スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

スプートニク

 
 ここはどこだろ?
 空と大地が交わる景色の中でライカは軽快に走っていた。肌に当たる空気は気持ちよく、目的地のない事も苦にならない。
 どこまでだって走れる。初めて見る世界だ。行けるところまで、たどり着ける場所まで。
 ライカが青い大地に脚を着ける度に波紋が起きる。それが点々と、まるで轍のように後ろに伸びていた。
 どうやら遠浅の海か湖か、空の色や雲の姿形が水面に鮮明に映り込んでいる。水平線を見失う。ふと、無限を思わせるこの世界にライカは不安を感じた。
 ついさっきまでは熱く重苦しい場所に居たような気がする。朦朧とする意識が途切れたその後に広がる景色。寂しさが胸をよぎるのは何故だろう? 体からみなぎる力。だけど見たこともない美しい景色。会いたい……。
 
「誰に?」
 
 実際に聞こえたのか、それとも幻聴だったのか、優しい声にライカは立ち止まる。自分が会いたいと思ったのは誰だろう。記憶は曖昧で答えは出ない。再び駆け出したい衝動と胸にうずく疑問が引っ張りあい、どうすればいいか分からなくなる。
 
 空が暗くなるのを感じた。雲が太陽を隠したのかと見上げると、どうもそうではないらしい。
 太陽の放つ光が徐々に弱まっているみたいだった。世界は日蝕に似た暗闇を濃くしていき、目も眩む輝きは月のような朧気な丸になってしまった。
 
「こんにちは」
 
 背後からした声に振り返ると、女の子らしきものがいた。麦わら帽子に白いワンピースが浮いていた。顔も腕も足もない。まさに透明人間、自分には見ることができない存在だった。
 
「新入りさん? もうすぐ『夜』がくるから、早くマングローブか浮浪者を見つけなきゃ」
 
 見渡す限りそれらしき影は一つもない。ライカは少女に案内を願うが、それは出来ないときっぱり断られてしまった。
 
「自分を信じるのよ。五感を、直感を。信じることが大切。マングローブはあると、誰かに必ず出会えると」
 
 少女の言うとおり自分自身が感じることを信じれば、少女は人間ではないのだろう。そして直感を信じれば、この世界は……。
 
 ふと暗闇が濃くなったかと思ったら、次第に、空に浮かぶ日蝕の月が赤く染まりだした。と同時に水面に映り込んだ月は青白くなっていく。
 世界の変化とともに、強烈な血の匂いを感じた。鉄錆に似た少し腐臭の混じる嫌な匂い。それは透明な少女から漂っていた。さっきまでそんな匂いはしなかった。足元から這い上がってくる怖気に堪えられずライカは走り出した。どこから来たのかわからない。向かう先もわからないけど少女の側にいてはいけないと悟った。『夜』は徐々に深くなっていく。水面から無数の蛍に似た光が舞い上がり始める。
 ライカが振り返って少女を見ると麦わら帽子の下には男の顔が浮かんでいた。無精髭に苦悶の表情。あの可憐な声とはかけ離れた異様な顔。そして少女の周りをゆっくり浮游しながら旋回する小型の斧に目が止まる。 
 逃げなきゃ。出来るだけ遠くへ!
 
 再び青い光の群れの中を一目散に走り出す。息が続く限り、体が動かなくなるまで。
 ここは現実の世界ではない。ライカは気付いていた。だけど肌に当たる風や眩しく感じる太陽、日差しの熱は確かにそこにあった。夢なのか、現実の延長線上か。答えはないが、ぎゅうっと胸が締めつけられる不吉さがライカを突き動かす。あれは良くないものだと。本当の終わりがあの少女なんだと。四本の脚で必死に水面を駆け抜けた。









狐謡

 
 世の中には失ってから、その大切さに気付くモノがある。その最たるモノは『日常』だろう。退屈で同じ事の繰り返しに見える日々も、裏を返せば安心安全だということだ。舗装された道と野生動物が跋扈する密林の獣道、どちらか選べと言えば私はもちろんアスファルトの歩道を選ぶ。
 だけど、大切なモノは時として唐突に失われてしまう。どんなに守ろうとしても、どうにもできない運命もあったりするのだ。
 例えばその瞬間は、下校する友達と電車に揺られている時だったりする。
 
 
 
「ねえ、雪乃。あそこに変な人がいる……」
 
「え、どこどこ?」
 
 やたら空いている電車の車両には夕日が差し込んでいた。私と雪乃は日差しを背にして座って、数学の参考書を開いていた。高校生になって初めての期末テストに向けて、猛勉強中だった。
 各駅停車の電車は乱暴なブレーキを掛けてホームに入り、自動ドアを開ける。ふと顔を上げて車両に乗ってくる人達をボーッと眺めていた私は、奇妙な人の姿が目に飛び込んできたのを小声で雪乃に教えた。
 
「夏希、どこ? 変な人どこ?」
 
「雪乃静かに! 今入ってきた人だよ」
 
 私は恐る恐る視線で変人がどれかを伝えようとした。この寒い季節に作務衣と草鞋を身にまとい、何より目を引くのは顔につけた白地に赤い模様の描かれたキツネのお面だ。
 キツネ面の男はキョロキョロと空いている座席を探しているようだった。
 
「ねえ、どこにもいないよ?」

 怪訝そうに私の顔を見つめる雪乃。私は雪乃とキツネ面の男を交互に見返して、自分の失態に気が付いた。
 
 ――ヤバい、目が合ってしまった。
 
 お面を付けているのだから相手の目など見えない。それでもこちらを見ている事は何となくわかった。とっさに顔を参考書に向けて、「ゴメン何でもない」と雪乃に謝った。発車のベルが鳴り響いて自動ドアが閉まる。荒っぽく進み出す電車。参考書の向こう側にあの草鞋が見えた。
 
「お前さん、お前さん」
 
 チラッと雪乃を見るけど何も反応せずに参考書を見ている。知らないフリをしているのか、はたまた本当に気付いていないのか。私は雪乃が遠くにいるように感じた。
 
「その娘さんに儂の声はきこえん。お前さんは、きこえるな」
 
 耳が熱くなるのが分かった。幻覚幻聴よ消えて無くなれ! と心の声で叫んでも参考書越しの足にみじんも変化はなかった。
 雪乃には聞こえないなら私が返事をしたらおかしくなったっと思われてしまう。いや、もうおかしくなってしまったのか。 突如現れた非日常に驚き、考え、逃げ道を探していた脳は疲れ果て、深いため息が腹の底から溢れる。
 
「どうしたの?」
「どうかしたか?」
 
 友達と幻聴のステレオが煩わしい。とりあえず、他人には見えないし聞こえないのなら人気のない場所でしか返事はできない。
 私が降りる駅までは7つある。電車のダイヤが乱れなければ各駅じゃなく特急で帰れたのに。
 兎に角、私が降りる駅かキツネ面の男が降りるまで知らない振りを続けなければ。
 
「お前さんは婆さんか」
「困ってる人を助けないとは冷たい奴」
「親の顔が見てみたいのう」
「腹が減った」
「握り飯とたくあんがあれば文句も言うまい」
「阿呆、阿呆! 烏の真似じゃ、上手いだろう」
「暇じゃな」
「初めは電車も面白かったが、もう飽きたな。そもそも……」
 
 うるさい。途轍もなく喋る男は独り言を、わざと声を大にしている。私に嫌がらせをしているのは明らか。
 ついに怒りを我慢できず、眉間にしわを寄せてキツネ面の男を睨み上げた。
 
「……」
 
 面の白地が夕焼けに染まって茜色。背筋がむず痒くなる。さっきまでの怒りはどこへやら、目が合った瞬間に、まるで大きな口に呑み込まれたかのように怖い。沈みかけた太陽、反対の空には藍色の夜の気配。逢魔が時。
 
「よくよく見ればいい顔をしているな。まだ幼いが食い気をそそる」
 
 キツネのお面がぐんっと顔に近付いた。腰を曲げて、まるでガラス越しの展示物を眺めるように私をしげしげと見つめている。
 そういえばダイヤの乱れは人身事故とアナウンスされていたような……。
 こめかみからアゴにつたい落ちる汗がやけに冷たい。視界が端から暗くなる。ああ、目眩が襲ってくるのだ。私は気絶して、その後の運命は、終わりなのだろうか?
 
「……、……?」
 
 男の声もはっきり聞こえない。雪乃が呼びかけているようにも思う。男の手が私に伸びてくる。だけど体は言うことをきかない。
 
 
 
 
 
 
 

最近読んだもの


恒川光太郎著
夜市
秋の牢獄
雷の季節の終わりに

田辺青蛙著
生き屏風

小林泰三著
玩具修理者

小林泰三氏はオカルトSF。といっても難解なわけではない。見せ方が上手い。

田辺青蛙氏は妖怪もの。すっきりと読みやすい。

恒川光太郎氏は独特。とっても読みやすい。




分かる人には分かる作家さんですね。
真藤順丈氏は以前に読みました。



さて、色んな意味で書き進めなきゃなぁ

どうしよう


昨夜の宇宙戦争を観た。そしたらネタが。

あ、某氏がタッチパネルは使いづらいよーと言ってたのでスマフォはやめることにした。
今のケータイも「にわか」タッチパネルで操作性の悪さは身にしみて分かりますorz

テキストデータをPCと互換出来るsugeeとか思ってたけど、それなら無線端末買ってノートPC持ち歩いた方が低コストでいろいろ便利よね?と考えました。

以下ネタ

続きを読む

すでに明けてますよ新年


今年は住民票を沖縄に移して保険証もらって歯医者に行かなきゃ。本厄過ぎたって後厄もあるのさ。

あと散歩を沢山したいなぁ。車で行けるところには限界あるし。自転車に乗れるように練習しといた方がいいかな?
よく忘れるんだけど、美しいものは案外近くにあって、自分が見ようとしてないか足を運んでないかなんですよ。
プラネタリウムで自分の部屋を満点の夜空にしてみても、外の寒い空気に震えながら見上げた夜空がやっぱりキレイで。
街の明かりで星が見えなくったって、それはそれで素敵。空が地上の光で滲んでるんだ。

だからぐーぐるあーすとか好きになれなかったり。発想は良いけど、いっそ色んなジャンルの画家やイラストレーターが実際の街をアレンジしたり忠実に描写してつなげてった方がよっぽど魅力的。同じ街でも、扉抜けた先には違う世界観が広がる。

今年は自分の脳内を上手く引っ張り出せたらいいな。
誰かに何か伝えられるように。
自分自身を信じれない私を信じてくれている人の為にも。

前の記事へ 次の記事へ