北の国に本格的な冬が来た。
極寒の地、と言われるだけの寒い冬が。

その年の冬は、平年より寒く、王は瑠璃を帰して正解だったと安堵していた。
しかし王の孤独はこの冬以上に寒く、凍っていた。

ようやく手に入ったと思ったぬくもりを手放してしまい、寒かった。
一度ぬくもりを知ってしまい、なおのこと。

何度も瑠璃を海に帰してしまったことを後悔しそうになったが、そのたびに瑠璃を失う恐怖を想像し耐えた。

 
ただただ王は、身を切る寒さに耐え続けた。

 

 

 

 

 

 
 雪解け水がさらさらと流れる中、北の大地を二本の足で踏みしめる少女がいた。
 短くなってしまった南の海を彷彿とさせる髪。幼かった顔は少しシャープなものになった。ラピスラズリの瞳は強い石を湛え、耳飾りの宝石にも負けない強い輝きを放っていた。
 「峻玄、“帰ってきたよ”。」
 王の孤独を溶かす春がそこまできていた。

 

 

この国にはある伝説が今もなお語り継がれている。
それは王と人魚の恋のお話。
それは決して悲しい結末ではなくて。
人魚は愛する王のため、家族と故郷に別れを告げた。
王とともに生きると誓って。

 


もうすぐ北の国は春を迎える。

 

 

 

 

 

 


 

※あとがき

この話は三年前の受験前に書いた最後の作品です。北の国があるように、南の国西の国東の国それぞれ三つの話があります。しかし北の国の話だけ書き終わっていたので、それをPCに打ち出し、少し文章を変えて完成させました。正直昔はよくわからず書いていましたが、今改めて読み返すと、ああそういうことが言いたかったのか……という思いがあります、相変わらず駄文ですが。
 
峻玄目線の話ですが、一人称にならないようにしました。最初に書いたものは一人称でしたが、今一人称は苦手なので。本当は瑠璃のことをもっと書きたかったのですが、これ以上書くとだらだらと続いてしまうのでやめました。実際最初に書いたものは、途中瑠璃の話が出てくるところもありましたが、赤ペンでバツされてましたし。

峻玄は大人のふりした子供のようで、母の死から一歩も動けていない迷子のようなイメージ。一方瑠璃は子供の姿をした大人のようなイメージで、最初は峻玄の母親代わりにしようかと思ったくらいでした。でもあくまで恋愛系が書きたかったので、このような関係になりましたが。

瑠璃がどうして人間になったのか、はおとぎ話なのでいいかなと思いはしょりました。多分瑠璃は人間になるためにいろんな困難を乗り越えたはず。だから北の国に戻ってきたとき顔立ちが大人ッぽくなっているに違いないと思いました。
瑠璃は“さよならは言わない”と言った時北の国に戻ることを決意した瞬間であり、また“帰ってきたよ”と言った時は南の国に戻らない意志を示しています。こんなにも強い瑠璃に対し、なんでこんな峻玄はヘタレなんだろう……と涙が出ます。

このサイトになってから初めての完結ものであり、しかも恋愛もの。
皆様に楽しんでいただけたら幸いです。