「暑くないの?」
「夏着物だから、そんなに暑くないよ」
「すごい汗」
「冷や汗かな……」

気がついたら、首筋に汗が伝っていた。
緊張しすぎでしょ、って苦笑い。

結わえた髪が重たくて、ざっくり切ってしまおうかと思った。


「もっと暑くなるし」
「切るの?」
「うん」
「女の子は、けっこう簡単に切っちゃうよね」
「髪を切る理由が、失恋だけだと思わないで」
「そうだね」

忍足さんはそう言って笑った。

忍足さんは、お兄ちゃん達の共通の友達。
毎回思うのが、歳も離れているはずなのに、どうしてそこまで仲良くできるかってこと。やっぱり趣味が合うからか、それとも、忍足さんが異様にいい人だからか……

その柔和さを分けて欲しい。
主に、無意識に厳しいことを言って、まわりを引かせてしまう千登世お兄ちゃんに。

完璧主義者のメトロノームに、この人はリズムをつけて歌うように話す。
常世お兄ちゃんの、はしゃぎすぎてところどころ抜けてしまったセリフも、行間を読んで説いてくれる。

私に対しても、

私に対しても同じで、ふたりと比べてぱったりと話さない私の、言葉ではなく行動を見ている。


「何かに没頭して、集中していると、その間体感時計は止まっているらしいですよ。つまり、年を取らないんですって」
「へぇ」
「そんな感じがします」
「若いってことかな」
「複雑ですか?男の人は、若いと言われるのを嫌う人もいますし」
「そうだなあ」

考えるような顔だ。
落ち込むだろうか。
そんな、ところが、

「……そんなところが、可愛いく見えますよ」



忍足さんは、ぎょっとした顔をした。