」
しかし大陸一番の国の王は、西の王の怒りなどもろともせず、長椅子にゆったりと腰かけている。最近迎えた后のおかげでましになったと聞いたが、それでも南の王は東と西の仲の悪さに辟易しているようだ。
「いい加減にしろ、そんなに月の一族の娘が欲しいのなら別の娘を所望するか、もしくは東から攫ってこい。」
それだけ言って、南の王は長椅子から腰を上げ、「要ー、どこいるんだー。」と大声を出しながらどこかに行ってしまった。
「王、何を考えているんですか!?」
宮殿に帰ってきた王を迎えた家臣は、血相を変えて王へ駆け寄った。一方の王はといえば、月詠を馬に乗せ上機嫌だ。
「東の奴が欲しがっていたって聞いたからどんな奴かと思ったら、見てみろよ!すっげー、美人だから!!」
そう言って王は月詠の顔を覆っていたフードを外した。しかし月詠は王の予想もしないものだった。月詠は下を俯いたまま、口を噛みしめている。しかし零れる涙を抑えることはできず、馬のたてがみをしとしとと濡らしていた。
「貴様はそんな理由で私をこんな所へ連れてきたのか!?」
東の王は、西の王への嫌がらせで、西の王が所望したという美しい娘を攫ったのだという。そんあ幼稚な理由で攫われたと聞いて、月詠はあまりの悔しさで、怒りを抑えることができない。
「帰せ!私を帰せ!」
西の国の人間は東の国にはいることはできない、それはつまり助けがこないということだ。例え西の国が南の国に助けを求めたとしても、南の王は是とは言わないだろう。面倒くさいことは嫌がる上、月詠の一族を快く思っていないこともあるからだ。最後の頼みは、東の王が月詠を大人しく帰すことだ。
しかし東の王は月詠の顔を見ると、嫌な笑みを見せた。それはまるで、意地悪をする子供のような笑みだった。
「い・や・だ・ね。」
月詠は激しい絶望感に襲われ、その場に膝をついた。
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更新履歴
7/3 理由更新
性 別 | 女性 |
年 齢 | 34 |
誕生日 | 1月28日 |
地 域 | 神奈川県 |
系 統 | 普通系 |
職 業 | 大学生 |
血液型 | B型 |