『聞いたよ。リカさん、フッたんだって?』
「あっ…あぁー…ははは……うん」
『残念だなぁ、これでもうお好み焼き屋で働く一之瀬くんは見れないのか』
「やめてくれよ……手術前なんだからあんまりからかわれると俺泣きそう」
『ごめんごめん』

アメリカが負けてしまったのは正直悔しい。
もしも俺があのピッチに立っていたならば、もしかしたらあの不落の要塞を突破できたかもしれない。
そう思えば思うほど悔しくて仕方なかったけれど、今はその悔しさが手術を控えた俺の支えになっていた。
だから大丈夫。
決勝トーナメント進出への祝いを兼ねて電話した先の吹雪にそれを伝えたら、だったら心配いらないねと優しく笑ってくれた。
その直後の話題が冒頭である。

「で、どうだった?」
『何が?』
「リカの様子だよ。吹雪から見て、その……彼女、どんな感じだった?」
『あぁ、うん。大丈夫そうだよ。君との出会いが私を成長させるんだーってすっごく前向きだった。……強いよね』



なぁダーリン、うちな、キャラバンにおった頃から本当は知ってたんや。
ダーリンがまじで好きな人が誰か、うちのことどんな感じに思っとってくれてたのか、知ってたっていうかなんとなくわかってたんやで。
だからそんなに気ぃ遣うて遠まわしに言わんと、がつんと言ってくれや!
うちもそれで踏ん切りがつくし、覚悟ももう出来てる。
大事な手術があんのに、わざわざうちにこうして金のかかる国際電話までしてそれを話してくれたこと、めっちゃ嬉しいねん。
もう何も、いや最初っから未練なんかない。
なぁダーリン、手術のためにもうちのためにも、お互いすっきり出来るように、はっきり言うて?
うち、たっくさんの意味と気持ちを込めて、いつまでもダーリンが好きやって言えるから。………な、言うてくれる?




「……あぁ、リカは、強いよ」

女の子とそーゆー関係がなかったわけじゃなかったけど秋以外に本気になることはできなくて、アメリカではそれなりに軽い女の子としか付き合ってこなかった。
リカと同じノリの彼女達にはすんなり言えたのに、どうしてリカには簡単に言えなかったんだろう。
好意をくれる人を振るって、こんなにも辛いなんて知らなかった。

『……気分は?』
「あんなに素晴らしい子をフッた自分が憎らしいよ」

あの時電話の向こうで、彼女が最後に一瞬だけすすった鼻の音を、俺はたぶん、ずっと忘れないだろう。