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噛む(現パロ*危険)

araya.ojiji.net←こちらからお借りしました



「ねぇ官兵衛殿?」


ラフな家服で雑誌を読む半兵衛に特に前触れも無く名前を呼ばれた。
官兵衛が現在通っている大学で出会ったこの男、半兵衛は童顔と低い身長が相まってとてもそうは見えないのだが官兵衛より2つ年上の先輩だ。

見た目の事に口を出すと途端に不機嫌になるので言いはしないが、初めて会った時は見学にやって来た部外者だと思ってしまったほどにその見た目は実年齢に釣り合わない。


「何だ」
「なーんかやけに返答に間があったような…ま、いいや」


訝しげに目を細めながらこちらを見てくる半兵衛。

ちなみにここは官兵衛の家だ。
親しくなってからは何故か半兵衛のほうからよく来るようになった。


「今日取った心理学の授業でやった内容が面白くってね…」


だが官兵衛は別段それを拒みはしない。
それは人付き合いが少なく友人も取分け多くない官兵衛がとる行動にしては珍しいものだ。


「ここの…首って甲状腺ホルモンを分泌してる器官があるんだって」
「…ふむ」


半兵衛は雑誌を床に投げ、官兵衛の背後から首に手を回した。
官兵衛は拒まない。


「で、甲状腺ホルモンって心拍数を上げる働きがあるらしいよ?」
「…それで」


うん、といった半兵衛は悪戯に微笑みながら官兵衛の首に回した手に小さく力をこめる。


「どう?ドキドキする?」
「…」


官兵衛の首の血管が脈をうつのが手に伝わる。
ぐ、ともう少し力をこめようとしたら官兵衛の左手に半兵衛の右手首を掴まれた。


「止めよ」
「…つれないの」


そうつまらなそうに呟くも離れることはせず、首を覆っていた手を奥にやり官兵衛の首に抱きつくように腕を絡めた。


「官兵衛殿ってさガタイ良いよねぇ」
「別段たいしたことはしていないが」
「ふうん、羨ましいなあ…俺これでも毎日努力してるのに」


自分が身体の小ささにコンプレックスを持っている事を知っている官兵衛に少し嫌みたらしくそう言うと黙られてしまった。


「冗談だよ」
「…卿の言葉はどうにも掴めぬ」
「そう?でもね俺、別段この外見が嫌な訳じゃあないんだよね」


言いながら、官兵衛殿の首を見つめていると小さく鼓動を繰り返す箇所が目についた。
頸動脈って奴だろうか。

「確かに見た目で判断される事が多いのは腹が立つけど…」


首から目を離さないまま口元を上げてみる。
もちろん首に顔を埋めているのだから官兵衛殿の視界には入らない。
小さく口を開ける。


「それで油断してくれる人も多いんだよね」


がぶり。
そう官兵衛殿の首元、頸動脈に緩く歯を立てたら流石に驚いたらしく少し身体が強張ったのがわかった。


「ね。こんな具合」
「っ…止めよ」


返事の代わりにもう一度歯を立てたら、小さく息を詰めるような声。


「ねぇ官兵衛殿」


頸動脈に這わせた舌先からどくどくと官兵衛殿の脈が伝わってくる。


さっき首に手を回した時より、早い。


「ドキドキしてるでしょ?」







首には甲状腺ホルモンがあって首を噛まれたりとかで刺激されると吊り橋効果的なアレでちょっとそういう雰囲気になれるんじゃねみたいな話をツイッターで聞いたのでおもわず…


大学生両兵衛は官兵衛殿1年と半兵衛3年みたいなかんじかな

雨上がり

ぴた。

ぴた。

ぴた。

ぴた。



見つめるのは水溜まり。

上には木。
いや正確にはそこからのびた枝と葉っぱ。
ぼくを。空を。
水溜まりを。覆ってる。

ぴた。


まだ厚い雲の奥。
薄い光に照らされた葉は透き通って。
重そうにもたげた身体から垂れる雫。落ちる。
その何人かは水溜まりへ。


ぴた。

ぴた。


一雫。もう一雫。
あの葉からも。この葉からも。

ぴた。ぴた。

一人一人規則的に。
だけども皆ばらばらに。

ぴた。





ぴた。

ぴた。

ぴた。

ぴた。


ぴた。

波紋を広げて。

ぴた。

軽快な。それでいて。

ぴた。

心静まるような安らぐようなゆったりとした。

ぴた。ぴた。

リズムを刻んでいる。

ぴた。
ぴた。


ふとぼくはおもいだす。
ぴた。

ぼくの目的はこの先ってこと。

ぴた。

そう水溜まりの向こう。

ぴた。


失礼。ぴた。
お邪魔するよ。


ぴた。



高貴で神聖なコンサート会場のようにも思える。水溜まりに。
一歩踏み入る。


ぱちゃん。

ぴた。

ぴた。

チケットなんて持ってない。


渡る。
目指すは水溜まりの向こう。岸。陸。

ぴた。

ぱちゃん。

ぴた。

ぱちゃん。
ぱちゃん。ぴた。

ぱちゃん。


乱れる。リズム。波紋。
ぼくによって。


ぱちゃん。ぱちゃん。
ぴた。


もうすこし。
ぴた。


ぴた。

ぱちゃ。


渡り切る。
ぼくという闖入者が離れる。


揺らいだ波紋が残る。


ぴた。


ぴた。

けれど。

ぴた。


ぴた。

ぴた。


ぼくが揺らがせた波紋なんてすぐに消え去っていて。


ぴた。


ぴた。


ぴた。


まだまだ。
このコンサート。

ぴた。
ぴた。

終わらないらしい。

ぴた。

ぴた。


ぴた。



ああ残念。

ぴた。ぴた。

ぴた。
ぴた。


ぴた。


最後まで聞きたかったな。


ぴた。


ぴた。



ぴた。




ぴた。













ぴた。











ぼくは退場するね。

花見日和

青い。青い。
今日は目が奪われるような晴天だ。

それに春らしい陽気。


こんな日に寝ないでどうするのか、半兵衛は梯子を使って上った屋根の上に寝転がりながら上機嫌だった。


「あー…でもそろそろ遅咲きの桜も咲いてきたか」

空と庭の桜の、青と桃色の境界をうとうとと見下ろしながら思い出すのは今も仕事ばかりであろう堅物の相方。


「(こんな陽気、天気に満開の桜を官兵衛殿と見れたらどんなに…)」


良いだろうなあ。

うん、この天気のうちに誘いに行こう。
いやでもこの天気に寝ないのも勿体無い。
ちょっと、ちょっとだけ寝たら誘いに行こう。
そうそう、ちょっとだけ。








「…はっ」

目を開けるとすっかり暗闇に呑まれた景色が映った。
あまりの寝心地の良さにすっかり寝てしまったらしい。
しまったと愕然とする。

こんなに良い花見日和を寝過ごしてしまうなんて…自分らしからぬ失態にすっかり暗くなった夜空を見上げて頭を抱えた。


「あー………いや、『この空』ならまだいけるかも」

半兵衛は空を見上げたまま何か閃いたように呟くと、再び梯子を使い急いで屋根を下りて行った。




「宵は月が出たか…」

あらかたの仕事を終えた官兵衛が外を見ながら一人ごちていると、場を読まない騒がしい足音がこちらへ向かってきた。
そのままノックも鳴く、すぱんと障子が開く。


「官兵衛殿!」
「…卿か。今日は随分遅くに来たな」
「あー良かったー起きてて」
「因みに何用だ」
「お花見しよう」


これから、と縁側に繋がる障子を全開にして外を指差した。
真っ黒な紙に穴を開けたような満月が縁側から見える満開の桜を照らしている。


「月明かりに照らされる桜ってのもなかなか粋だと思わない?」
「…また唐突な……だが一理あるな、よかろう。しかしやはりこの時間は少し冷えるぞ」
「そこんところは抜かり無し!はいこれ」

そう言うと手に持った瓢箪を一つ得意気に手渡した。
ちゃぷん、と瓢箪が鳴く。


「こんなに綺麗な月と桜。なかなか良い肴になるでしょ?」
「酒か…気が利くな」
「どういたしまして」


二人は縁側にしゃがみこむと月が照らし出す桜に目を向ける。
世には夜桜というものがあるがなるほど、月の薄光を利用してぼんやりと輝く桜は太陽に透かされていた昼の時とは全く違う表情をしていた。


「綺麗だな」
「うん」

ちゃぷん。
半兵衛は微笑みながら軽く瓢箪を傾ける。


「これもそれなりのは用意したんだ」
「ふむ、頂こう」
「うん。御代わりもあるからたくさん飲んでよ」
「確かに。美味い」


官兵衛の思ったより勢いのある飲みにつられて半兵衛も酒が進む。
春とはいえ夜の肌寒い空気も、酒の力であまり気にならなくなっていった。

怪我の巧妙とはいえなかなかの景色、美味い酒、それに隣には官兵衛殿。
今年の花見は随分上等だ。


「官兵衛殿ー」
「何だ」

呼び掛けるも桜に釘付けなのか視線は動かない。
その手を一つ盗む。


「…もう酔ったか」
「酔ってないし」

手を重ねる。
ひんやりとした彼の手が酒に浮かされた体温に心地よい。

さらに自身の身体を寄せた。
少し高いが間近になった彼の横顔が酒でほんの少し色づいていて桜のようで、俺はこっちの桜のほうが好きかもしれないなんて本人に言ったら一蹴されそうな事を思った。

彼の視線は相変わらず。


「ねえ少しは俺も見て欲しいな」
「花見というのは桜を見るのではなかったか」
「あはは、つれないの。折角二人なのに」


へらへらと笑う。
別になんてことはないのだが、こんなに愉快で幸せな気持ちなのは酒のせいか誰かのせいか。


「っ」


唐突に強い風が一つ通りすぎた。

思わず目を閉じる。
風はそんな自分の頬を撫で髪をはためかせて通りすぎる。
ざあっと世界がざわめく音。


目を開けると、風に散った花弁を追いかけていた彼の視線がその進路を変えたところで。


「(ああ)」


目が合う。

どちらともなく身を乗り出す。

その意味がわからない年ではない半兵衛はもう一度目を伏せた。


「(本当、今年は上等な花見みたい)」


風に飛ばされた桜の花弁のひとつが、重なった二人分の影の上に静かに落ちた。





おわり!
酔っぱらっちゃいないけど酒に背中をおされるレベルでいちゃつけばいいなと思いました まる

洒落にならない

今日は日射しが暖かい。
暦を見ると今日から4月。もうすっかり春だな、と官兵衛は日溜まりが暖めた城の外周廊下を歩いていた。


「桜もはやいものはもう満開か…」

庭を淡い色で彩る桜達を眺めながら、行事事には隙が無い同職者の事を考える。


そろそろあやつが酒でも持って部屋に押し掛けてきそうなものだな。いやしかし、たまにはこちらから誘ってみてもいいかもしれん。
そう考えつつ歩いていると、進行方向から近づいてくる足音。


「む…」


噂をすればなんとやら。
向かいから歩いてくるのは半兵衛だった。


「半兵衛、」
「・・・」
「?」
「・・・」


官兵衛が声をかけるも、顔も見ようとしないまま横を過ぎて半兵衛は行ってしまった。

妙だ。
いつもは時にこちらが五月蝿く感じるほどに官兵衛に関わってくる半兵衛が、これはなかなか珍しかった。


「・・・」


何か体調に不良だの、急ぎの用でもあったのかもしれない。半兵衛にも都合はあろう。
そう解釈づけるも官兵衛はいまいち釈然としない気分だった。





「半兵衛」
「何?」
「何か心配事でもあるのか?」
「別に」
「体調は?」
「普通」
「…そうか」
「…」


夕刻時。
いつものように食事の席で居合わせた半兵衛に今朝の件をさりげなく聞いてみるが、どの答えも嫌になるほど簡潔で、官兵衛の予想も肯定してはくれなかった。
質問以上の事柄は何も口にせず、静かに夕食を口に運ぶ半兵衛。その目は全くこちらを見ない。嫌に拒否的に感じられるその態度に、官兵衛はそれ以上何も言えなかった。


「(何か私は半兵衛の気に障る事でもしたのだろうか…)」

自身の御用部屋で書類を書き連ねながらここ最近の日々を思い返すが特に思い当たらない。
そもそも昨日までの半兵衛は官兵衛の御用部屋にやって来ては仕事の邪魔をしていたし、機嫌だって悪くは無かったと思う。


「(そうなると何か、私が知らぬ内に半兵衛を傷つけてしまったか…?)」
「・・・さぁ・・」
「む?」


突然部屋の外から半兵衛の声が聞こえたので、筆を置いて襖の方を振り向く。
襖の向こうに人影が二つ見えた。何か話しているようだ。


「俺も・・正の気持ちよくわかる・・よ」
「・・だろ・・・」
「何で・・殿なんかに・・・」


いまいちよく聞こえない。
官兵衛は後ろめたい気持ちを抑えて、襖の向こうへ聞き耳を立てた。


「でもさ半兵衛、お前がそんなこというなんて意外だよ」
「そうかな」
「だって一番官兵衛と仲良かっただろ?」


なんとか聞こえる。
声から察するに話しているのは半兵衛と清正のようだ。会話中に自分の名前があって少し驚く。


「ああ…俺、飽きっぽいからさ」
「飽きっぽい?」
「初めは面白そうって思ったんだけど、そうでもないんだもん。もう官兵衛殿なんて飽きちゃったよ」


酷え奴だな、と言う清正の声を最後に会話が遠ざかっていく。
官兵衛の頭には半兵衛の最後の言葉だけが残る。


「なるほど…『飽き』か」

今日一日の半兵衛の態度を思い返し鼻で笑う。
あれはまぎれもない拒絶だったのだ。それに気付けなかった己が酷く馬鹿者に思えた。

体調不良。心配事。
私は何を期待していたのだろう。


よく考えれば私に興味がある時点で稀有な者だったのだから、こうなったところで何ら不思議とは感じなかった。
ただ。


「・・馬鹿者め」


心臓を串刺しにされたような痛みがとても、煩わしかった。






結局その夜はあまり眠れず、官兵衛は昨日よりも重くなった足取りで桜咲く庭に面した外周廊下を歩いていた。
口からは鬱屈とした気持ちを出すように深い溜め息が吐かれ、顔はわかりづらいなりにいつもよりさらに険しいように思える。


本当に他人というのは勝手極まりない。
軽々しく誰かを判断し、その態度でこちらがどう考えるかなどは考えもしないのだ。

そんなものは前からわかっていたし気にかける事も止めていたが昨日の半兵衛の台詞を思い出してはそんな事を考えた。
全く、煩わしい。


荒む心は捩じ伏せたまま御用部屋に帰りさらさらと書類を消化していると、すら、と背後で襖が開く音がした。


「官兵衛殿?」
「・・・」


半兵衛だった。
今更何の用かは知らないが、現在の苛立ちの根本と向き合う気にはなれず筆を動かし続ける。


「酷いなあ、無視?」
「・・・」
「こっち向いてよ官兵衛殿」
「・・今は卿と話す気になれん」
「・・・」


半兵衛の、んーと考え込むような声が聞こえてしばらく沈黙。


「もしかして昨日の、そんなにこたえた?」
「・・・」
「ねぇ官兵衛殿って昨日が何の日だったか知ってる?」

襖を静かに閉め、中に入ってくると横に正座してこちらの顔を覗いてきた。


「そんなことはどうでも良い」
「どうでも良くないんだなあそれが」
「どういう意味だ」
「4月1日、エイプリルフール」


身近にいる誰かを騙す日。
と半兵衛は付け足す。

言われた官兵衛はぽかんとして半兵衛を見た。


「昨日の俺の態度とかこの部屋の前で話してたこととか全部、嘘」
「・・馬鹿な」
「こんなに綺麗に騙されてくれるなんて、これだから官兵衛殿といるのは飽きないよ」
「・・・はぁ」


上機嫌な半兵衛を横目に今日何度目かの溜め息をつき、どうやら昨日の事は全て杞憂に終わったようだと思った。


「だいたい俺が官兵衛殿から興味無くすなんてないない!だからもうこのパターンは引っ掛からないでねー」
「肝に命じておこう・・」
「あっそうだ今度お花見しようね。ホラ、ここから見える桜遅咲きなんだ」


そう言って半兵衛が指差した縁側から見える枝桜が、策に嵌められた軍師を笑っているように少し見えた。



おわり!
エイプリルフール両兵衛でした
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