DOLL~第四話『狂気の薄明』





 セラフィが屋敷に戻ると、相変わらずセラフィには仏頂顔の愛歌に迎えられた。
 「薔薇を連れてくることはできなかったようですね。」
 愛歌は琳と琳の人形、そして幼いころからの付き合いであるマリオンには優しいのだが、セラフィには冷たかった。セラフィ自身その理由に心当たりはないのだが、どうやら真珠が関係しているようで。
 「違うの愛歌、私がご主人さまに薔薇はそのままいさせてあげてってお願いしたの!」
 真珠はセラフィを庇うため、愛歌の前に立ちはだかるが、愛歌の冷たい目が和らぐことはない。むしろ冷たさは増す。
 「それくらいにしてやりなさい、愛歌。」
 奥から琳が車椅子に乗ってやってきた。車椅子を押すのはいつも愛歌の役目だが、今日はセラフィの知らぬ人形が押していた。
 琳の作る人形は外見が幼かったり、愛らしものばかりで、基本的には愛玩用として作られる場合が多い。しかしこの人形は違う。外見は20を過ぎたばかりの青年の姿をしていた。髪も瞳も黒く、更には纏っている着物も袴も黒かった。外見も威圧感が強いが、その鋭い眼光と腰に差してある日本刀がさらに増している。
 「セラフィは知らなかったようだね。彼は竜鬼(リュウキ)、私のボディーガード役をしてくれている。」
 琳の人形が欲しいため、琳を狙う者は数知れず。そのため琳は自身を守るための人形を作り出した。それは愛歌にも言えることだ。
 琳の作る出す戦闘用の人形は能力が高い。例えば琳の名を有名にした妃旺は、武術剣術弓術に長けているだけでなく、銃器を扱うこともできると言う。その能力だけでなく、琳の人形特有のからくりもある。琳の親友であった東洋人から伝来したというからくりを応用し、琳は人形たちの身体にいろいろな武器を隠した。セラフィの真珠も手に切れることのない特殊な糸を持っており、自由に伸ばしたりしまったりできる。
 この竜鬼は、真珠のように特殊な力を持っているかは分からないが、しかし腰にさした日本刀だけでも十分だろう。
 「実は今度の依頼には竜鬼を同行させて欲しいんだ。」
 琳の言葉にセラフィは驚いた。今まで他の人形を同行させたことなんてなかったからだ。
 「今回の依頼はちょっと厄介でね、真珠だけでは荷が重そうだから。竜鬼がいてくれるなら心強いと思うし。」
 琳があまりにも笑顔で言うものだから、セラフィは鵜呑みにしてしまった。

 










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