一日一個は後で。今はこっちを先に。
因みに無題3の続きではありません^^(何
何かが振動するような音を耳にする。わざわざ見て確認するようなものでもない。無線機だ。
…おい、今何時だよ。夜中だよな、今。任務終わったから寝てるんだよな、俺。
パトロールから戻って飛空艇の整備をして、新型の飛空艇のβ版の飛行テストをして。その後、緊急の用で地上に駆り出されたという、いつも以上にごたごたした日だった。それで自室に戻ったのが24時。
で、今はというと。
時計を見て時刻を確認する。
AM2:12。完璧夜中だ。
だが無線の振動は止む気配がない。
「あぁぁ、ったく誰だよこんな遅くに!!」
俺は嫌々ながらも受話器を手に取り、耳に当てた。瞬間、聞き慣れた声が
『遅い』
と一発。
「遅い、って…まぁ確かに遅いですね、もう一つの意味で。准将、今何時か知ってます?睡眠妨害で訴えますよ」
『今すぐ私の部屋に来い。早くだ』
おい無視か。他人の意思は度外視なのか。
そう言いかけたが口をつぐんだ。いつもと准将の声の調子が違う気がした。よく分からないが、いつもの威厳というものがない。…准将の声、震えてる?
『…頼む』
か細い声だった。
こんな声で言われてはもう断るわけにはいかない。
何があったのか全く分からない。ただ尋常ではない。それだけは確かだ。
「了解です。今すぐにでも」
『あぁ』
そう返答すると、無線を切られた。取り敢えず早くきてほしいらしい。話すだけ時間が無駄だということか。
取り敢えずぐずぐずしている訳にもいかない。いつもの戦闘服を着て、足早に准将の部屋に向かった。
彼はどでかいベットの縁に腰掛けていた。
うっすらとした明かりが点いていて、彼が見える。それでも俯いている上に横向きのため、表情がよく判らない。
しかし広い部屋だと改めて思う。ベットまでの距離が長く感じられる。
流石司令官。他の部屋とは全然違う。
そのぼやきが聞こえたのか、准将がこちらを向いた。何を考えているのか全く判らない。いつも以上に無表情だ。
「リグディ…」
だが声はさっきと変わらない。あのか細い声で呼ばれた。今にも消え入りそうだ。
やっぱり何かあったのか。
俺は准将に近寄り、声をかけた。
「一体どうしたんですか、こんな夜中に寝もしないで」
「寝ていた」
「え?」
「さっき起きたんだ」
「なんで?」
「悪夢を見た」
「は?」
悪夢?
「そうだ。だからお前を呼んだ」
「だから呼んだ…え、じゃあこんなに声がか細いのは悪夢を見たから?」
「か細いかは知らんが」
大事と思っていただけに、少し力が抜けた。それでも、准将の顔色は優れないままだった。
「一体どんな夢を見たんですか」
どんなものか気になって尋ねると、彼は弱々しく顔を横に振った。苦痛に歪んだ表情。
「聞くな。思い出したくない」
少しばかり刺を含めた声音で言う。それでも弱々しいのは相変わらずだ。
本当、ここまで准将を追い詰めるなんて。余計に気になったが、これ以上は追求しなかった。
「判りました、聞きません。それで」
「?」
「俺は何をしたらいいんですか」
呼ばれた理由をまだ聞いていない。
准将は静かに息を吐いた。
「何もしなくていい。ただ傍にいてくれ。朝まで」
「…それだけ?」
「ああ」
今は一人でいたくないのだ。
「了解です。いつまでもいますよ」
助かる、と一言。その時こちらに向けた顔は、何故か酷く淋しそうだった。
何度も思う。やはり何かあったんだな。
「なんかあったら、いつでも言ってください。あんたすぐ溜め込みそうなんだから」
准将が驚いた顔をして見てくる。そして暫く間をおいて、「ああ」と返ってきた。
…また。
「明らかに生返事じゃないですか。俺に言いたくないことでもあるんですか」
「それ、は」
カマをかけたら的中。
図星か。
「それでもいいです。俺はあんたについていきますから」
「…お前」
「あんたの右腕ですから。あんたが拒否しても、どこにでもついていきます。…って、恥ずかしいこと言わせんな!たく!」
何故か無性に恥ずかしくなった。畜生。
准将がくすりと笑った。
ようやく笑ったな。あんた。
あんたはやっぱり笑ってたほうがいい。なんて。
「私の右腕だと。よくもまぁ胸を張って自称できるな」
「何気酷くねぇ?」
お互いに顔を見合わせて、思わず吹き出す。
それから他愛のない話が数分続いた。今日の任務のことだとか愚痴だとか。それ程度の話ばかりだったが、いい暇つぶしにはなった。
その最中に、准将が眠りについたのは直ぐのことだった。