ミニマム続き。これは裏じゃないです。
オリキャラ出てくるんで苦手な方はスルーで。これを飛ばしても支障はないです。というか支障ないように出来たらいいんだが(何
頑張る…
地上に降りて数分、ずっとショッピングモールあたりでうろついていた。人込みはあまりいい気はしないのだが、それでも探していかなければならない。
うちでの小槌なんかあるわけ無いよな、などと苦笑してしまった。あれば早い話だ。多少残念でもあるが。小さいなら小さいながら出来ることがあるんじゃないかと思うんだ。
それでも仕事を全て押し付けられるのは困る。書類を片付けることなら出来るが、全ての兵を取り仕切ったり等、出来る訳がない。そして代表関連。これは個人的にかなり重要だ。あの人だけには絶対に会いたくない。そのためにも、一刻も早く元に戻ってもらわなければ。いや、第一、何故ミニマム化したというのか―
その時、懐から覗いた無線機に気がついた。何件か連絡が入っているようだ。
履歴を辿り、ボタンを押す。数秒。
『リグディ大尉ですか』
「エヴィオル中尉か?」
はい、と返事が返ってきた。褐色肌の若い青年が頭に浮かぶ。
「悪い、気付かなかった」
『いえ。今、どちらに?』
「地上のショッピングモール。ちょいと訳ありでな。どうかしたか?」
『部屋におられなかったので』
「成る程。…ってお前、部屋に入ったの?」
『すみません、どうしてもお伺いしたいことがあったもので。ただ、今連絡したのはまた違う理由なんですが』
「ふうん。で、見たか」
『はい?』
「机の上」
一瞬の沈黙。
『ご存知なんですか』
「ご存知も何も俺、第一発見者」
『では、あの服の依頼というのはまさか、』
「准将の」
淡々と答えた。
あのカッター服は、エヴィオル中尉に作ってもらったものだった。家庭が洋服店なので、自身も多少は出来るとのことだ。
だから頼んだのだが。
『早急に作れ、って…まさかこの事とは』
「悪い。ドレスじゃお気に召されなかったんでな」
『は?』
「今の聞き流してくれ」
咄嗟にそう付け足した。言いすぎると後が怖い。
「取り敢えず今まで普通にやれてたことが出来なくなったからショッピングモールに来てるんだよ。道具捜しに」
わざわざ伏せる必要も無くなったので、少し前に言った言葉を訂正した。
「いいの無いかな。先ずは水飲む道具とか」
『それなら心配なさらずとも、小さいカップとかありますよ…でも来たときには既に水飲んでましたけど、准将』
「は?」
今度はこちらが聞き返す番だった。
あれほどにまで苦戦していたのに。どうやって。
『ご存知ないんですか』
「や、方法無いから下来たんだけど。え、飲んでるって、」
『ちょっと待ってください。リグディ大尉、机の上が水浸しになっていたのは知りませんか』
「はっ!?」
は?水浸し?洪水?なんで?
『ガラスのコップが倒れてたんで、その中身だと思うんですが』
「何をどうしたら倒れるのか、本当理解出来ないんだけど」
『准将が倒したんじゃないですか。体中びしょ濡れですし』
「びしょ濡れ?」
『服に水を染み込ませて、それを飲んでます…ね。代わりにタオルを体にかけときました。風邪ひいちゃうかもしれないんで。というか見ていていたたまれなかったんでお飾り程度な極小カップ渡しといたんですけど』
「…そうだったんだ、へぇ。感謝するよ」
一体何してくれてるんだ准将は
冷や汗を拭い、無線機を切ろうとする。その時、制止の声がかかった。
「なんだ?准将が何か…」
『いえ、個人的な用です。すみませんが、布を買ってきていただけませんか』
「おいおい、俺今そんなに持ち合わせてないぞ」
『買えたらで結構です。ずくで駄目になった閣下の服の代わりを作りたいんですけど、いいのがなくて』
「そういうことか、分かった」
今は確かタオルだけと言っていたが。確かに風邪をひきそうだ。そして目の毒だ。
『後、准将が大尉にお話したいみたいなんで代わりますね。言いたいことがあったんですが…准将からお聞きになってください』
「は、え、ちょっ…」
待て、代わるってなんでだ。俺の意思は関係ないのか。というか、言いたいこと?
間が空いた。コト、と音がする。確かに、あれほど小さくては無線機も持てないだろう。
そう考えていた刹那。
『この、馬鹿者が!』
「わっ!」
思わず無線機から耳を離した。
『貴様、外出する際ロックをしないのか。直視されたではないか!』
「すみません、忘れてました。つか怒鳴らないで下さい、耳痛い!」
『お前の声のほうがでかい』
「それは多分あんたが小さいからです。これ普通」
実際、周りに人がわんさか居るのでその雑音のほうが煩いと思うのだが。
「で、言いたいことというのは?」
『エヴィオル中尉に提案されたのだが、私から言おうと思ってね。話す気配がないもので』
エヴィオル中尉のすみません、と詫びる声が無線越しに聞こえた。彼にしては珍しい失敗だ。
「それで?」
『今はこのままでいく』
「は?」
思わずそんな声が出た。あんなに元に戻りたかったのになんでまた急に。
『ギアが届くまで待つ』
「ギア?」
『エスナ』
「あー…成る程ね」
エスナ=ギアで治す。確かに賢い、確実な方法だ。
「まだ先なんですか」
『いや、明日に必ず持ってこいと言っておいた』
「あんためちゃくちゃだな!」
頼まれた側の苦労が知れる。
「取り敢えず了解しました。食べるのはちぎるか折るかして食べればいいし。水も問題ないですし。布買ったらすぐ戻ります」
『あぁ。道草食うなよ』
「知ってますって」
そう言うと無線を切った。
明日に元に戻れる。つまり、もう悩む必要はないということだ。内心ほっとする。これ以上隠し通せる自信は無いし、たんまりとくる仕事も避けられるわけだ。
懐に無線をしまいかけ、不意にはっとする。
「エスナ=ギア…」
待て。確か。
「…俺確か持ってたよな」
それも准将から借りたのが。
さっと鳥肌が立った。無線機が落ちる。慌ててそれを拾うと、すぐにしまった。
「…」
冷や汗が出た。
俺に貸したこと自体を准将は覚えていないみたいだった。それでも今更切り出せる訳がない。言ったとなると後が怖い。
「…黙っとこう…」
罪悪感が燻る。
それを無理矢理払い、何でもないようにまた足を進めたが、内心ヒヤヒヤが止まらなかった。
帰艦後、准将に「顔が真っ青だが、風邪でもひいたのか」と尋ねられたときは生きた心地がしなかった。