シェリルの心の叫び声が聞こえるようだ。
グレイスはグレイスで毎回来て欲しいわね。感心して見守っている。アルトはシェリルのわがままを聞いて言いなりになっている様に感じるが、シメる所はシメる性格らしい。手のひらで転がされているのはアルトではなくシェリルかもしれない。
「良く出来ました」
「あんたバカにしてん……?甘い」
大きく開いたシェリルの口内に今度は茶色な物体を放り込む。
「ご褒美だ」
可愛いらしく一粒一粒包まれた色とりどりのチョコレート。
「これ……」
「前に食いたい言ってただろう」
並ぶの恥ずかしかったんだそ。
照れくさそうに答えてソッポを向く。
「覚えててくれたのね!ありがとう!!!」
シェリルは感激して、アルトに抱き付いた。「えっ…あっ…待て待て」
勢い付いたシェリルごとアルトが盛大にひっくり返る。とっさにシェリルを守る様に包み込んで。
バラバラバラ
二人の上から甘い甘いチョコレートの雨が降る。
「あらあら」
私は打ち合わせだから。チョコレート拾うのよ。言い聞かせてグレイスは部屋を出た。
後には赤面するアルトと、ニコニコご機嫌のシェリルだけが残された。
.
「シェリル…好き嫌いしてたら良くならないわよ」
グレイスが飽きれぎみにため息を付く。
「食欲がないのよ」
「……そう?」
1人で食べる病院食は味気なく不味い。アルト達とワイワイ学園で食べた食事はおにぎり1個でも美味しいく感じたのに。
しかも…今日はシェリルの嫌いな人参がたんまり入ったスープだ。食欲も失せる。スープだけ飲んで人参だけが打ち上げられた魚の如く乾いていた。
パンもデザートも手付かずだから食欲が無いのは確かなのだろう。
コンコン
「シェリル入るぞ」
ノックと共に男の子の声がする。シェリルは途端に瞳を煌めかせ鏡で身だしなみをチェックする。
分かりやすい。
「入りなさいよ」
恋する女の子だわね。もう少し可愛いくなれないのかしら?シェリルらしいと言えばシェリルらしい。
マネージャーとしては当然注意すべき事だが、早乙女アルトと言う存在がシェリルにとってマイナスになるとは思えなかった。
「…あっ。わりい昼飯中だったか?」
「大丈夫よもう食べないから」
「もうってほとんど食ってないじゃないか?……お前、ニンジン嫌いなわけ?」
アルトがバカにしたように鼻で笑う。
「なっ…そんなわけないじゃない」
シェリルがカッとなって反論する。
グレイスは微笑みながら見守っている。
「ふーん。じゃニンジン食ってみせろよ」
いつもの逆襲とばかりにアルトが突っ込む。シェリルがどうにか回避したいと青くなったり赤くなったりして、
「ホークが重いのよ!!!」
とわめいた。
どう聞いても苦し紛れだ。
アルトはきょとんとして次に獲物を発見した顔になった。
グレイスはクスクスと笑っている。
1人シェリルだけが不機嫌にむくれていた。
「…アルト?」
アルトがホークを持ち上げて、柔らかいニンジンを突き刺す。
「ガギじゃないもんな。嫌いじゃないんだろ?」
「…も……もちろん…よ」
声が震えピンクの唇が一向に開く気配がない。アルトはため息をついて、シェリルの下顎を引いた。
ピンクの舌が見える。なんとなく変な気分になり赤面しつつもホークのニンジンを口内に押し込んだ。
「!!!」
アルト覚えてなさいよ!!!