午後の授業を終え、外国語準備室に戻る道すがら、
今日の授業は午睡にぴったりだったな と思う。
トライバルなどは完全に舟を漕いでいたし、ジェクトの息子は撃沈していた。
試験の点数は芳しくなくとも、普段の授業態度は真面目である彼らがこれなのだから、責める気にはなれない。
マティウスなどは甘いと言うのだろうがな
と胸中でごちながら、準備室の扉を開く。
ふわ と風が頬を撫でた。
目に入るのは、開け放たれた窓、そこから吹き込む風に揺れるカーテン、
そして、その前の机に突っ伏して寝ている弟。
「……セシル?」
思わず小声で囁くが、彼が起きる気配はない。
とりあえず、そっと戸を閉めた。
どこか幻想的なこの光景を、誰にも見せたくなかったのだ。
それから静かに側に歩み寄ってみる。
気配を殺しているとはいえ、ここまで無防備な弟も珍しい。
ふと、悪戯心が湧いた。
まず、髪を梳いてみた。
やわらかくうねるそれは、こちらの指をやさしく絡めとるが、彼は起きない。
そのまま指を、耳の裏へと滑らす。
「ん……」
かすかにみじろいだが、これは無意識に刺激に反応しただけだ。
起きる様子はない。
そろそろ起こさなければなるまい と言い訳をしながら、最後に顔を近付けた。
わずかに開かれた唇に、軽い口付けを落とす。
「セシル」
「ん…… にい、さん……?」
邪気のない瞳に見つめられて、もう一つ口付けを落としてしまった兄なのだった。
hosoku
準備室について
文字通り先生が授業の準備をするところ。
大学でいうところの教授室とかに近い。
しかし必ずしもそこにいるというわけではなく、試験などを作ったりなど、
あまり生徒に開示しない事項を取り扱う部屋。
間違ってもいちゃついたりはしてはいけない。
ちなみに教師陣は一部例外を除き、大抵は職員室にいる。