無題5の続き。はい、ミニマムの続きです。
もう題名つけられるよなコレってことで適当に考えて、咄嗟に浮かんできた題名付けたらあーなった。(爆)
リグディの部屋に着いてから数時間程経った。今は机の上にいる。
ともかくだ。もう二度とこの格好で廊下を渡るものか。絶対に。
「あれでも見つからないように努力はしたんですよ。それに、普段滅多に人も来ないですし。何があってか今日は遭遇しまくりでしたけど」
「言い訳など聞きたくない。元の姿に戻ったとしてもこれではろくに歩けないではないか!」
「本当すみません。以後気をつけます」
「頼むぞ本当に」
了解、と右手を軽くあげて敬礼してきた。すぐにそれを崩し、笑いかけてくる。
「で、どうですか。新しい服の着心地は」
「いい。あのドレスに比べると文句ないな」
ついさっき、リグディから新しい服を渡された。仕立て経験豊富な部下に、無理を言って作ってもらったらしい。
時間がないのもあって、丈を少々長くしたTシャツだけで足が多少ひんやりとしているが、先程の女物より断然いい。
なのに、リグディがまともに私を見ないのは何故なのだ。
「リグディ、先程から目が泳いでいるが」
「直視出来るわけないでしょうが。目のやり場に困る」
「何故だ」
「言えません。准将の生足がどうしようもないほどエロいなんて」
「は?」
「なんでもないです」
生足?追求する間もなく私の言葉はリグディに打ち消される。
リグディは尚もぶつぶつ言いながら、傍らにある袋をいじくりだす。中をごそごそと掻き回し、何かを探しているようだった。
「で、どうしますか」
「分からん。ただ、先ずは戻らなければなるまい」
「どうやって」
「それを考えているのだろう」
「まぁそうですけどね…っと。あったあった、クッキー」
袋から取り出したのは特大サイズの…否、至って普通のクッキーだった。
「こんな時によく食べる気になれるな」
「俺のじゃないです。准将の」
「いらん」
「そうは言ってもあんた、朝から何も食ってないんでしょ。取り敢えず何か食べないと」
そう言いながらクッキーを手渡してきた。いや、正しくは目の前に置かれた。
普段何気なく食べていたクッキーが凄まじく大きい。どこから手をつけたものか。持って食べようものなら下敷きになるのがおちだ。
不意に、クッキーが視界から消えた。
「あ」
「このままだと食えないのも無理ないですよね」
拾いあげたクッキーを見ながら苦笑するリグディ。
そしてクッキーをパキン、と半分に折るとそれをまた半分に折る。幾分か細かくなったクッキーが再び目の前に置かれた。とは言え、かけら屑だけでもまだ大きい。
「少しずつ食えばなんとかなりますって、多分」
「だといいのだが」
一番小さなかけらを手に取る。自分の拳と同じくらいか。クッキーにしては大きい。
一かじりした。思っていたより脆く、簡単に崩れる。口の中に甘い味が広がった。
「美味いな」
「良かったです。というか、准将が甘党で助かりました。俺なら食えませんもん、甘すぎて」
「お前、辛党だったか?」
「いや、そんなんじゃないんですけど。クッキーは好きですよ。ただそれが甘すぎるんです」
「なら何故持っていたんだ」
「二つ貰ったんで。一つ食っただけでもう駄目」
取り敢えず口に合わなかったらしい。
私は特に問題なかった。ただ、始めに食べたクッキーのかけらと、もう一つ同じくらいのかけらだけで限界だった。かけらだけでもまだ大きいのだ。あれだけで十分事足りる。
「もう終わりですか」
「お前には分からないだろうな。クッキーで腹を満たしたことのないお前には」
なんか苦しい。口が渇く。
「水はないのか」
「ありますよ。ありますけど。どうやって飲むんですか」
思わず沈黙。
全然考えていなかった。
「…水、が」
「問題は山積みですね、准将閣下」
またも苦笑しながら見下ろしてくるリグディ。
「普通のコップだとあっぷあっぷですよ」
「知っている。誰がそんなヘマをするか」
コップで溺れる。いくらなんでもそれは恥ずかしすぎる。
と、リグディが近くのガラスコップに水を注ぎ、一気に飲み干してまた注ぎ足す。
「…貴様何をしている?」
「あーすみません、准将がクッキー食べてるのみてたらこっちまで喉が渇いてきて、つい」
「つい、ね。なるほどいじめだな!」
「いじけないで下さいよ。まぁ、取り敢えず水は飲めないと」
「飲みながら言うな」
渋々といった様子で、リグディが机にコップを置く。
「というか先ず元に戻りたい」
「今すぐにはいかんでしょ」
「一刻も早く戻らなければ仕事も出来ないだろうが。それに異様な目で見られる」
「まぁそのうち慣れるようになりますって」
「さては貴様私を元に戻す気無いな?」
そんなことないですよ、と言いつつも奴の口の端はぴくぴくと痙攣している。
嘘だ。絶対嘘だ。
「せっかく小さくなったんですし、簡単にもどるのも気が引けますし」
「なら私のかわりに仕事をするか?部下を取り仕切り、何千もの書類にサインしてだな…」
「あーもういいです!絶対に無理!」
頭を抱える副官。
「だから困ると言っているんだ。遊んでいる場合ではない」
「確、かに」
「…だが方法がない」
自分で言ったことなのに、一気に脱力感に襲われる。
そうだな、とリグディが呟く。
「…俺、ちょっと下に行ってきます」
何かあるかもしれないんで、と一言付け足して。
「なら私はどうすればいい。ほぼ何もできないのだが」
「寝る、とか。寝たら元に戻ってるかもしれませんよ」
「却下だ。この状況で誰が眠れるか」
「じゃあ色々と部屋の中を見てまわるのはどうですか」
何か思いつくかもしれませんよ。
そう言われた。絶対に他人事だ。
その何かとやらを具体的にどんなものなのかと問い詰めたくなったのだが、かろうじてこらえる。
「じゃ、出来るだけ早く帰りますんで、待っていてくださいね」
「な…」
私がいいとも否とも言わぬ間に、彼はそう決め付けてしまったようだった。反論しようともしたが、他に方法がないので黙るしかない。
部屋を出ていく間際、「だからといってなんでもかんでも触らないでくださいよ」と子供に言うように釘をさされた。
「火事になったりしたら困るんで」
そしてドアが閉まった。
止めようと咄嗟に足を進めたがもう遅い。
机の上に取り残された私は、なす術もなく座り込んだ。
「ややこしいことになったな…」
何があったのかさえ分かればいいのだが、本当に何も思い浮かばない。昨日もいつもどおりに仕事をして、食事をしてシャワーを浴びて。リグディと軽く話をした後、寝た。食事に何か入っていた様子もなかったし、シャワーもなんともない。リグディにも何かされた覚えはない。手掛かりになるものは見当たらなかった。
万事休す。
溜息をつきかけた時、足がひんやりと湿ったものに当たった感覚を覚えた。そこに目を向けると、服の裾が濡れていることに気付く。近くには水滴が点々と。
「これは…」
おそらくリグディが水を注いだ時に零れたのだろう。リグディばかりに目が向いて、雫が落ちた事に全然気がつかなかった。服の裾が濡れたのは水滴のせいだったのか。
濡れた服を何気なく見ていると、不意にある考えが思い浮かんだ。それも大胆極まりない。
だが今はどうしても水が飲みたい。
「布、か」
そう呟いた後、私は何かに突き動かされるように立ち上がると、水の入ったコップに近寄る。二度目に注がれたまま手をつけられていないため、水はたっぷりと入っている。
「悪く思うなよリグディ」
誘惑に負けた。
心の中でそう言い訳をして、一歩下がって右足を後ろに引く。
そしてガラスのコップを力任せに蹴りつけた。
…続くね多分。つかもう続きが頭の中でもやもやと。
多分オリキャラ出る。今回出さずにすんだけど。その子との会話が主になると思うんだ(何